26話・わたくし、負けませんから
「さっきは悪かったな」
「もう気にしないで下さい。大丈夫ですから」
皆から離れたところへシャルは誘導してきた。俺はダンスの練習で足を踏んでしまっただけに彼女と二人きりになるのは気まずかった。
彼女は、ガイム達に遠慮したのだと分かる。ガイムはなにやら誤解してにやにやしながら「頑張れよ」と、意味不明なことを言い、背中をバンバン叩いてきた。あいつは本当に分かりにくい。
「ナツさまに聞きたいことがありました。ナツさまはまだ……、その、アロアナ姫の事を思われていますか?」
シャルが言いにくそうに聞いてきた時、彼女の腕の中のチョコがこちらを見上げていた。うわあ。これは言いにくいことを聞いてきたな。
「好きだよ。本気で好きだったから忘れるはずもない」
俺の答えにチョコは嬉しそうにニャウンと鳴き、シャルは凝視した後で、「そうですよね」と、呟いた。
「きみだってそうだろう? マニス王子のこと好きだろう?」
「わたくしはもう好きではなくなりました。桟橋から突き落とされたことでもうわたくしは思われてないのだと、諦めがつきましたから」
「その方がいいよ。きみにあの男は勿体ない。きみはまだ若いしね」
マニス王子は正直さっさと見切りを付けた方が彼女の為だと思えた。するとシャルは不貞腐れたように言った。
「ナツさまだってまだお若いです」
ニャアーと、彼女の腕の中のチョコが鳴いてこちらに手を伸ばしてきた。うん。猫になってもアロアナは可愛い。気高く愛らしい俺のチョコ。
「おいで。チョコ」
チョコを彼女の腕の中から抱き上げると、シャルは黙ってそれを見ていた。
「チョコが羨ましいです。わたくしも猫になりたい」
「どうして?」
「そしたらそのように抱き上げて構ってもらえますか?」
「シャル?」
どういう意味だろうとチョコを伺うと、チョコは耳を立てて警戒していた。おいおい、きみら仲良かったんじゃないのか?
「俺にはこのチョコの相手だけで手がいっぱいだよ。他の猫に目を向ける暇がないくらいにね」
と、溺愛するチョコを手に言えば、チョコはその答えに満足したようにちょいちょいと前足で俺の顔を誘い、唇に口を当てた。ぺろりと唇を舐める。猫キスだ。人前ではまだしたことがなかったのに、俺に正体がばれたせいかチョコは大胆な行動にでた。
シャルはまだ十六歳だぞ。ちょっと煽りすぎじゃないか? チョコ(アロアナ)としては、俺が自分のモノだと証明したかったんだろうけど。
俺は浮気なんてしないぞ。チョコに「きみに一途だから」と、言う意味でキスを返してやると、シャルが負けませんから。と、呟きを漏らしていた。
(負けないって何に?)
と、思うとすぐに頬の辺りにシャルの唇が触れていた。
「アロアナ姫はナツさまを裏切ったお方ではないですか? そんな御方にナツさまを渡せません。今のナツさまは、他の女性に目が向けられなくてチョコちゃんを溺愛しているのかもしれませんけど、チョコちゃんにだって負けませんから」
「へぇえ?」
間抜けな俺の反応をその場に残し、シャルは走り去って行った。
◇作者のつぶやき◇
ナツは一途です。
彼はハーレムは考えていません。




