25話・まだ皆には話せていない
「ナツ。腰引けてるぞ。もう一歩足を踏み出して」
「そんなこと言われても……」
翌日からなぜかガイムの鬼のような特訓が始まった。シャルロッテを相手にエスコートやダンスの練習をさせられているのだ。それをチョコは広間の隅でオウロに抱き上げられて見ていた。その背にファラルが触れているのを見て、俺は気が気でなかった。
「おい、ナツ。チョコの様子が気になるのは分かるけど、練習に集中しろ」
ガイムの言うとおりだ。チョコが気になって仕方ない俺は、シャルロッテの相手をしながらも気持ちが入ってなかった。
「あっ。痛……」
そのせいか彼女の足を踏んでしまった。
「済まない。シャル」
「いいえ。……気になさらないで……」
「今日はここまでにしておこう」
シャルに謝れば苦笑が返ってきたけど、革靴とはいえ、男性に踏まれたのだから相当痛いと思われる。申し訳なく思うと、見かねたのかガイムから今日の稽古はここまでにしておこうと言われた。
「女性の足を踏むってなかなか無い事だぞ? その逆はいくらでもあり得るけど」
「悪かったな。不慣れなんでな」
ガイムが冷やかすように言ってくる。だって仕方ないだろうと思う。このような女性と一組になってやるダンスだなんて、元の世界にいた時ですらやったことないし、こっちの世界に召喚されてからは、剣や魔術の練習に明け暮れていたんだからさ。
武術とダンスは違うと言いかけた時に、ガイムが意外なことを言い出した。
「武術とだいたいコツは一緒だぞ」
「……?」
「まあ、頭で考えずにやることだな。ナツなら体を動かしていくうちに気がつくさ」
ガイムが自分達より離れたところで腰を下ろしたシャルの方を見る。つられるようにして彼女に目を向ければ、さっき俺に踏まれた足を撫でている。そこにチョコが近付いて舐め始めた。チョコは治癒の力を持っている。中身はアロアナだから当然と言えば、当然だが。
「ありがとう。チョコちゃん」
チョコの頭を撫でていたシャルが「痛みが和らいだみたい」と、喜んでいた。もしかしてシャルに気付かれたか? と、思う。
俺は、まだチョコの正体がアロアナだとは皆に明かしてなかった。俺も昨晩アロアナから話を聞くまでは、ガイム達同様に、王さまからの話で姫は俺を裏切りマニス王子と結ばれ、国を出て行ったと信じていた。しかし、こいつらにどう話したものだろうか? ガイム達は、マニス王子やアロアナ姫憎しと動き始めているのだ。
アロアナの話を聞いて思ったのは、誰かが彼女になりかわっているのではないかということだった。いま本人は猫になっている。本人は王子の求愛を断ったと言っていたし、彼女の言葉を信じるならば、じゃあ、現在王子の側に侍っているアロアナという名の女性は誰なのか? と、いうことになる。
きっとアロアナは猫を飼い始めた頃から、何者かに呪いを掛けられて知らぬ間に猫へと少しづつ姿が転じるようになっていたに違いない。自覚しなければ呪いもゆるゆると掛かって言ったのかもしれないが、本人は別人が自分になりすましているのを目撃してしまった。
そのせいで呪いが完全に発動したのではないか?
それは俺の憶測で確かなことは何一つ分からないが。事情を知るのはそのマニス王子の側に侍っているアロアナになりすましている女だ。その女に近付いて聞き出す他ないだろう。そう思うと、皆を欺くようで悪いが、まだチョコの真相を皆には明かさない方がいいのではないだろうかと考えていた。
「ナツさま。ちょっと宜しいですか?」
そこへシャルが声をかけてくる。その腕の中にはチョコがいた。
◇作者のつぶやき◇
お、三角関係の予感。




