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16話・わたしはチョコ、わたしはアロアナ


「ずい分と可愛がっているようね? チョコのこと」

「チョコを返して欲しいのか? 返さないぞ」

「チョコは返さなくてもいいわ。出来ればずっと側に……あなたの側に置いてあげて」



 ナツがチョコとしてのわたしを、可愛がってくれているのは大変嬉しかった。この先のことを思えば、このわたしが実はチョコだって明かさない方が良いのかな? 

これからわたしが告白することで、彼との仲がぎくしゃくするなら黙っていた方がいいの?

 わたしは悩んだ。でも、言わないと先には進めないような気がして言った。


「わたしナツを……いえ、チョコを飼い始めてから体がなんだかおかしいの。鼻がむずむずして目が痒くなってきて、咳やくしゃみが止まらなくなって、終いに呼吸が苦しくなってきて、お医者さまに見てもらっても原因不明で……」

「体調不調……? チョコを飼い始めてから? 自分の体調の悪さを猫のせいにする気なのか?」


 言い方を誤ったかも知れない。ナツはわたしを疑っているようだ。わたしが嘘をついているように思っているのかも? そうだとしたら悲しい。


「嘘じゃないわ。だんだんと呼吸困難になって気がつけば、意識を失っている時も度々あったし」


 信じてナツ。わたしは黙っている彼に言った。



「それでうす気味悪く思っていたら、ある日突然に王子から告白されたわ。それをきっぱり断ったら、王子からは自分の気持ちを弄んで何が楽しいのかと責められて……。訳が分からなくて。自分ではそんなつもりもないし、誤解を招く行動もしていないはずだったから。それなのに王子には昨晩愛し合ったではないかと言い寄られるし。これはどうしたこと? と、思っていたら見てしまったの。もう一人のわたしを……!」



 あの晩のことを思い出したら背中がゾクリとしてきた。殿下と抱き合っていた女性はわたしの姿をしていた。彼女は何者なのだろう? わたしと瓜二つだなんて気持ち悪い。

 寒気がして肩が震えてくる。怖い……。



「どうした? アロアナ?」

「ナツ……怖い……!」

「しっかりしろ。アロアナ」

「助けて。ナツ。自分が誰かに乗っ取られそうで怖いの……」

「きみには双子の姉妹がいるということはないか?」

「そんな話、聞いたことはないわ。母上さまは体が弱くてわたしを産むと同時に亡くなられたと聞いていたし」

「じゃあ、何者かがきみに成りすましているということか?」



 ようやくナツはわたしの話を信じてくれそうだった。彼のこちらを案じるような目と、目があった。


「信じてくれる?」

「まあな。きみはこんな風に嘘を言ったりはしない人だ」


 そこだけは信じられる。と、言ってもらえた。それで十分だ。


「わたしが目撃した自分は、マニス王子に甘く媚びて彼の寝所に入っていたわ。その時の自分はなんだか小さくなっていて、気がつけば手足に灰色の毛が生えていた。声も人のものではなくなっていて……人でいる時の時間が段々と少なくなっていっているの」


 そこまで話すと、わたしはいつ、人の姿に戻れるのだろうと思った。このままずっと猫の姿のままなの? と、思ったら悲しくなってきた。

 わたしはただ、ナツが魔王討伐から無事に帰って来る事を望んでいた。彼の花嫁となることを願っていた。それが叶わなくなるかもしれない。そう思ったらやりきれなかった。

 感情に押し流されるようにわあっと泣き出したら、ナツは半信半疑な様子で言った。


「いまのきみは人の姿だけど……?」


 確かにいまのわたしはもとの姿に戻っている。でもそれは月が空に出ている事が限定なの。

わたしは肩を抱いてきた彼の胸に額を押し付けた。

  


「月の明かりを受けた時だけもとに戻るみたい」

「じゃあ、普段のきみの姿はどんなの?」

「……それは……」



 言いにくいわたしの背を押すように、部屋の中に差し込む月の明かりが翳りを帯びた。見上げれば窓から見える月が雲に顔を隠そうとしていた。部屋の中が暗くなる。すると体が縮んでいくのが分かる。


「アロアナ? これは……?」


 ナツは凝視していた。わたしの顔や肩や腕が毛に包まれていく。これで分かってもらえるかな?


「アロアナ? これは……?」


 わたしの全身が毛に包まれ、顔には長い髭が数本現れた。


「ちょ……こ……?」

「ニャアン」


 確認してくるナツに応えたわたしの声は鳴き声になっていた。


「アロアナがチョコ?」


 真相を知ったナツを、おそるおそる伺えば思案するように彼の黒い瞳が見返してきた。彼の膝の上に抱き上げられる。雲に隠れた月が顔を覗かせたことで、わたしの体は再び変化した。


「大きくなっちゃった……?」


 ナツが驚きのあまり口を開けてぽかんとしていた。それでもわたしを抱きしめる力は緩まなかった。


「アロアナ、きみだったのか?」


 その言葉に今までの事が全て彼に伝わったと安心した。ナツは「ごめんな、今まで気が付いてやれなくて」と、わたしがチョコだったときの時のように顔を寄せて頬ずりしてきた。


「ナツ。あなたが信じてくれて嬉しい」

「きみがチョコで良かった。きみは俺の側にいてくれたんだな。ありがとう」


 そう言って唇を寄せてきたのに、わたしの姿は瞬時に猫へと戻っていた。お月様がちょっと悪戯したみたい。ナツは驚いていたけど、チョコの姿に戻ったら「チョコ~」と、抱きついてきてベッドの中に連れ込まれた。


 チョコの正体がわたしだと知って、何だか彼の愛が二割増ししたみたい。ベッドの中でキスの嵐に見舞われ、彼に構い倒されて気が付けば夜が空けていた。




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