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なんでもアリな闇鍋ゲームで詰んでる俺は脇役兼死体役イコール被害者な件(仮)  作者: 来樹
1章 ようこそ、聖アールグレイ学園へ!
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主人公のTS娘の名前は仮名(かりな)四葉(よつば)です。

 あの後、校内を駆けずり回りながら、乙女ゲームの脳内地図と照らし合わせて、漸く職員室に辿り着いた(ほら、乙女ゲームってストーリー重視で地図とかねーしスキップが大概だし、全然分かんなかったんだよ!)。

 「わ~」

 大正ロマンを思わせる古き佳き時代の造りの廊下。職員室のプレートが掲げられた一室のドアの前に立つ。無駄に装飾が華美なのは、懐古趣味なのか、学園長の趣味なのか。

 此処が金持ち学校である事を今更ながら実感するぜ。

 俺は入れ代わり立ち代わり出て行く教師と生徒が通る向かい側のドアをちらりと見、俺もさっさとノックしてから、立てつけの悪い扉を開けた。

 「失礼します。1年A組の仮名(かりな)四葉(よつば)です。……1年A組の担任の先生に用事があって参りました。入っても宜しいでしょうか」

 一瞬、そういや肝心の担任の教師の名前知らなかったやべっとか焦った。だけど、クラスを言えば良いか、分からなかったら他の教師に聞けば良いんだしと思直して、淡々と言葉を続けた。これでクラスも分からないままだったらお手上げだったなと思う。一般の学校のように、クラス名簿で一旦教室に誘導させてから担任が体育館へ引率するパターンだったら楽だったんだが、エスカレータ式のこの学校では入学式と言う名の進入式は、掲示板にクラス名簿展示からの、直接体育館に入場してクラスの名簿順に座る仕組みだ。効率的な気もするけれど、校舎内の教室の位置も担任の教師の名前を知る前に、入学式でぶっ倒れてしまった俺としては、前者のパターンの方が良かった。入学式の流れで生徒の波に従って教室に行けばまだ良かったが、入学式を終えて各クラスへ向かう生徒の波に乗れずに、一人保健室に搬入された俺は道順が校内地図頼りになる。初見の学校なら迷いに迷っただろうが、前世の乙女ゲーム知識を駆使して何とか高等部の職員室に辿り着けた。ここまで来るのに散々うろうろした。マジ大変だったぜ。だって、この学園小中高の一貫校で、只でさえお金持ちの坊ちゃんお嬢ちゃんが通う学校だから無駄に広いっていうのに、収容人数の多さからくる必然的な広大な面積を持つ学園を、現在地も有耶無耶のまま飛び出して行ったものだから、さあ大変。搬入されたのが高等部の保健室だろうとは思ったものの、もしかしたら体育館を挟んで両隣に位置する中等部の保健室の可能性も無きにしも非ずだったのだ。

 まあ、高等部の保健室である事に早々に気付けたから良かったけれども。

 兎にも角にも、この世界が乙女ゲーム『聖アールグレイ学園』である事についても、前世の俺の人格が戻った事に関しても、考える事は山のようにあるのに、肝心の職員室に辿り着くのに予想以上に時間がかかった。春とはいえ、外もそろそろ暗くなる時間帯で、俺は新学期早々宿題とか出されている可能性も考えて「うわあ…」と頭を抱えたくなった。いや、諸事情で、春休みからこっちの寮に入って引っ越しの片づけとかできなかったから、正真正銘今日が入寮日なのだ。帰ったらまずは寮監の部屋で鍵を受け取ってから荷解きとか色々あるのに、初っ端から色々出遅れすぎた。ぶっちゃけやる事が多すぎ。

 「おお、来たか。仮名(かりな)、入って良いぞー」

 朗らかな声がして、思考が中断される。

 この声って……。

 新学期の始りで忙しそうな教師や小間使い的な感じの生徒が入り乱れた職員室の中で、教員用のデスクに着き、手招きしながら俺を呼ぶ一人の男。

 うげえ。

 思わず、取り繕った顔で漏らしそうになった声を喉奥で堪える。心なしか鉄面皮を誇る表情筋が引き攣りそうだ。

 呼び声に釣られて入ったはいいもの、男の姿を視界に捉えた俺は、立ち止りそうになる。

「こっち、こっち」

 爽やかで、良く言えば人懐こそうなイケメンフェイス。

 襟足を刈り込み、少しだけ伸ばした柔らかな栗色の髪。濃い茶色が散った虹彩。

 上背は高く、体育科の教師らしく程良く鍛えられた体つき。

 入学式だったからその首にはネクタイが締められ、青地の縦ラインが入ったスーツのスラックス姿だったけれど、放課後になって上着は脱いだのか長袖を捲り上げた白地のシャツ一枚で。

 俺の知っている「彼」とは違う姿だけれども、スーツ姿の彼は教師らしく畏まった服装だった。

 Tシャツにジャージの印象が強かった俺は、服装は違えど、顔からして確かに俺の知る「彼」であると認識せざるを得なかった。

 マジかー。

 思わず唇だけで呟く。

 「体調はどうだ?一応、親御さんに連絡入れようと思ったんだけど繋がらなくてな……」

 俺が立ち竦んだままそれ以上彼に近寄らないのを見て、眉根を寄せて心配げな表情で自分から俺に近付き、声をかけてくる。

 「………すみませ、ん。ついさっき目が覚めたばっかりでちょっと反応が鈍いですけど、体調は無事回復しました。だから、親には連絡しなくても大丈夫です。この時間は仕事中だろうし、私が後で電話をかけますから」

 「そうか?まだ顔色悪そうだけど……」

 「いえ、大丈夫です。元から貧血気味なのでこの顔色がデフォルトです」

 納得がいってなさそうな顔で覗きこまれるが、それ以上そのきらきらな顔を近づけないで欲しい。幾ら、俺の体調が思わしくなさそうだから検分しているにしても思春期の女の子からしてみれば、イケメンが心配そうに顔を覗き込んでいるシチュは乙女の憧れのスチルなのだ。俺だから勘違いする事もなく「止めろ」で終わるが、思春期の恋に恋する乙女達(笑)にとっては、うっかり恋に落ちかねない素敵なスペックとスタイルの男なのだ。乙女の憧れの大人枠に余裕で入りそうなこの男は、前世の俺からしてみればギリギリとハンカチを噛み締めたくなる程羨ましいのだが仕方ない。俺は魔法の呪文を唱える事によって苛つきを抑える事にする。

 イケメン滅びろ。

 「貧血か、もしかしてそれで式中に倒れたのか。あ、そうそう、入学式の途中で倒れちゃったから俺の名前も知らないよな。改めまして、1年A組の担当になった上杉誠也(うえすぎせいや)だ。宜しくな!」

 そう言って、手を差し出してにっこりと笑いかけてきた爽やか男は、何を隠そう、ヒロインのクラスの担任となる教師であり―――攻略対象だった。

 うん、取り敢えず。

 ……本日二度目のマジか!























To be continued…?



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