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俺が「俺」だという事を思い出したきっかけは、奇しくも、桜舞い散る入学式の答辞の時。
「新入生代表、皇煌夜」
ざわっ。
長ったらしい学園長の式辞が終え、次にトップの成績で入試に受かったのであろう新入生代表の答辞の番になり、件の生徒が壇上に姿を現す。
その瞬間、延々と続く長い話にだらけていた新入生の意識がハッと彼に集中するのを、生徒の集団にいた「私」は気付いた。必死に受験を頑張った高校の入学式に先日から緊張していた「私」は、中々寝付けなくて学園長の長い話にこっくりこっくり船を漕いでいたから、それまで粛々と進んでいた式中に突如広がった息を呑むようなざわめきに、夢から醒めるように我に返り、会場中の視線が壇上に向かっているのに気が付いて、倣うように「私」も視線を向けた。
「――――っつ!」
目の覚めるような麗人が、壇上に堂々と立っていた。
「春麗らかな――…」
その声は、マイクがなくても体育館中に届くのではないかと思うくらい、涼やかに響く。
手元に答辞の紙を持ちながら、ちらりともそれを見ずに臆すことなく会場を見渡す視線は百獣を従わせる王をも思わせる気品とカリスマがそこにはあった。
だけど。
彼が話す言葉に魅入ったように聞き入る会場とは異なり、「私」は走馬灯のようにフラッシュバックした前世の記憶の奔流に呑み込まれて、彼がどんなスピーチをしているかなんて全然頭に入らなかった。
キャパオーバーな膨大な記憶に、オーバーヒートを起こした私は、生徒用のパイプ椅子に腰かけた状態でそのままブラックアウトした。
「イケメン爆ぜろ……」
そんな、前世のモテない「俺」の恨みが籠ったセリフと共に。
To be continued…?