15話・ナツはメスでした
その晩。わたしは悩んだ挙句、ナツが宛がわれた部屋にやってきた。月明かりを浴びれば元の姿に戻ってしまうから、その姿を出来ればナツ以外の人には見られたくなかった。だって裸だから見られたら恥ずかしい。ナツに見られるのも嫌だけど、でも二択でナツか他の人か問われたなら迷わずナツを選ぶわ。
もし、仮によ、ガイム辺りに見つかったなら犯されそうだもの。貞操の危機を強く感じるから、ああいう人には近付かないのが当然でしょう?
こっそり部屋の中に忍び込んだら、彼のかすれた呼び声が聞こえてきた。
「チョコぉ……」
何度か寝返りをうっているようでギシギシベッドが鳴る。大の大人がみっともないわよ。飼い猫の姿が見えないくらいで寂しがっているようじゃ駄目ね。
苦笑を漏らしながらも彼がなにやら呟きを漏らしているので、それに聞き耳を立てた。
「チョコ……。一体どうしたんだよ。俺がなんかやらかしたのか? チョコは俺に怒ってるとか? 悪かった。謝るから帰ってきて……」
チョコどうしたんだよ? 俺のどこが悪かった? 謝るから帰ってきてくれよ。
その声になんだ、分かっていたじゃないと思う。わたしが怒っている事は伝わっていたんだ。ナツはわたしを恋しがってでもいるようだ。そのナツの表情を見てみたい気に駆られて、彼に近付こうとしたのが間違いだった。月の光はわたしが隠れていた衝立まで届いていたのだ。そのことで体の異変に気がつく。
(いけない! ナツに見られる)
慌てて蹲まろうとして、衝立の足に躓いてしまった。それがナツに聞こえてしまった。
「誰だ?」
そう言いながら彼がこちらに向かってくる。
「アロアナ?」
「ナツ」
蹲った状態で彼を見上げると聞かれた。
「そんな格好で何しているんだ?」
全身裸のわたしに彼は優しかった。昨日のような非難めいたものはない。わたしは蹲った状態から体を起こすことも出来ず困り果てた。どうしようと思っていると、その背にシーツが掛けられていた。
「……ありがとう」
彼はアロアナとしてのわたしには思うところがあるかもしれない。それでも彼の優しさが嬉しかった。
「昨日は一方的に責めて悪かったな。何か俺に言いたいことあるだろう? 俺もきみに聞きたいことがある」
シーツを体に巻きつけると、体を起こすのに彼が手伝ってくれた。ベッドへと連れてこられて肩を並べてふたり腰掛けた。わたしはナツに打ち明けることにした。自分の身に起こった不可解な出来事を。
「ナツ。これから話すことは信じてもらえないかも知れないけれど……それでもわたし、あなたにだけは信じて欲しいの」
何から話せば良いだろうと思って、取り合えずマニス王子との出会いから話し始めた。そこから始まっているような気がするから。でも、マニス王子の名前を出したらナツは不愉快そうに眉根を寄せる。
マニス殿下のことは言わなくとも良かったかしら? ちょっと不安になるけど、彼がいないと、愛猫まで話が続かない。
「……マニス王子はなんだか様子がおかしかったわ。王城に迷い込んできた一匹の猫を見て怯えて、何かに取り憑かれたように斬りつけようとしていたの」
わたしはそこに異常なものを感じている。あの殿下には残虐性が秘められていたんじゃないかと。何かに魅入られているような瞳をしていた。その彼にナツが殺されようとしていたのを保護したのだ。
「可愛い猫だったわ。……人懐こいからナツと名付けたのよ」
そう言えばオウロ達から「ナツ」は、彼の愛称から名付けたとバレバレだったけど、それを本人の前で認めるのは恥ずかしかったから嘘をついてしまった。本当はあなたの愛称から取ったの。ごめんなさい。
心の中で謝っていると、
「……いまは、あいつはチョコだ」
と、ナツから訂正された。そうよね、ナツはメスだった。男性のあなたから愛称をもらうだなんて無理があったかな。




