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4話・ナツ泣かないで


「あら」

「どうした?」


 女性は立ち上がってこちらへ向かってくる。動けなかった。王子はお楽しみのところ邪魔をされたのが面白くなさそうで、その女性の背後から抱き付きながらこちらを見下ろす。



「ナツ。駄目じゃない。悪い子ね。わたしの後を追ってきたのね?」

「なんだ。猫か。アロアナ、そんなの放っておけよ」

「殿下……」



 ナツ? 訝るわたしを前に、二人は唇を交わしあっていた。


(わたしがマニス殿下と? 止めて。止めて!)


 これは何かの間違いよ! そう思うも衝撃が大きすぎて腰が抜けたようだ。逃げ出す事が出来なかった。


「コイツ、邪魔だな」


 そう言って王子がわたしの襟首を掴む。その時に違和感に気が付いた。目線が思ったより低いことと、視界に入った自分の手足が毛深いことに。王子はわたしを部屋の外へと放り出した。体が身軽だった為に直接、体を廊下に打ち付けられることはなかったけれど、四肢がしっかり床に付いたことでおかしなことに気がつく。二足歩行ではない姿勢。廊下に立て掛けてあった鏡で自分の姿を確認し、驚いた。


 人の姿ではなかったこと。そして鏡に映った姿は愛猫の姿だったことに。


 その日から自分は猫のナツとして暮らすことを余儀なくされてしまった。恐らくあの自分に成り代わった女性が、自分の姿を奪い、猫にしてしまったのだと思う。



 そんな事とは知らないナツは、ベッドから出てキッチンへと向かう。


「お腹すいたなぁ。おまえも何か食べるか?」

「ニャアン」


(気がついてよ。わたしアロアナなの)


 ナツにすがるように纏わりつけば、ナツがしゃがみこんだ。頬を撫でられる。


「可愛いな。おまえはちょこちょこして。うん、名前はチョコな」

「ニャーニャー」


(だからわたしがアロアナなの)


「そう急かすなって。おまえは好き嫌いあるのかな?」

「ニャ、ニャン」


(違うの。わたしがアロアナだってば)


 いくら訴えても、ナツにはわたしの声が鳴き声にしか聞こえない。愛する人の側にいるというのに分かってもらえない。


(ナツ。気がついて)


「なんだ? 泣いているのか? 悲しいことでもあったのか?」

「ニャウウ……」


(あなたに気がついて欲しいのに……)


「泣くなよ。俺も何だか悲しくなる」


 ナツの目にキラリと輝くものがあった。ドキリとした。ナツの涙なんて初めて見たから。彼はこちらの世界に召喚されてからあまり愚痴など溢さなかった。自分の身の上に起こった出来事を甘んじて受け止めているように思えた。本当なら逃げ出したかったかもしれないのに、彼は我慢強かった。その彼が涙を流していた。


「おまえも信じていた人に裏切られたのかな? 俺の場合は結婚を約束していた人が他の男と国を出て行ってしまったのさ。情けないよなぁ。俺、そんなに魅力なかったのかなあ?」

「ニャー、ニャー」


(違う、それは別人なの。わたしはここにいる。あなたを裏切ってなんてない)


「有難うよ。おまえは優しいな」


 ナツはわたしを抱きしめてきた。彼は誤解していた。わたしの偽者があのマニス殿下と国を出て行ったと知らされたから。衝撃を受けていた。彼の悲しみは深く、ここまで自分が愛されているのだと歓喜しながらも素直に喜べなかった。


 今の自分は猫の姿。ナツにはここに迷い込んだ猫にしか思われていない。それでも愛する人の側にいれる。その事だけでも嬉しいと思えた。


「ニャアウ」


(ナツ、泣かないで)


 彼の涙を舌で舐め取ったらしょっぱかった。


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