お姫さまと青いくだもの
「イチゴおいしー」
ここではないとある世界に、小さなかわいい、だけどやんちゃなお姫さまがいました。
お姫さまはおやつのフルーツパフェを食べながら、こんな事を考えていました。
イチゴとリンゴは赤いくだもの、桃はピンクでミカンはだいだい、バナナは黄色、メロンは緑でブドウはむらさき。
くだものはいろんなで色でいっぱいですが、なにかが足りません。
「あれー? そういえば、青いくだものって見たことないねー?」
青いくだものをどうしても食べてみたくなったお姫さまは、くだものの国に行ってみることにしました。
くだものの国はお姫さまの国のとなりにある、いろんなくだものの妖精たちがたくさん住んでいる所です。
お姫さまがくだものの国につくと、赤いずきんの小さな女の子が出迎えてくれました。
「私はいちごの妖精、イチゴずきんちゃんです。今日は一体なんのご用ですか?」
「お姫さまは青いくだものを探しに来たんだー。どこにあるか知ってる?」
ですが、イチゴずきんちゃんも青いくだものの事は、何も知りません。
「そうだ、王様ならきっと何か知ってるかも」
イチゴずきんちゃんはそう言うと、お姫さまを連れてお城へ向かいました。
お城では、ドリアン王様とメロン王子が出迎えてくれました。
「わしがくだものの王様、ドリアンであーる。くだものの事は何でも知っているのであーる」
さっそく、お姫さまは王様に尋ねてみました。
「ここに、青いくだものはありますか?」
「そんなことより、君の歓迎パーティーをするのであーる!」
「えー」
お姫さまの意向も聞かずに、なぜか妖精たちのくだものパーティーが始まりました。
「青色のくだものは知らないのであーる。ブルーベリーもブルーなのに紫色であーる」
お姫さまはオレンジジュースで乾杯しながら、青いくだものの事をドリアン王様に聞いてみましたが、何も分かりませんでした。
お姫さまはバナナを食べながら、王様は何でも知ってるって言ってたのになあと思いました。
「青いくだものを探しているのなら、青色の国に行ってみたら?」
と、メロン王子が教えてくれました。
*
お姫さまは仲良くなったイチゴずきんちゃんをお供に加え、くだものの国を出発しました。
二人は野を越え山を越え、谷を越え海を越え、自分の限界を越えて、ようやく青色の国のサファイアの都にたどりつきました。
サファイアの都は地面も建物も、ぜんぶ青色の宝石で出来ています。
ここなら青いくだものが見つかるかも知れません。
お姫さまとイチゴずきんちゃんは、サファイアのお城に行ってみることにしました。
美しく輝くサファイアのお城には、青色の女王がいました。
「ここに青いくだものはありますか?」
「青いくだものですね。ありますよ」
お姫さまの質問に、青色の女王さまが優しく答えてくれます。
「「やったー!」」
お姫さまとイチゴずきんちゃんは、ぱちんとハイタッチで喜びました。
「青いくだものってあまいの? おいしいの?」
「糖度はどれくらいありますか?」
「それは、見ての食べてのお楽しみ。わたくしについて来て下さい」
お姫さまとイチゴずきんちゃんが、わくわくしながら青色の女王についていくと、そこには大きな木がありました。
「うわー、大きいねー」
「これは宇宙樹『ユグドラシル』と言います」
でも、木には青いくだものがなっていません。
お姫さまとイチゴずきんちゃんは、口を尖らせながら樹を指さします。
「ユグドラシルに青いくだものの実をつけるためには、青色が必要なのです。これに青色を集めて来て下さい」
お姫さまは青色の女王からバケツをもらいました。
そして、キラキラ光る魔法の杖も渡されました。
「この杖は一回だけ、魔法を使う事ができます。困った時に使ってね」
「お姫さま、フライドポテトが食べたいなー」
「困った時に使ってね」
お姫さまとイチゴずきんちゃんは、空飛ぶブルートレインに乗って、青色を探しに出発しました。
「うわー、すっごいねー」
「きれいですねー」
お姫さまは高いところが大好き。
空から見ると青い空、青い海、実に世界は青色に満ちあふれています。
手始めに、お姫さまたちはお花畑に行きました。
そして、青いお花たちから、少しずつ青色を分けてもらいました。
次に、お姫さまたちは海に行きました。お姫さまは海から青色をもらいました。
アオザメさんも青色集めを手伝ってくれましたが、お姫さまの「フカヒレっておいしいらしいねー?」発言に青ざめてしまいます。
