14話・ナツの馬鹿
「どうした? ナツ? 何か考え事か?」
「まあ、ちょっとな」
ナツはなにやら考え事をしていた。心ここにあらずの状態でボーとしているように思える。釣りをしている時にも考え事をしているけど、それともやや、違うような状態で呆けているように思えた。ガイムに何でもないと言いながらはあ。と、深くため息を漏らすので、今度はファラルから聞かれていた。
「ナツ。食欲ないの?」
食事をするナツの手が止まっている。わたしは昨晩のことで不愉快に思ったので、今日はオウロの側にいることにした。オウロの足元に座っているとハムをくれた。厚みのあるハムでこれがなかなか美味しいの。
「ゆっくり食べていいですよ。誰も取りませんよ」
「ニャア~ン」
「チョコちゃんは可愛いなぁ」
もっと欲しいなぁって見上げたらファラルと目が合う。「今度は僕が」そういって、また一枚、もらっちゃった。嬉しい。ありがとうね。
ナツはわたしがアロアナだって気が付いてないせいか、何食わぬ顔して「チョコ」と、いつものように呼ぶ。だけどね、マニス殿下と出来てるような事いわれて許せるはずないでしょう? ナツはわたしの貞操を疑ったんだから。もう知らな~い。
「チョコぉ?」
そんな寂しそうな顔しても駄目だから。
「なあ、ナツ。チョコと喧嘩でもしているのか? なにかあったのか?」
「……別に」
がく然としているナツに、ガイムが聞いていた。ベーだ。ナツに向かって舌を出して見せたらオウロに抱き上げられていた。オウロのようなオジサマなら、如何わしい目でわたしを見ないし、抱っこぐらいしてもらっても問題ないよね?
オウロのごつごつした手で背中を撫でてもらっていたら、なんだか気持ちよくなってきちゃった。このまま寝ちゃおうかなぁ。お休みなさい。ナツの恨めしそうな目線なんてしらないもん。
数時間後。わたし達はシャルロッテやガイムの祖父であるサーザン国の宰相、カウイ邸に転移した。サーザン国は、ヌッティア国からは国境となる大河を渡った先にある。気候はヌッティア国とそう変わりない温暖な気候なので、わたし達にとっても過ごしやすい気候だ。
転移術を発動させる為、わたしはオウロの手からシャルへと手渡されていた。ナツにはまだむしゃくしゃしていたから、彼女の腕の中で我慢することにする。
カウイ邸の玄関先に転移すると、ドタドタとこちらへ足音が響いてきた。やや、危険な感じがしてわたしはシャルの腕から飛び降りた。
「シャル~。シャル、今までどこへ行っていたのだ? 捜したのじゃぞ」
「お爺さま。心配させてごめんなさい」
シャルにまっしぐらに向かってきた老人は彼女を強く抱きしめた。もし、わたしがシャルの腕の中にいたら押しつぶされちゃっていたわ。そう思うぐらい、勢いがあった。老人の髪や眉毛は真っ白で、この老人がシャルやガイムの祖父でサーザン国の宰相なのだろうと察せられた。
「よっ。爺さん、久しぶり」
「ん、ガイム? あなたがたは?」
ガイムに声かけられて、老人は初めて自分達に気が付いたように反応した。
「勇者ナツヒコに、魔術師のオウロと神官のファラルだ。オレの魔王討伐の仲間だよ」
ガイムに紹介された俺達を、宰相カウイは訝るように見る。目つきは鋭かった。只者じゃない感じがする。そのカウイにシャルが言った。
「お爺さま。わたくし、実は死にそうになっていたのをこちらのナツさまとチョコちゃんに助けて頂いたのです」
「シャル、死にそうになったというのは?」
「爺さん、詳しい話は後あと。取り合えず、家のなかに入れて」
ガイムが話は長くなりそうだからと家の中へ促がしてくれたおかげで、玄関先で待たされる事はなくスムーズに家の中へと通されて良かった。
その後、応接間に通されてシャルロッテは今まであったことを全てカウイに話したことで、カウイは激高し、あの王子め。と、唸った。
「勇者どの。我が孫娘をお救い下さってありがとうございます」
「いいえ。無事で良かったです。それに気が付いたのはこのチョコですから」
「チョコさま。ありがとうございました」
カウイは礼儀正しい人だった。シャルの命の恩人だとナツだけじゃなくて、わたしにも頭を下げてくる。こういう人ってなかなかいないわよね。わたしは感心した。
(こういうところナツも見習ったらどう?)
ナツの座ったソファーの隣に腰を下ろしていたせいで、彼は何事もなかった顔して背を撫でてこようとしたからムッとした。全く、わたしはまだ怒っているのよ。噛み付くと渋々手を引っ込めていた。
皆は、ナツに「チョコに振られたなぁ」なんて冷やかしていたけど、オウロだけはもの言いたげに見ていたとは気が付かなかった。




