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助けを求めない人間を助けるほど僕らには余裕はない

「町長!! これはいったいどういう事です!? 何故このような場所にこのような少女を!!」

 叫び声は普段はおとなしいけど曲がったことと自分の正義に反することを発見すると途端に強気になる聖女のものだった。

 厳しい声で叫ばれた町長は一瞬顔を真っ青にしたが、すぐにその顔色を元に戻した。

「聖女様。彼女は地竜様に捧げる供物なのです」

「く、供物!!? どういうことです!?」

 一瞬顔を真っ青に染めたとは信じがたいほど落ち着いた表情で町長は言葉を続ける。

「聖女様、先ほどお話ししましたが、この町は地竜様の恩寵を受けています」

「恩寵を受けるために毎年供物を捧げているというお話でしたが……まさかその供物というのは……!!」

「ええ、地竜様は毎年清らかな処女おとめをお求めになるのです」

「念のため聞いておきましょう……捧げられた少女は、その後どうなるのです?」

「……帰ってきたという前例はありませんな」

「……!!?」

 聖女の顔が怒りに歪むのが見えた。

 しかし、町長はいまだに表情を崩さない。

「お怒りを覚えるのも無理はありません。しかし、仕方がない事なのです」

「仕方がない!!? 何を言っているのですかあなたは!! この町ではこのような少女を毎年……!!」

「しかし、そうしなければより多くの町民が死にます」

 言いつのろうとする聖女の言葉を遮って、町長が冷静にそう言った。

「この町は地竜様の恩寵なしに成り立ちません。地竜様が作り出す魔鉱石や宝石がなければこの町はただ飢えていくだけなのです。この地ではまともな作物は育たず、おまけに冬もとても厳しい。地竜様から賜る魔鉱石や宝石を売ることで何とか飢えずに、凍えずに済んでいるのです」

「しかし!! それでも!!」

「聖女様、王都はおそらく豊かなのでしょう。でしたら少しわかりにくいのかもしれませんね。きっと飢えるかもしれない心配も、凍えて死ぬかもしれない心配もせずに生きてこられたのでしょう。でしたらあなたにとってこの町が行っていることはとても非道なものに見えるのでしょう。しかしどうかお許しを。町長である私は、より多くの町民を生かす義務があるのです」

「……いいえ、いいえ!! それでも……」

「それでいいのです」

 納得がいかない表情で、癇癪を上げる子供のような表情で叫ぼとした聖女の声を、澄んだ声が遮った。

 声の主は鉄格子の中の少女。

 僕が声をかけても答えてくれなかったあの子の声だった。

「この役目は私が進んで引き受けたもの。私の身一つでこの町が守れるのなら光栄なことです」

 落ち着き払った声で少女はそう言った。

 澄んでいて、落ち着いていて、綺麗な声だった。

 あ、僕この声嫌い、大嫌い。

 だけどそう思った、長い時間聞き続けていたらキレるかも。

「しかし……!!」

「私が、そう納得しているのです。ならそれでいいでしょう」

 有無を言わさぬ声に聖女がたじろいだ。

「そ、それでも……」

「では、あなたにはこの町に住むすべての住民を養う覚悟がありますか? 飢えさせない覚悟を、凍えさせない覚悟をお持ちですか? 覚悟があったとして、それを確実にできる方法を持っていますか?」

「それは……!」

「ありませんよね。どんなに強い覚悟があったとしてもおそらくは不可能です。どんなにすごい人間であったとしても、本来なら人間一人に賄えるものではないのですから」

「でも……!! それでも!!」

「ですが、私一人が死ねばこの町にいる者は飢える事はありません、凍えることもありません。ならそれでいいじゃないですか」

 聖女よりも聖人らしい、落ち着き払った澄んだ声で彼女はそう言った。

 だんだん気分が悪くなってきた、耳の中ががりがりと削れていかれるようだ。

「聖女様、お怒りはわかりますが、どうか……」

 町長に促されるが、聖女は何もできずに鉄格子の中の少女を見て立ち竦む。

「もういい、行こう」

 だから僕は鉄格子から離れて、階段に向かう。

「しかし……!!」

「助けを求めない人間を助けるほど僕らには余裕はない。その子が納得してるんだから、ほっとけばいいじゃん」

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