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2017年/短編まとめ

多分、幸せな朝

作者: 文崎 美生

バタバタという物音で目を覚ますと、体が軋み、上手く動けなかった。

枕にしていた腕を伸ばせば、関節がミシミシと痛んだ。

その痛みに気を取られていると、肩から何かがずり落ち、反射的に掴んだが、今度は骨が音を立てた。


痛みに唸り声を上げながらも、掴んだそれを見れば、大きな犬の顔がプリントされたブランケット。

生憎、ボクの私物かと問われれば否である。

同居人の物で、尚且つ、初めて見た時には、デフォルメもされていない犬の顔が大きくプリントされたそれに、何だそれは、と眉を寄せたものだ。

犬も可愛いとは思うが、犬か猫かという話ならば、猫派だ、猫の方が好きである。


うん、と一つ頷き、それが肩に掛けられていた経緯を理解した。

自室で作業中に、机の上で寝落ちしたのだろう。

そうしてそれを見付けた同居人が、自分のブランケットをボクの肩に引っ掛けていった。

だから体は軋むし、大きな犬の顔がある。


うん、もう一度頷いて部屋を出た。

扉を開いて覗いた廊下の奥、玄関では既に完全武装をした同居人がブーツを履いている。

冬だからね、寒いからね、と思いながら、赤いマフラーから飛び出た後ろ髪を見た。


「止めた方が良いんじゃない?」


ぱたり、扉を閉めながら声を掛ければ、ハッとしたように同居人の彼――崎代(サキシロ)くんが振り返る。

癖のある色素の薄い髪が揺れ、赤い縁眼鏡の奥では、髪よりも少し濃い茶混じりの瞳が、何度も瞬かれた。


「崎代くん、今日死ぬよ」


ボクの言葉に、今度は目を見開く。


「え、俺死ぬの?」

「死ぬ。占いでそう言ってた」

(サク)ちゃん今起きたんじゃないの?ていうか、それ何占い?」

「作ちゃん占い」

「どうやるのそれ?死因は?」


我に返ったのか、ふっ、と鼻から抜けるような笑い声を漏らし、眉を下げて笑う崎代くん。

元々実年齢よりも若く見られるような――フォローを止めれば単純に童顔だが――そんな顔で笑えば、どことなく無邪気な少年のようだ。

その笑顔を見ながら、ブランケット片手に死因を並べる。


「病死水死焼死事故死感電死ショック死……」

「死に過ぎ死に過ぎ。それに俺、今日の単位は取っておかないとヤバいから」


息継ぎなしで並べた死因に、ケラケラと笑い声を上げた崎代くん。

動きに合わせてずり落ちた眼鏡のブリッジに指を置き、それを押し上げたと思うと、本当に、と言いながら自分の取っている授業単位が危ないことを口にした。


実際、本当に危ないのかと問われれば、そんなことは無いと、思う。

あくまでもボクは、だが。

サボっているイメージはほとんどなく、むしろ課題もしっかりこなしていた。

勿論ボクは本人ではないので、本当に正確的な情報は知らないが。


「それじゃあ、行ってくるね」


ひらり、手を振って出て行く崎代くんに、片眉を上げながら手を振って、その重みに、あ、と間の抜けた声を出す。

閉まった扉に駆け寄り、扉を開けると、物音に気付いた崎代くんが振り返る。


「後、凍死。……いってらっしゃい」


持っていたブランケットをそのまま差し出せば、両眉を上げた崎代くんが、ははっ、と弾んだ笑い声を上げる。

外は寒く、ふるりと身震いするボクに対して、崎代くんの頬は林檎のような色で蒸気していた。

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