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なんでもアリな闇鍋ゲームで詰んでる俺は脇役兼死体役イコール被害者な件(仮)  作者: 来樹
1章 ようこそ、聖アールグレイ学園へ!
9/30

7

「『仮名』って家は聞いた事がないわね」


「うーん、見た目的にどこかの財閥とか政治家のご令嬢にも見えないから、一般生徒か?」

 

「小等部からいるけど、見たことないから、今年の外部生ってトコロかなあ」


 ご令嬢に見えない見た目で悪かったな。

 ひそひそと人を噂する話し声が聞こえる。

 そーゆーのは、本人がいない所でしろよな。或いは、聞こえない声量でこっそりしやがれってんだ。

 …………我ながら、余裕がないな。

 苛々のあまり、心の中で吐く言葉が汚くなりがちである。

 でも、「私」が生きてきた15年余りを全否定する世界がひっくり返るようなトンデモな真実を知ってしまったのだから仕方がないと思う。この世界が、実は乙女ゲームの世界で、しかも「俺」は死亡フラグのある脇役に転生しちまっただなんて……。しーかーもー、女体化。ショックの連続過ぎる。更に、ヒロインと攻略対象のいるクラスに所属する事になった上、隣の席はメインヒーロー様である。正に、泣きっ面に蜂だ。ヒステリーを起こさないだけ余程マシだろう。ひゅー、俺ってば大人!ステキ!結婚して!!……はあ。空しいぜ。

 朝のHRが(つつが)なく終わり、今は一時間目の休み時間。次の授業は、確か世界史だ。勤勉な学生をポーズとして取るべく、いそいそと次の時間の準備を始める。といっても、机に出した教材を次の教科にチェンジさせるくらいだが。

 綺麗に端を揃えて教科書を机の上に置く。

 「……………」

 暇だ。

 休憩時間はまだ後5分以上もあるというのに、やる事がない。

 暇潰しの本でも持ってくれば良かったのだろうが、入学式の翌日は大抵配布物が多いと相場が決まっている、というか、前世の記憶的にもな、小中高意外と結構多かったからさ。だから、余計な荷物を増やしたくなかったというのもあるけれど、まあ一番の要因はアレだ。昨夜は荷解きに時間を多く取られ、案の定、出されていた宿題をやったりと、色々やる事が多かったから、嗜好品を用意する余裕もなかったわけで。つーか、何回も言うけれどこの世界が乙女ゲーム……以下略。

 うん、死亡フラグが建っちゃっているのに、何の考えもなく、況してや対策も立てないないまま、無為に学園生活を送れる程、危機感がないわけでも、おめでたいわけでもないのだ。そう、勘違いして貰っては困る。脳内がお花畑なのは愉快な乙女ゲーム組(笑)ぐらいなのである。つーか、何の為に、「私」が漫画やアニメ、ゲームに費やせた時間を勉強の時間に()てて、必死こいてこんな辺鄙な学校(トコ)を敢えて受験したと思ってやがる。脳内ピンク色共の色恋沙汰のスパイスになる為じゃねえ。此処に勉強に来てんだ。本当に、重ね重ね、腹立たしい。リア充爆発しろ。

 ……お、なんだかんだもう予鈴なったな。にっくき、あんちきしょう共の事を考えていたら、時間が足りないくらい罵詈雑言が浮かぶからな。まあ、気を付けないとうっかり般若の形相になっちまうから注意が必要だけど。幾ら地味子でも、女の子が般若の顔はアカン。「私」は良くても「俺」が良くない。可愛くなくても、女の子がそんなおっかねえ顔してたら、俺が嫌である。ホラーじゃあるまいし。それに一応、この学園では目立たず、騒がず、関わらずの三原則を守って、運悪く恋愛イベントのスパイスに抜擢されないように隠者の如くこっそり生活して行くつもりだ。折角、この学園に入学したというのに、二日目にして薔薇色どころかお先真っ暗な黒色の学生生活の始まりである。夢も希望もへったくれもないな、嗚呼……絶望した!

 「おー。皆、席にちゃんと着いてるな。感心、感心!」

 ガラガラと引き戸を開けて入って来た教師が、開口一番にそう言った。

 ……ふむ。

 薄々気づいていたが……この学校、教師も生徒も美形率高くないか?

 俺は入って来た教師が性懲りもなく美形のグループにカテゴライズされる人種である事を見て取って、溜息を吐きたくなった。だって、ねえ?「顔か、所詮顔なのか?!」と襟首掴んで揺すぶって問い質したくなる程、一時間目も、今入って来た二時間目の教師も、これまた見目麗しく中身もハイスペック(授業内容聴いてると俺デキるぜな感じがビシビシ受信する)。正に、イケメン爆ぜろである。いっそ、この学園まるごと燃やした方が早い気がする。

 黒縁眼鏡に、青と白と赤の色が順に斜めに入った見た目が洒落乙なトリコロールネクタイ、水色のYシャツに茶色のアームバンド、黒のスラックス姿の若干パーマがかかった黒髪の男性教師は、服装や小物、髪型に至るまでお洒落であった。俺との共通点は、分厚い黒縁眼鏡くらいであるが、あちらの眼鏡はハイスペック美形に釣り合うハイスペック眼鏡だった。黒縁眼鏡と一口に言っても、俺が掛けてる蝶ネクタイ探偵みたいな野暮ったいデザインのソレじゃなく、フォルムが四角で鋭角的なラインを描いて弦に繋がっている。太すぎず、細すぎず、また大きすぎず、小さすぎない―――なんかこいつデキるなと思わせるカッコいいフォルムの黒縁眼鏡なのだ。しかも、眼鏡の弦にロゴが入っている。どこまで隙がないんだよ、オイ。

 なんだろ、共通点であり、親しみを覚えるべき眼鏡のポイントが、月とスッポン並みの大きな隔たりのある共通点な気がしてきた。なんていうか、「同じ眼鏡っ子ですねー」というのも(はばか)れるような。烏滸(おこ)がましいっていうような?

