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13話・どうして信じてくれないの?


 その晩のこと。愛しい人がわたしの名前を呼んだような気がして目が覚めた。



「ん……ナツ?」

「アロアナなのか?」

「ナ、ナツ?」



 目蓋を持ち上げると、暗い部屋の中でナツが目を丸くしている様子が分かった。部屋の中に差し込む白い月の光が部屋の中を煌々と差し、周囲の姿形を如実に映し出していた。


(今夜は満月!)


 その事実にまだ眠気を纏わせていた頭の中が一気に冷めた。わたしは呪われてから月の明かりを体に浴びると、元の姿に戻ることを思い出した。王城にいた頃は、飼い猫でも一室与えられていたし、身の回りをする女官はしっかり戸締りをして就寝時には自分の部屋に帰っていたから、その事実を知る者はいなかった。元の姿に戻るとわたしは裸体である。いま何も服を着ていない。

 その事に気が付いて体が震えた。取り合えずシーツの中にもぐり込む。


「み、見ないで」


 裸でナツのベッドに忍び込んだと思われたなら最悪だ。わたし痴女みたいじゃない。そんなの嫌だ。

 でもその態度が逆にナツに不審なものを感じさせたようだった。彼は躊躇うことなく一気にシーツを剥いできた。


「いやぁっ」


 月明かりの下でわたしは裸体を彼の前で晒す事になってしまった。恥ずかし過ぎてどこか穴でもあったなら入ってしまいたい。胸元を隠して体を丸めていると、ナツは一瞬、驚いて手を止めたものの、取り上げたシーツを渡してきた。慌ててそれを体に巻きつける。


「ナツのえっちぃ」

「そんな格好しているのが悪いんだろう? なんでここにいる? 例の王子はどうした?」


 恥ずかし過ぎて彼を直視する事が出来なかった。だから彼が悔しそうな顔をしていたことを知らずにいた。



「王子?」

「惚ける気か? サーザン国のマニス王子だ。あの男と良い仲なんだろう? あいつの子を妊娠したって聞いた。きみの顔なんか見たくない。あいつのもとへ帰れ」

「わたしマニス王子なんて好きじゃない。告白はされたけどあなたが好きだから断ったもの。妊娠なんてしてない」

「はあ?」



 ナツは怒っていた。理由は分かっている。彼は偽アロアナが仕出かしたことを信じ込んでいた。でも信じて欲しかった。あれはわたしじゃないもの。わたしはあなたを裏切ってなんかいない。妊娠なんてしてないのよ。


「あの男の子種を腹に宿しているんだろう? なら俺に抱かれても問題ないよな? 裸でベッドに入り込んで来たのは、俺を誘惑する為だろう?」


 ナツはわたしの事を全く信用していないようだった。マニス王子の子を妊娠していると思い込んでいる。ナツの瞳には欲情の熱が浮かんでいた。

 どうせ妊娠しているんだ。俺に抱かれても差異はないだろう。そう言うナツは、これまでの彼とは違う別人を見ているようで怖くなった。今の彼は肉欲でしかわたしを見ていない。自分の欲を満たす為に抱こうとしているのだ。


(そんなのは嫌だ。わたしはあなたを愛しているのに……)


「信じてくれないの? ナツ……。ひどい……わ……たし、あなたの側に……ずっといた……のに?」


 信じてもらえないのが悔しくて涙が出てきた。こんなナツ、わたしの好きなナツじゃない。思い切り頭で彼の顎を付いた。こんな事初めてしたけど、ナツは思いがけないわたしの攻撃をまともに食らい、動かなくなった。


「ナツのばかぁ。知らないっ」


 どうして信じてくれないのよ。その思いだけが胸の中を渦巻いていた。


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