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10話・シャルってあの殿下の許婚なの?


 食堂では一つのテーブルを皆で囲むように椅子に座り、オウロから時計回りに、ファラル、ガイム、シャル、ナツの順で席に着いていた。ナツの膝の上に乗っていると、シャルが皆にお茶を入れて運んできた。


 貴族の令嬢は嗜みとして美味しいお茶を入れられる。それは王城や、嫁いだ先の女主人としてのマナーとして当然とされているからだ。わたしは王女として育ったので、そのような教育は受けていないけれど、女官たちが入れる美味しいお茶を味わっているので物の良し悪しは分かるつもりだ。

 シャルの入れるお茶は大変美味しい。だからか、ナツは彼女に食後のお茶を頼んで入れてもらっていた。


「ああ。あの時の」

「そう? でも言われてみればそんな気がする」


 オウロの言葉に、ファウルやガイムが反応を示したけど、ナツはどういうことだ? と、オウロを見た。



「実はですね、あなたを転移させる時に、王城で飼われていた猫が後を追うようにして入り込んでしまいまして……」

「それがチョコだと?」

「はい。でもそのチョコは、もともとアロアナ姫が飼われていた猫だそうですよ」

「オレ達がこちらに帰還してくる半年前に、アロアナ姫さまが飼い始めた猫らしいぞ。それで名前がナツ」



 訝るナツにオウロが説明しているというのに、ガイムが茶化すように口を挟んできた。なによ。この人。わたしの許可なくそういう事は暴露しないでよね。恥ずかしいじゃない。ナツには内緒にしていたのに~。


「はあい? ナツって俺の愛称?」

「いやあ、愛されてるなぁ。いや、愛されていた。の、間違いか。なあ、勇者ナツ」


 ガイムがにやにやと笑いかけてくる。馬鹿にしているのかしら? 面白くないわ。



「ガイムお兄さま。ナツさまは勇者さまなのですか?」

「知らなかったのか? シャル」

「ええ。知らなかったこといえ、失礼致しました。ナツさま、いえ勇者さま」



 ナツの隣から可憐な声があがる。皆の話をにこにこと笑って聞いていたシャルが、そんなこと聞いていませんが? と、ナツを恨めしそうに見ていた。

 ごめんね、シャル。ナツはガイムみたいに自慢話しないし、勇者であることをひけらかすようなタイプではないから。



「シャル。そう改まらなくてもいいよ。今まで通りのナツで」

「でも……」

「気にしないでくれ。俺がきみに話していなかったから、きみが知らなくて当然だ。それにガイムは魔王討伐の仲間で、全く知らない関係でもないから」

「そうそう。そんなに畏まらなくてもいいさ。こいつはお人よし過ぎてね、魔王討伐から帰ったなら婚礼をあげるはずだった許婚に間抜けにも逃げられて、婚約破棄されてしまった可哀相な男なんだ」

「おい。ガイム」



 ガイムの物言いには腹が立つ。ナツは平気な顔しているけど、結構ショックを受けたんだから。それを物知り顔で口にして欲しくないわ。


「そうでしたの。ナツさまもわたくしと同じような目に合われて……?」

「え? シャル。同じ目ってどういうことだ? おまえは第二王子と婚約していたはずだろう? それが

どうしてナツとここに? さっき浜に打ち上げられていたと、ナツが言ってたけど?」


 シャルはナツに同情していた。ガイムが聞いてきた。



「わたくし殿下に婚約破棄されて、桟橋から蹴り落とされたのです。それからは良く覚えてないのですけど、気がついたらここに流されてきたようで、ナツさまに助けて頂きました」

「殿下がおまえを桟橋から蹴り落とした? それは本当なのか? 信じられん」

「シャルの許婚とはサーザン国の王子なのか?」



 ナツの言葉にえっ? と、思う。じゃあ、なに、シャルって……?



「そうです。マニス殿下と婚約を交わしていました」

「なんだって? あのマニス王子?」

「なんてことだ。不貞を働いておきながら、一方的にシャルに婚約破棄を突きつけたと言うのか? その上、桟橋から蹴り落とすだなんて。許せない。あいつ」



 ファラルが素っ頓狂な声をあげた。その反応で完全にナツも気が付いたみたいだ。ガイムは激高していた。当然よね、大切な従妹を酷い目に合わせたんだから、マニス王子を許せるはずがない。


「シャルロッテさま。そのマニス王子は、ヌッティア国に遊学していたのでしょうか? そして帰国してからあなたにそんな非道なことをやってのけた?」

「はい。マニス殿下はヌッティア国に遊学されていました。帰国してから態度がおかしくなりました」


 オウロが確認の為にシャルロッテに聞いていた。帰国してから態度がおかしくなったと言うけど、それは彼が残虐性を持ちながらもシャルの前では上手く隠してきたのではないのかしら? わたしは彼に対して良い印象はもてなかったけど?


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