11話・どこかで会ったような?
パチパチと暖炉の火がはぜる音で相手は目を覚ましたようだ。寝かせていたベッドから令嬢はゆっくりと起き上がった。
「ここは……?」
「お、目が覚めたか? 体は大丈夫か? どこか痛むか?」
「え、は……い。体は大丈夫です。痛みはないです」
「そうか。良かった。きみは海辺で倒れていたんだ」
「ニャアン」
俺の顔を見て顔を強張らせた令嬢は、俺の言葉を肯定するように鳴いたチョコを見て相好を崩した。チョコは令嬢の寝ていたベッドの側に近づいて行き、「大丈夫?」と、様子を伺ってでもいるようだ。令嬢が伸ばした手の先に鼻先を向けていた。
「あなたが助けて下さったんですね? ありがとうございます」
「礼ならチョコに言ってくれよ。そこのチョコがきみを見つけて教えてくれたんだ」
「この子はチョコちゃんと言うのですね? ありがとう。チョコちゃん」
チョコは俺以外の人間に会えて興味を持ったのか、全然警戒をしなかった。令嬢に頭を撫でられてされるがままになっている。
「きみは見たところ、貴族のご令嬢に思われるのに、どうしてこの島に流されるような羽目になったんだい? 乗船していた船が難破したのかな?」
「いいえ。わたくしは許婚に桟橋まで連れ出されて海へと突き落とされたので……、もしかしたらここまで流されてきたのかも知れません」
「桟橋?」
桟橋といったら船を横付けする為の、水中に突き出している板の足場のあれだよな? ここは無人島だけど、もしかしたら俺が気がつかないだけで近場に港があったりする?
彼女を観察するように見れば、額を押さえていた。
「痛むかい?」
「いえ、なんだか気のせいかボーとしていて……」
令嬢を保護した時のやつれ具合から、海の中で意識を失い、ここまで波に流されてきたのかもしれないと思う。早く国許に連絡してやったほうがいいな。と、思いながら自己紹介をした。
「俺はナツヒコ。この島にチョコと住んでいる。きみの名前は?」
「わたくしは、サーザン国のハートフォード侯爵令嬢シャルロッテと申します。祖父は宰相をしておりました」
「サーザン国? 侯爵令嬢? お祖父さんが宰相?!」
サーザン国と言えば俺にとって鬼門だ。アロアナが誑かされた王子がいる国じゃないか。しかも彼女はなんて言った? 祖父が宰相ってことは、とてつもないものを引き当ててしまったような気がする。
「あの……、あまり畏まらないで下さい。偉いのは祖父なだけで、わたくしはそれほどでもないので」
そう言って、ベッドのシーツを胸元まで引き上げたシャルロッテは可憐だった。ドレスは着ているけど、ぼろぼろ状態で洗浄の魔法で身を清められたとは言っても、異性の手前、恥ずかしさもあるのに違いない。
(綺麗な子だな)
見れば見るほど顔立ちは整っているし、水色の髪の毛に菫色の瞳がどこかで会ったような気がして初めて会ったような気がしない。
◇作者のつぶやき◇
小説では現実ではありえない事が起こります。
桟橋から落っこちた令嬢がなんでナツらがいる島に? と、思った方もいるでしょう。でも、ここはお話の世界。作品を楽しむ為にも、ぶっちゃけなんでもありな世界と思って頂きたい。
作者からのお願いです。(^∧^)