22話・国王さまご一家、入場
ヌッティア国では、聖女が神の許しなく貞操を失うことがあれば、国に災いが起きると固く信じられている。お父さまより何代か前の王さまの治世の時に、干ばつや津波といった天災に見舞われたことが尾を引いているみたい。
わたしはそのことを忘れてなかったわけじゃない。でもナツへの想いがそれを上回って抱いて欲しいとナツに言ってしまった。ナツはそのことを思いだして、思いとどまってくれたのだと今なら分かる。
「さあ、行きましょう。チョコさまは私がお預かり致しますよ。魔術師なら猫を使役することは知られていますし、連れていても違和感がありませんからね。姫さまとしては不本意でしょうが、ここはひとつご協力下さい」
「ニャアン」
分かったわ。わたしオウロの言うとおりにする。オウロに抱っこしてもらったらナツがなんだか悔しそうな顔をしていた。その彼にオウロが釘を差すように言った。
「ナツ。気をつけてください。相手は姫にこんな厄介な呪いをかけた人物です。どんな手で来るかわかりませんから」
「オウロ、姫の呪いを解く事は出来るか?」
「もちろん出来ますよ。でも、いま解いては意味がないのでは? 相手にこちらが気付いた事がばれて逃げられる可能性がありますよ。姫に誰が呪いを賭けたのか分からない状態で解くよりは、真相が明らかになってからの方が宜しいのでは?」
「そうだな。でもそれを聞いて安心した。良かったな。アロアナ」
「ニャ~ン」
これで何も心配はないと安心した。オウロのことだから時期がくれば呪いを解いてくれそうだし、しばらくはこの姿で甘えておくことにするわ。ありがとう、オウロ。
宮殿につくとナツが緊張していた。ナツったら真面目なのよねぇ。誰もわたし達に注目してないっていうのに。なぜならわたし達はオウロの魔術によって姿が周囲の人達からは見えてない状況だから。
それでもパーティー慣れしていないナツから見れば、パーティー会場からして圧倒されるように感じるらしい。天上からは幾つも下がったシャンデリア。これだけ明るく点灯するのに使用人達も蝋燭に火を入れるのが大変だったでしょうね。
床の上には美しく着飾る人々。身につけている大ぶりの宝石の数々がどれだけ自分に資産があるかとアピールしているようでちょっと見苦しい。ヌッティア国にも見栄を張りたがる貴族がいるけど、こちらの国にもいるのね、そういう人って。
馬車に乗り込むまでは普通に表から堂々と登場する予定だったのに、オウロが急遽、変更を申し出てきた。
「王子側はシャルロッテ嬢が失踪したと公表しているのですから、死んだものと思っているかもしれません。そこへ本人が現れたら騒ぎになります。下手すると門前払いされて終わりかも知れません」
オウロの考えでは、自分達が会場に付いた途端に、門前払いを食わされたら意味がないのではと言い出した。
今夜のパーティーでは、マニス王子が新しい婚約者をお披露目すると情報を得ている。王子の計画としては、婚約していたハートフォード家のシャルロッテが失踪したので、その彼女とは婚姻破棄し、新たにその代わりとなる婚約者と婚約を交わしたと表明する気でいるはず。
彼の後見先はハートフォード家で、宰相であるカウイは失脚し、彼に代わって娘婿がその座に着いている。それだけ聞くとマニス殿下とこの宰相の婿がなんらかの形で結びついていそうで怪しいけど。
周囲が騒がしくなってきた。そろそろ王族一家が顔を出すらしい。わたしは顔をパーティー会場の正面にやや高くなった所に設けられた場所へと向けた。そこに用意された王族一家が座るための椅子は六席。それには国王夫妻、昨年ご結婚された王太子夫妻。そして今日のパーティーのメインとなる第二王子らが座る予定なのだろう。
わたしはそわそわしてきた。もうじきわたしの偽者の姿を目にする事になる。
「国王さまご一家、入場!」
伝達の係りの者の号令で、皆が一斉に正面を見た。人目で王さまと思われる豪奢な衣装に金の冠を頭に乗せた年配の王さまをはじめ、ぞろぞろとその後に品の良さそうではあるけれど気位の高そうな中年女性、色白で荒事とは無縁そうなひょろりとした姿勢の王太子に、綺麗でありながら目つきの鋭そうな王太子妃が、順番に席に着く。
そして忌々しいあの王子が姿を見せた。無害そうな顔をしながらも軽薄な表情を浮かべたマニス王子。そしてその王子に手を取られて姿を表した人を見て息を飲んだ。




