18話・シャルからの挑戦状
「好きだよ。本気で好きだったから忘れるはずもない」
ナツは誠実だった。わたしの想いに応えてくれている。「わたしもよ」と、言えばナツはわたしを見てほほ笑んだ。
「きみだってそうだろう? マニス王子のこと好きだろう?」
「わたくしはもう好きではなくなりました。桟橋から突き落とされたことでもうわたくしは思われてないのだと、諦めがつきましたから」
「その方がいいよ。きみにあの男は勿体ない。きみはまだ若いしね」
マニス王子は危ない人よね。さっさと忘れた方が良いと思う。その方がシャルの為よ。するとシャルは、ナツの言葉に不貞腐れたように言った。
「ナツさまだって、まだお若いです」
シャルはナツを乞うような目で見ていた。これ危ないかも。
(ナツは駄目よ。彼はわたしのものなの!)
嫉妬心が湧き立ってナツへと手が伸びていた。ナツは彼女の手の中からわたしを掬い出すように抱き上げてくれた。
「チョコが羨ましいです。わたくしも猫になりたい」
「どうして?」
「そしたらそのように抱き上げて構ってもらえますか?」
「シャル?」
シャルの思いつめたような様子にわたしは気が急いた。嫌よ。ナツをあなたには渡さない。
いくら鈍感なナツでも、彼女の気持ちに気が付いたようだ。
「俺にはこのチョコの相手だけで手がいっぱいだよ。他の猫に目を向ける暇がないくらいにね」
と、彼女にやんわりと断りの言葉を向けていた。そうよ。ナツにはわたしがいるんだから。ナツ、ちょっと顔を貸して。
ちょいちょいと前足で彼の顔を誘うと、彼女の目の前で彼の唇に口を当てた。ぺろりと唇を舐めて見せれば、シャルが悔しそうな顔をしていた。
ナツは昨晩の続きのようにキスを返してくる。
すると、シャルが負けませんから。と、呟きを漏らしていた。
(負けないって何に?)
と、思うとナツの頬にシャルの唇が触れていた。あ~!
「アロアナ姫はナツさまを裏切ったお方ではないですか? そんな御方にナツさまを渡せません。今のナツさまは、他の女性に目が向けられなくてチョコちゃんを溺愛しているのかもしれませんけど、チョコちゃんにだって負けませんから」
「へぇえ?」
宣戦布告をして去って行ったシャルに、間抜けな反応をしたナツとわたしだけが残された。
『チョコちゃんにだって負けませんから』
彼女の言葉には強い意志が込められていた。チョコの正体がわたしだと気が付いたわけではないと思うけど、彼女のあの強い瞳が気になって仕方なかった。
あれはわたしへの挑戦状に違いない。彼女はナツが誰を想おうと自分は負けないと宣言したのだ。わたしも負ける気はしないけど。彼女のひたむきさが怖かった。その想いにいつの日かナツが絆されそうな気がして。




