9話・わたしは誰にでも尾を振る軽い女ではなくてよ
数週間後。ログハウスのドアがドドドッと叩かれた。ここは無人島だし、誰かが訪れることなどない。ナツは食堂にいたシャルと目を見合わせ、「きみはここにいて」と、告げて玄関に向かった。
わたしの前で、シャルとアイコンタクトって妬けるんですけど。わたしは待っているように言われなかったから後に付いていってもいいよね? 後ろで「チョコちゃん」と、シャルに呼ばれたけど、無視することにした。
玄関先には見たことある顔が並んでいた。ナツの魔王討伐の仲間達が訪ねて来たらしい。
「ヤッホー。ナツ~」
「ナツヒコ。元気にしていたか?」
「そろそろ頭が冷えましたか?」
黄緑色の髪に琥珀色の瞳をした、愛想が良くてあどけない顔立ちをしている若者はいの一番にナツに声をかけてきた。このメンバーの中で一番年下の神官で、確か名前はファラル。その隣に立つのは、水色の髪に紫色の瞳をした美形剣士のガイム。
あれ? 彼ってシャルに似てないかしら? もしかしてシャルはいい子だと思うのに、どことなく苦手意識が湧くのは彼に似ているせいかも。
ガイムはナツと同い年の二十八歳だというのに、行く先々で女性に声をかけてすぐに良い仲となる。彼は目に付いた女性なら見境なく口説くのでとんだ軟派師だ。わたしの女官達の何人かは彼の元カノだったりする。わたしは、彼は本当の恋をしたことがないんじゃないかと思っている。
そしてこげ茶色の髪に黒い瞳をしていて、顎鬚を生やした端整な顔立ちに渋い声のオジサマは魔術師のオウロ。オウロには、わたしやお父さまの相談に色々のってもらっただけでなく、ナツを異世界召喚してくれた人だ。彼のおかげでわたしはナツと出会えたので大変感謝している。
皆、ナツを迎えに来たのかな? ナツは驚いていた。
「わ、わ、わ。お前らここまでどうやって?」
「転移してきたよ。なに驚いてるの? ナツと同じだよ」
ファラルが「ここにはナツだってオウロに転移されてきたくせに」今更何を言ってるの? と、言っていた。そうよね。でも、ナツは突然、こうやって訪問して来るなんて思ってもみなかったようだから驚きを隠せなかったみたい。
ナツの後ろから「こんにちは」と、声をかけたら、
「わあ。可愛い。この子、飼っているの? なんて名前?」
「まあな、同居猫のチョコだ」
ファラルにいきなり抱え上げられそうになった。ビックリしちゃった。慌ててそこから逃れてナツの後ろへと隠れる。
「チョコ?」
「ナウウ……」
ナツは自分には懐いているのに……と、訝っていたけど、わたしは誰にでも尾を振るような軽い女ではなくてよ。ごめん遊ばせ。
「あれれ? 人見知りなのかな? チョコちゃん?」
唖然とするファラルにガイムが言う。
「どうやらお子ちゃまのおまえの事は、お気に召さなかったようだな。このお猫さまは。気位が高いのかもな」
「ガイム。ひどいよ」
「お猫さまはお子ちゃまは相手にしてないんだよ。オレみたいな色男じゃないとな」
ガイムは得意顔をしていたけど、わたしは軟派男も嫌いですわ。臨戦態勢に入ろうとしたら背後から「チョコちゃん」と、声があがった。シャルはわたしの後を追いかけてきた風に顔を見せたけど、明らかに玄関にいる人達が気になって顔を出したに決まっているわ。
「お兄さま?」
「シャル。どうしてここに?」
ガイムの顔を見て目を丸くしたシャル。髪色や雰囲気とか似ていると思ったけど、ふたりは兄妹なのかしら?
「ふたりは兄妹なのか?」
「いいや。母方の従兄妹なんだ」
ナツの問い掛けにガイムが答えていた。
「ねぇ、そちらの令嬢の紹介はしてもらえないの?」
「彼女はシャルロッテ。浜に打ち上げられていたのを俺とチョコが保護した。サーザン国の宰相の孫娘で、ガイムの従妹だそうだ。まあ、とにかく中へ入れよ」
ファラルが興味津々に伺っていた。ナツは手短に説明して皆を家の中にあげた。オウロはじろじろとわたしを見ていて気が付いたようだ。
「その猫は王城からいなくなった猫ですね」




