第十話 『突然の入部希望者』
翌日。
放課後のSHRも終わり、カバンをもって部室に向かおうとすると、一人のクラスメイトに話しかけられた。
「あの安藤君、ちょっといいかな?」
「え、俺?」
あまりの出来事に、自分が安藤真司という人間なのかを忘れそうになってしまった。
しかも話しかけてきた相手が相手なのだ。
学校一の美少女、如月 皐月さん。
成績優秀スポーツ万能で非の打ち所がない爆乳トップカースト。
そんな陰キャな俺とは真逆に生きている人間がなんで?
「相談したいことがあるから放課後ちょっといいかな?」
クラスに残る人たちが、物珍し気な視線を俺と如月さんに向ける。
如月さんは、そんなの気にも留めずに俺をじっと見つめる。
少し前のめりになって俺の返答を待っている如月さんは、前に垂れてきたきれいに整ったストレートピンク髪を右手でかきあげる。
俺はその動作だけで心臓が跳ね上がる。
「放課後はほら……部活があるから」
俺は視線をそらしながら答えると、如月さんは「ちょうどよかった!」と言い、俺の腕を掴む。
「そこでお話しいいかな?」
こんな美少女の頼みを断るわけにもいかず、渋々了承するのであった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「シン先輩!誰ですかその爆乳魔人は!」
部室に入ると開口一番、俺の隣にいる如月さんを見てバッと立ち上がり驚愕の目で言う。
しかし、アサシンズ橘といい爆乳魔人とは……。
こいつの巨乳嫌いもここまでとはな。
「安藤君と同じクラスの如月皐月でーす。よろしくね蜜ちゃん!」
最後にウィンクをつけると、あからさまに虫を見る目で蜜は如月さんを見る。
「私の名前を気軽に呼ばないでください!爆乳魔人皐月!」
「わーい!蜜ちゃんにあだ名付けてもらえた!」
そう言いながら如月さんは蜜に駆け寄り、そのまま抱き着く。
陽キャとは恐ろしいもので、こうして一気に距離を詰めていくのだ。
「や……べで……………くださ……び(やめてください)」
爆乳に埋もれている蜜は、さながら海で溺れている風に見えて面白い。
「私も蜜ちゃんにあだ名付けちゃおっかなー。んー………、『みっちゃん』なんてどう?」
「シン先輩、爆乳魔人皐月を早く駆除してください……。こういう人間が私たち貧乳を絶滅させかねません……」
そんな講義も虚しく、如月さんによる抱きしめは数分続いた。
数分後。
「はー……はー……」
やっと如月さんの抱きしめから解放された蜜は俺の後ろに隠れ、よほど苦しかったのか肩で呼吸をしている。
しかし、そろそろ本題に入らなきゃいけないことがる。
「なんでこんな爆乳魔人連れてきたんですか?」
が、俺が言おうとする前に蜜が聞いてしまった。まあいいけど。
「そうだ、如月さん。俺に用って何?」
素直に疑問を示すと、如月さんは「んー……」と数秒間を開けて言う。
「私をこの部活に入部させてください!」
思いっきり頭を下げる如月さん。
「「ええ!?」」
俺と蜜はあまりの出来事に、思わず驚嘆してしまう。
何がどうなれば学校一の美少女がここ、『貧乳絶滅対策本部』に入部を希望しようとしたのか。
謎すぎる……。
しかもここは蜜曰く巨乳は入部禁止となっている。
後ろにいる蜜を見ると、同じく驚きを隠せないでいた。
「ダメです!絶対にダメです!」
「でも、これには深い理由が__」
「でもダメですどれだけ深かろうが、マリアナ海溝よりも深い理由があろうと絶対にここには入部させません!」
俺の背中にしがみついている蜜も、本気の講義をする。
さすがにこのままでは如月さんも可哀想なので、「理由だけでも……」と蜜に言い聞かせようとするも、「ぜっっっったいにダメです!!」と言われてしまい、聞く耳も持たない。
仕方がないので俺だけでも聞いてあげるか。
「如月さん、場所変えて二人で話しましょう」
「はっ……!」
蜜はそこで何かいけないと思ったのか「私も聞いてあげます」と言い、結局部室で話すことになった。
俺と蜜は隣り合って座り、正面に向かう形で如月さんが座っている。
「えーとまず……」
俺と蜜は、固唾をのんで如月さんの入部理由やらを聞く。
だが、次に如月さんから発せられた言葉は、とても信じられないものだった。
「私実は、もとは貧乳から成長しない体だったんだ。だからこの胸とかは、整形によって作られた偽おっぱいで、何もしなかったらみっちゃんと同じようなちっちゃい子だったんだ」
「「え……?」」
整形によって作られた偽おっぱい?整形しなきゃ蜜と同じ貧乳ロリだったってこと?
思わぬ真実を突き付けられた俺と蜜は、ただただ呆然と偽おっぱいを眺めているのだった。