第一話 『ロリ絶滅の危機!?』
『貧乳絶滅対策本部』
一瞬目を疑うような光景にもずいぶん慣れたもんだなぁ、と己の異常さにため息をつきながら俺はドアを開ける。
ちなみにここは学校の今では物置と化した教室。
そして俺がなんでこんなあからさまに入っちゃいけないような、文字がでかでかと書かれた教室に入ったのかは、まあすぐにわかる。
「シン先輩!遅いですよ!これは世界の存続に関わる大事な……大事な……不本意ですが、大事な部活なんですから!」
窓から部室内に入る風で雪を思わせるほどの可憐な純白な髪の毛は靡き、さらにセミロングという至高を体現した少女がそこにはいた。
ドアを開け正面に腕を組んで仁王立ちしている彼女の名前は高岡 蜜。なんとも甘くておいしそうな名前をしているんだろうと思わなくもないが、実際性格は辛口。
黙ってりゃあそこそこ可愛げのある後輩なのだが、どうしても性格だけが難である。
だが蜜が起こっても怖さも何も感じないのはその容姿にあった。
「今日もお前、ちっちゃくてかわいいな」
そう。蜜は高校一年生にして成長が平均女子高生と比べてとても著しいものであった。
どれくらいかというと、蜜と話していくにつれておっぱいという概念を本気で忘れそうになるくらいに。
嘘だと思うけどこれマジで!蜜と小一時間話した後に成長中女子を見ると「何その二つの丘、たんこぶできる位置違うぞ」って本気で指摘しかねないほどに蜜はロリなのだ。
「違います!むしろ小っちゃくて正解なんです。何ですかあれ、近年小学生以上における巨乳化が例年に比べて猛進中って!このままじゃあロリが絶滅してしまいます!」
そう本気で訴えかける蜜なのだが、今の発言に対しては笑い話で済ませるわけにはいかない。
簡単に言えば、女子のみにおける第二次性徴が早まっていってるのだ。
早いものもいれば、小学二年生で胸が膨らみ始めている子もいる。
そもそもここで言うロリとは、小学生以上のことを指し、小学生以下の女の子にはロリか否かの判別は適用すらされない。
そしてこの問題は、これからの日本行政にかかわるほどの重大な問題なのだ。
『これからの日本行政はヲタクが担う』と小耳にはさんだことはないだろうか。実際それは本当らしく、IT化が進んできている今、ヲタクの存在がだんだん貴重なものとなってきている。
そして、ヲタクと聞いてまず第一に浮かぶのは『アニメオタク』。
アニメオタクの人たちがグッズを買うことによって発生する税金がすごすぎる話はまた今度にして、さらにアニメヲタクの人たちを二つに分けるものが、そう『巨乳派』か『貧乳派』か。
そして第二次性徴が早まっている話につながるのだが、これによって『貧乳派』のヲタクの人たちが『巨乳派』の魅力に気付いていってしまい、そっちに移行するか、またはその年々ロリが減っていってる事実に、ヲタク自体をやめてしまうか。
それを生み出しているのが、イラストレーターやラノベ作家などの創作者。
そんな人たち、イラストレーターやラノベ作家の人たちが大事にしていることの一つ、流行に乗ること。
いくら絵がうまくても、いくらラノベの内容が面白くても、流行という壁にはどうしてもぶつかってしまう。
イラストレーターなんか特に承認欲求の塊だ。
例えばだが、『とりあえずタピオカ描いとけばいいねもらえるっしょ』みたいな。
それと同様、『とりあえず巨乳キャラ描いとけばいいねもらえるっしょ』ってなクソみたいな理由だけで、承認欲求を満たすがためにイラストを描いてるやつらは本当に虫唾が走るね。
おっと失礼。
その中でも流行に流されずに、好きなものをのびのびと描いている人は本当に尊敬する。それでいて人気だったらなおさら。
そんな中、イラストを描くにあたって巨乳キャラを描くのは絶対条件。
ここまで長々と話してきたことが、貧乳派だったヲタクがヲタクをやめてしまい、それによってもたらされる日本行政にかかわる理由だ。
それを阻止しようと動いているのがこの部活。
「まあ、落ち着け。まだ完全に絶滅したわけじゃない。こんなちっぽけで、俺たちにこの問題をなんとかできるような力もあるわけじゃないが、俺たちにできることをコツコツ探してこうぜ」
「なんでそんなにマイペースなんですか!そんなんじゃあ___」
「じゃあお前、蜜はお前だけの力だけでこの問題を何とかできるのか?」
「そんなの……」
「できないよな。だから俺は言った。俺たちにできることをコツコツ探してこうぜって」
「………」
蜜はそのまま深く黙り込んでしまうが、こいつはこうでも言わなきゃわからない。いつだってせっかちで、それゆえに空回りしてしまうことが多い。
そんな意味を込めての『俺たちにできることをコツコツ探してこうぜ』だけど伝わったかな?
「……みま………ん……した」
「ん?」
顔を俯きがちにボソボソと言われても聞き取ることができなかったので、俺は蜜を見つめ(ダジャレじゃない)もう一度と視線で促す。
蜜も顔を上げ、手をぎゅっと力いっぱい握ると、
「すみませんでした。今回はシン先輩が正しいです。すみませんでした」
最初に『すみません』と最後に『すみません』で『すみません』のサンドイッチだぁ、なんてどうでもいいことを考えながら俺は言う。
「まあなんだ、俺がここにいるのも蜜のおかげっていうか、あの出来事がなきゃこんなとこにいないから、お前のその性格嫌いじゃない、むしろ好きだ。だけどいき過ぎない程度にってことだからな」
「ありがとうございます……」
それとなくいい雰囲気だったので頭をなでなでしてあげる。
「ふにゃぁ~」
最初は我を忘れて気持ちよさそうにしていたのだが、ハッと自分が何をされていたのかを冷静に考えてしまう。
「なっ……、何をするんですか!」
そのまま俺の撫でていた手をぱっと払い、部室から出て行ってしまった。
蜜ももっと本性出せばいいんだけどなぁと思う俺であった。
「可愛いやつめ」