 ちっ。ここまで来ると、親しみを覚えるどころか、同じ眼鏡でも同族嫌悪的な敵対意識が芽生えるぜ。

 まあ、顔面偏差値と俺よりも背が高い所からして永遠に分かり合えない敵にカテゴライズされているのだから、今更マイナスがプラスに動くわけがないのだが。

 嗚呼、顔も背の高さも程々の平凡仲間は一体何処に?

 このままじゃ、この学園の交友関係とか絶望的な気がする。敵しかいない、みたいな。ストレスのあまり、バトルロワイヤル仕掛けそうで怖いわー。

 内心そんな事を考えていた俺だが、表面上はポーカーフェイスで平静を装っている。

 教壇に立ったトリコロール教師(いや、ここは敢えてメガネ教師か?)が、授業に入る前に簡単な自己紹介から始めた。これは、一時間目の教師同じように自己紹介からして授業に入った。小中高一貫のエスカレータ式の学園でも、流石に高等部に持ち上がれば教師陣も違うらしく、生徒と教師は初対面に等しいらしい。まあ、生徒数も半端ないマンモス校だしな。

 だから、教科ごとに教師と生徒は皆自己紹介から入って授業に進む。

 俺的には、苗字と顔が一致すれば良いので、趣味嗜好を語っている奴の情報に特に興味を示さず何とはなしに聴いていた。だけど、ここにきて、もしかしてもっとちゃんと聞いておくべきか?という、疑問を持った。

 「――(さくら)(さく)()、25歳。担当教科は、世界史。生徒会顧問、図書委員会担当。趣味は読書、天体観測。残念ながら、特進科は天文学の授業はないから世界史を担当している。あ、あと、和書洋書問わず読む所謂(いわゆる)書痴(しょち)って奴だけど、別に世情には疎くないからなー。ビブリオマニアって奴ね」

 「先生。別に特進科じゃなくても天文学は高等科の授業枠に入らないかと思います。大学ですソレ」

 「先生に興味持ってくれるのは嬉しいケド、まだ質問コーナーじゃないからな出席番号一番君。挙手してモノ言ってくれるのは真面目だと思うケドね、質問は後で」

 はーい、と言って、出席番号一番の席――教室の右端の一列目の一番目に座る男子生徒が良い子の返事をした。お金持ちの更に上のランクをぎゅうぎゅう詰めにした特進科の奴にしては、自由だなオイ。

 「でも、先生。あと一つ言うと、今時の高校生は『書痴(しょち)』とか『ビブリオマニア』とか知らないので、本大好きっ子とか、死に際は山積みにされた本の雪崩(なだれ)希望とかの方が分かり易いかと思います」

 「うん、お前今さっきの『はい』の返事をした、舌の根の乾かぬうちに何ブッコンでくれちゃってんの?お前の言う『分かり易い説明』は、本好きに対して偏見に(まみ)れてる上に誤解を招くから。悪意を感じるから。あと、大抵の特進科の人間の親は、稀覯本(きこうぼん)の収集家である確率が高いから知ってる奴もいるし、前後の文脈や『書痴』の単語の響きから何となく察するわ。それに、今時の若い子は分かんなかったら、すぐスマフォとか携帯端末とかで検索しちゃうから。この子達には偉大なグーグル先生とかウィキ先生が付いてるから」

 「先生、それこそ偏見です、暴論です!僕はただ、世間一般のイメージで分かり易い例を出しただけです。悪意はありませんが、個人的には正直『書痴(しょち)』って響きがヤラシイのと、朝から晩中本を貪り読んでる上に寝食忘れて代わりに生活環境スペースを確保すべき部屋を大量の本で侵食させている輩が嫌いなだけです!!」

 「滅茶苦茶、悪意に塗れてんじゃねーか!!!」

 ……うん、俺もそう思う。

 つか、いつからこのお話は、若者真剣喋り場劇場に変わったんだ?

 トリコロール教師と出席番号一番君の(俺がカ行だから、恐らくこの生徒の名前はア行からカ行と二文字目がラ行前の苗字なのだろう)、熱い討論が始まった教室内で、二人を除いた他の生徒達の間には冷めた空気が漂ったのを感じる。うん、まあ分かるけど。

 取り敢えず、一応確認。

 ここって、マジで乙女ゲームの世界だよね?

 何このギャグ漫画みたいなノリ。

 あと、この二人のキャラが濃すぎてヒロインとメインヒーローの影が薄いんだけど。

 メインヒーローのオレ様生徒会長様は、我関せずの態で優雅に頬杖付いて窓の外を眺めているし、ヒロインの四季(しき)(れん)()はキョトンと可愛らしく目を瞬いて二人の醜い争いを凝視している。オイ、それで良いのかこの世界の主役共よ。舞台がこの二人の笑劇に乗っ取られてんぞ。

 はあああ。

 なんつーか、うん。記憶が戻って二日目にして、この世界にちょっと疑念発生。え、俺まだヒロイン描写とか紹介とか物語の粗筋紹介とかまだなんだけど、展開早くね?もう問題発生とか何なの?バグなの?

 色んな意味で大きな溜息を吐きたくなるが、我慢我慢。

 うん、この世界が俺が知る乙女ゲーム『聖アールグレイ学園』である事に、反論の余地もない純然たる事実で真実なのだが。

 

 俺の知る限り、(さくら)(さく)()という攻略対象は―――――存在しない。








To be continued…?



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