第二話 『ロリ専門殺し屋、アサシンズ橘』
「それではまず、やはり人員が少ないということで部員集めをしたいと考えているんですが、何か案はありますか?」
蜜がこの部室から飛び出してからは、五分としないうちに戻ってきて、今日の活動内容を発表し、その案を俺に振る。
机を二つ重ねて向き合う形で座っている状況で、蜜はやはりと言っては何だが、視線をなかなか合わせて話してくれない。
にしても部員集めか~。
正直こんな部活に入ってくれるような良心的心を持った人間がいるかというところに問題がある。
そして、
「ロリしか募集してないんだよな?」
「はい。仮に巨乳女子が入ったとすると私たちまでもが巨乳の魅力、メリットに気づきかねない危険性がありますので」
しかもそれだけじゃなく、部活に入ってない子じゃなきゃ希望はない。
部活を辞めてまで入ってくれる子がいればいいのだが、それはゼロに等しい。
そうなると余計絞られてきてしまう。
となるととりあえずは部員募集より、帰宅部のロリ探しの方が効率的か。
「じゃあこういうのはどうだ?先生に頼んで手当たりしだい帰宅部の女子を名簿で調べて、明日から一人ひとり当たってみる。どうだ?」
俺が提案すると、少し思案する様子を見せて、一人納得したのか一度「うん」と頷いてから立ち上がり言う。
「それでいきましょう」
二人並んで廊下を歩いていると、すれ違った人たちは何やら俺たちの方を見ながらこそこそ話をしている。
「きにすんな」
あきらかに敵意むき出しハイエナのような視線でその人たちを睨め付けている蜜をなだめると、蜜は「ですが!」と、悔しそうに俺の方を向く。
「今は我慢しろ」
端的に、だが簡潔に伝えると、蜜はなんとか押し黙って俺の指示に従う。
確かにこんな変な部活に入っていれば腫物扱いされるのも自明だ。だがこの部活を創設したのは蜜だ。そしてあくまで部員である俺は創設者(部長)であるこいつを支える義務がある。
だけど俺はこの関係をとても心地いいものだと思っている。
一つのことに向かって全力疾走する蜜を、そして時につまずいたり転んだりしたら俺が立ち上がらせる。そんな関係が、どうも心地いいのだ。
本当に俺がついてなきゃどうなっているのやら。
そんなこんなで職員室の前まで到着すると、一向に中には入らずに蜜は首を傾げ「ねえシン先輩」と言いながら尋ねた。
「誰に聞けばいいんですか?」
あー、そういうこと。
「そうだな、とりあえず部活動の主任に聞けばいいんじゃないか?」
「それって誰でしたっけ?」
「確か国語科の橘___」
「げっ………!」
俺が名前を言い終える前に蜜は露骨に嫌な表情を作ると、恐る恐るといった感じで聞いてきた。
「その先生って確か爆乳美人で有名な………」
「ああ確かそんな感じで言われてるのも聞いたことがあるような」
「無理です無理です無理です!あの先生未発達なこの私を、虫を見る目で毎回見てくるんですよ!思い出すだけで末恐ろしいです………」
目をバッテンにして両腕で俺の服を掴む蜜を見かねて、やれやれとため息をつく。
「あのなぁ、先生が生徒によって対応を変えるはずがないだろ?先生は生徒に対して皆平等に接しなきゃいけないんだ」
「そんなことありません!きっと橘先生は……いえ、アサシンズ橘はこの世のロリの専門殺し屋なのです!私が殺されるのも___」
「私がどうかなさいましたか?」
「ひぅぅぅぅぅぅ!!!!!!!!!」
まさかのご本人の登場。
メガネがよく似合う女とはまさにこのことだろう、ザ・美人女教師の典型といって差し支えない橘先生は、二つの豊満な胸を携え、黒曜石のように黒く艶のある髪の毛をさらっと手で流し、俺たちを交互に見る。
俺も急な出来事でかなり戸惑っているが、蜜は俺の後ろに隠れて「どうか命だけは……」と小声でつぶやいていた。
俺の背中でうずくまっている蜜からはものすごく震えているのが感じられ、どうしたもんかと思っていたら、それを考慮してくれたのか、向こうから話してくれた。
「そこまで怖がらなくても、私授業中とかのとき高岡さんから毎回変な目で見られてるから、何かしちゃったのかなって。だから何回も話しかけてみてるんですけど……」
「おい蜜どういうことだ?」
「騙されないでくださいシン先輩!これはハニートラップです!これに乗っかると気づかぬうちに支配下にされて、挙句の果てには……」
「た、高岡さん……!」
橘先生は少しこちら側に近づこうとしたのだが、蜜が過敏に反応して、
「シン先輩に任せましたぁーーーーーー!!!!」
そのまま廊下をダッシュで走って去っていく蜜であった。
その走っていく蜜が角を曲がっていなくなったところで橘先生の方に向き直る。
とても悲観に満ちた表情で、俺と同様蜜の走っていった姿を見送っていた。
「なんかすみません」
そしてなぜか俺が謝っていた。