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1話・愛しい人の姿はそこになかった

「アロアナ姫が出奔? 婚約破棄……?」

「つい、先ほど姫の姿が見当たらないと女官から報告があり、部屋に書き置きが残されていたらしいのだ」


 俺は耳を疑った。俺の名は夏彦。愛称はナツ。この国では勇者と称されてきた。この世界に来て苦節十年。愛しい人の為にようやく念願の魔王討伐を成し遂げて帰還した。ところがそこに笑顔で出迎えてくれるはずの姫の姿がなかった。

 婚約までしていた彼女は、なんと俺の留守に遊学に来ていたサーザン国の王子と交流を深めて親密な仲になったらしく、俺との婚約破棄を望んで王子と共に国を出て行ったのだと言う。


 王の言葉は、天上から壁一面を埋め尽くすように、琥珀石が埋め込まれている謁見の間で重々しく響いた。琥珀の間と称されているこの部屋は、特権階級である貴族の中でも特に、王の認めた者しか入れないとされている特別な場所だ。そこに魔王討伐の仲間と一緒に通されて王から労われたので、いよいよ本題かと思えばとんでもない流れの話になりそうだった。


「どうして姫は……?」


 婚約破棄などと、王を見返せば口ごもる王の代わりに、静観していた宰相が口を開いた。


「姫さまは子を孕んでいたのです」

「は? 婚前交渉もなしに? どうやって?」


 自分とはそこまで深い仲ではない。思わず口走った俺の言葉に、背後で気心知れた魔王討伐仲間の魔導師オウロや、騎士のガイム、神官のファラルが目を丸くしていた。


「えっ? えっ、ええっ? 姫さまとナツって、清い仲だったの~?!」

「ば、ばか。おまえ、黙ってろっ」


 この中で一番年若いファラルが、思わずと言った感じに驚愕の声をあげた。彼は俺よりも六つ年下の二十二歳。黄緑色の髪に琥珀色の瞳をした、あどけない顔立ちをしているので、皆の弟分として仲間に可愛がられている。

 突っ込むべきところはそこじゃない。思わず睨み付けると、その彼の口元を慌てて「不敬に当たるぞ」と、水色の髪に紫色の瞳をした美形剣士のガイムが、塞ぎにかかっていた。ガイムは俺と同い年の二十八歳。垢抜けた容姿をしているせいか行く先々で若い女性達にすぐに取り囲まれる。そんな女性たちをありがたく頂戴している彼に「もげちまえっ」と、内心で思ったのは、一度や二度のことではない。


 こちらを意味ありげに見てくるガイムには、童貞の自分を馬鹿にされているような気がしていい気がしない。目が合うと苦笑を返された。


(悪かったな。俺はお前とは違って一途なんだよ)


 アロアナ姫とは、初めて出会った時から惹かれあい付き合い始めた。付き合うといっても、一国の姫とのお付き合いなので、当然二人きりになることなどなく、会う時は誰かしら女官や護衛が側についていた。

 しかも姫は自分よりも八つ年下。ここは男として姫をリードすべきだろう? 俺は紳士的に振る舞ったさ。年のわりには生育の良い、ボン、キュッ、ボンの出るとこでて、締まるところは良く締まっている姫のミラクルボディーをがっつくことなく、姫のピュアな心に付き合って彼女の望む王子さま像を演じきった。


◇作者のつぶやき◇


ある日、思いつきました。

そうだ勇者と悪役令嬢の話を書こうって。

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