そして、お姫さまたちは空から青色を集めました。
七色の虹の青色も分けてもらいました。
お姫さまたちのがんばりで、バケツの中は青色でいっぱいになりました。
「さあ、サファイアの都に戻りましょー」
「はーい」
ところが急に空が暗くなり、雲の中から濁った青色の空飛ぶ海賊船が現れました。
「がーっはっはっ! 俺様は青色大好き、海賊『青ひげ』さまだ! お前たち、いい物持ってんな。俺様によこせ!」
海賊青ひげはお姫さまたちが集めた、青色が入ったバケツを指差します。
「よこせ」
「いやだ」
「よこせ」
「いやだ」
「じゃあ、力づくで奪い取ってやる。これでも食らえ!」
海賊青ひげが青いノリを投げると、お姫さまの体にぐるぐるっと巻きついて、海苔巻きにされてしまいました。
「がーっはっはっ! これはもらって行くぞ!」
「あー、お姫さまの青色! かえせー!」
青ひげはバケツの中の青色をぐびぐびぷはっと飲み干すと、大きな蒼いドラゴンになって飛んで行ってしまいました。
*
ドラゴンになった海賊青ひげは、サファイアの都に襲いかかりました。
「がーっはっはっ! 青色が大好きな俺様は、ずっとこの国を狙っていたのだ。今日から青色の国は俺様のものだ!」
青色の国の人たちはブルブルーと震えています。
青色の女王は青ひげと戦いますが、とても勝てそうにありません。
このままでは、サファイアの都が青ひげに乗っ取られてしまいます。大ピンチです。
「がーっはっはっ! とどめだーっ!」
「待てっ!」
「誰だ!?」
そこへ、お姫さまとイチゴずきんちゃんがさっそうと現れました。
「わたしは、ミラクルミラクルプリンセス!」
「なんだと!? お前は海苔でぐるぐる巻きにしたはずだ!」
「おいしかったよ、ごちそうさまでしたっ!」
実は海苔はお姫さまの大好物。
お姫さまとイチゴずきんちゃんは巻き付いた海苔をぜんぶ食べてしまったのでした。
「だって、『これでも食らえ』って言われたもんねー」
「ですよねー」
「ミラクルミラクルプリンセスだと? お前なんか踏み潰してやる!」
せまる青ひげこと巨大なブルードラゴン。
ですが、お姫さまは女王さまからもらった魔法の杖を取り出します。
「まほーまほーまほー!!(呪文) 海賊青ひげ、赤色になーれー!」
お姫さまが呪文を唱えて魔法のステッキを振ると、空から赤いペンキがどばーっと降ってきて、ドラゴンになった青ひげのヒゲが真っ赤に染まってしまいました。
海賊青ひげはヒゲが青色じゃなくなると、とても弱くなるのです。
「ぐわーっ! ち、力が抜ける~」
ひゅるるるーと元の姿に戻った海賊青ひげに、お姫さまは飛び乗ると。
「ダンス踊ろっかなー」
青ひげのお腹の上でどすどすどすとダンスを踊りました。
「くそーっ、覚えてろよー」
青ひげはお腹を押さえながら、フラフラになって逃げて行きました。
*
海賊青ひげを退治したお姫さまたちを、青色の国の人たちは大喜びで称えます。
お姫さまは青色が入ったバケツを取り返す事ができましたが。
「もう! せっかく集めたのにー」
バケツの中には、青色が少ししか残っていませんでした。
「うーん、ちょっと少ないけど、大丈夫ですよ」
がっかりしているお姫さまたちに、青色の女王さまは、にっこり笑っていいました。
お姫さまたちは青色が入ったバケツを持って、ユグドラシルの根っこに青色をちょろちょろっとかけました。
すると、ユグドラシルがぼんやりと青く光り、青い木の実が一個だけ実りました。
青色の女王は青いくだものをとって、お姫さまに渡してくれます。
「これ、なんて名前のくだもの?」
「これは『地球の実』といいます」
「ちきゅうの実? これ、食べていいの?」
「食べても良いですが、これを宇宙に浮かべると、たくさんの人が住める大きなお星さまになります」
「へー、おもしろそーう。お姫さまやってみるー」
それーっと、お姫さまが手を放すと、青いくだものはふわふわと空に浮かんで行き、そして宇宙の彼方へ飛んで行きました。
「はやく大きくならないかなー」
「すぐには無理ですよ。これから長い年月をかけて育って行くのですから」
お姫さまには難しい話は良く分かりませんので、とりあえず「へー」と言いました。
けっきょく、青いくだものは食べられなかったけれど。
「お姫さまは、とっても楽しかったー」
青いキラキラの宝石をもらって、満足したお姫さまとイチゴずきんちゃんは、青色の女王さまにバイバイと言って、自分たちの国へ帰って行きました。
めでたし、めでたし。
おしまい




