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時には昔の話をしようか。
君が生まれてくる、ずっと、ずっと、前のお話さ。
…………あー、うん。巫山戯るのは程々にして本題に入ろう。
俺こと、「私」―――仮名四葉が存在するこの世界。
この世界を、俺が知っているサブタイトルが長かった気がする『聖アールグレイ学園』というタイトルの乙女ゲームの世界だと仮定しよう。
これがよくある異世界転生なのか、泡沫の夢なのか、まあどっちでも良い。一応、設定的には俺が元いた世界と現代社会日本と瓜二つだし、変わった所もそこまでないから不便な部分がないからな。
ただ、俺の知る乙女ゲーム『聖アールグレイ学園』に登場したメインヒーロー皇煌夜や、ヒロインのクラスの担任となる上杉誠也が容姿性格ともにクリソツで実在していた事を鑑みるに、十中八九、仮定は成り立ち、即ちこの世界がリアル乙女ゲーム(笑)の世界と断定できるだろう。テラワロス。
マジで誰得なんだろうな。うん、本当に。
そもそも?俺がこの乙女ゲーム『聖アールグレイ学園』(笑)を知っていたのだって、アニメ化ドラマ化CM放送っていう、学校行っても家に帰っても常に誰かがこの『聖アールグレイ学園』を話題にしてやがるから嫌でも耳に入っていたからという大きな部分もあるけれど?
一番の大きな要因は、我が麗しきのゲーム友達の影響であると言えよう。伏兵は身内にいた。
当時、初恋を無残に散らせた失恋のショックでゲームと漫画の目くるめく世界に堕ちてしまった俺を見かねて、お節介でゲーマーな心友が「良いだろう、心より君をゲーム仲間として歓迎しよう。ただし…」と勿体付けて、大量のゲームをどこからともなく取り出した。
「これらは全部同名の会社が発売したゲームだ。無節操にも、ありとあらゆるジャンルに手を出した故に、固定ファンのユーザーからは『ストーリーは良いけれど設定捻ろよ!』とか『背景・音楽最高!でもなんでこのジャンル?』とか『これはこれでアリだけど、制作陣手抜いてね?』とか何とか色々言われたらしい。だけど、真のゲームユーザーなら、敢えてこのゲームを全て踏破してみせろ!ありとあらゆるジャンルに精通してこそ、ゲーマーだ!!」
前半ちょっとゲーム会社の悪口入ってね?
ぼくには、おまえのいってるしんのげーまーのいみが、わからないよ。
今ならそう言って速攻ツッコむ所だったけれど、残念ながらあの時の俺は初めての三次元の恋に破れて色々壊れていた。
何を思ったのか、ゲーム初心者だった俺は、「そこまで言うなら、やってやんよ!俺は今日からゲーマー王になる!!」とかなんとか宣言したのだった。ちょろい奴にも程がある。
そして。心友が貸してくれた大量のゲームの中に、件の乙女ゲームのソフトがあった。
大量のゲームを前に、ぱぱっとクリアすべく戦いの日々に明け暮れた俺はその乙女ゲームのタイトルもパッケージ裏の設定も何もちゃんと読まずにプレイを始めた。そして、ちゃららーと気の抜けるメロディで始まったきらきらオープニングを見た瞬間、そっとゲームの画面を閉じた。うん。人間向き不向きってあるよね!無謀と勇気を履き違えちゃダメだよな!っていうことで俺にコレは無理だ!無茶だ!無謀だ!無の三拍子だ!!
「最初にプレイしたギャルゲーは楽しかったけれど、こいつは無理だ」
そう言って、心友たる同級生に返品した。俺を思っての親切心だったのに、ちょっぴり罪悪感を覚えないでもなかったけど、コレはコレ。ソレはソレ。
だけど、そうは問屋が卸さなかったのである。嗚呼、無常。
「クーリングオフだから、返却期限過ぎてるから。よって、これは君がクリアするまで君預かりだから。心の友なら、僕の気持ちを踏み躙って、やらないとか言わないよね?感想言えって、僕の姉貴からの厳命だし、君がやらなきゃ誰がやるのさ。誰が僕の代わりにプレイして感想言ってくれるのさ!」
借り物に、クーリングオフってなに?!つか、後半ただの押し付けじゃねーか!本音が駄々漏れじゃねえか!何が、『僕の気持ちを踏み躙って』で『心の友』だ!ただ自分が乙女ゲームやりたくなくて代わりに俺にやらせて感想を言わせてそれをお前の姉貴に直接リユースする為じゃねえかよ!態の良い生贄じゃん!!自分がやられて嫌だった事をヒトサマにやっちゃダメって先生に習わなかった?!そして、哀しき哉、俺の無・意・味な、罪悪感!
その後も更に攻防戦は続いたが、心友の類まれな口八丁で上手く丸め込まれて……結果、俺は泣く泣く乙女ゲームを含めた「ありとあらゆるジャンル」のゲームを制覇する事になり。知らなくても良い、社会の闇に触れてしまったり。触れなかったり。あれ、心友って、俺の友達だよね?勘違いじゃないよね?とかなんとか知恵熱出す勢いで考え込んだりしたのも今となってはイイ思い出だ。
ぶっちゃけ、暫くはアイツを相当恨んでいたが、必要ねーだろと思っていた乙女ゲームプレイの経験が、まさか今世で役に立つ日が来ようとは!感動で打ち震えそうだぜ!……まあ、その前に知らない方が良かった的な未来への絶望で打ち震えそうだけどな。……うん。
因みにだが、心友にせっつかれた乙女ゲームの感想はと言うと。
「神は死んだ……」
その一言だったのだが、「それじゃ、僕が姉貴に殺されるだろ!」と納得しない心友に、色々心労が祟った俺は一計を思いついた。嫌がらせ+報復を込めて懇々と「リアル」な感想を日々伝え続けたのだ。移動教室や保健室、体育館など、行く先々で乙女ゲームで出て来たスチルの場所と被ると、キャラの完コピで延々とそのスチルの状況説明とセリフを言ってやったのだ。これで、間接的にお前もあのゲームやったようなもんだよな?あのさっぶいセリフを聞かされ続けた俺の身にもなりやがれってんだ!!
真っ青な顔で逃げて行く心友に、心の中で呵呵大笑しながら清々しく見送っていた俺だが、後日不名誉な噂が学内に流れるとは、この時の俺は勿論知る由もなかった。
To be continued…?