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放課後。
誰もいない廊下を一人で歩く。
部活動紹介は明日だから、部活に所属していない一年は用事もない校舎には既にない。
「……………………」
やっと、主人公の乙女ゲーム的進捗状況をリアルタイムで見られたというのに(まともかどうかはこの際置いとく)、それが根本的な解決策になるのか曖昧な情報で、尚且つ委員長イベントでいた筈の親愛なる隣人(ホラ、ここ一応ミッション系だから、例えもそれっぽくさ。同じキリストでも聖の方のお兄さんの方が好きだけど)は不在で。
しかも勝敗の要は、じゃんけん。
運による勝ち負けで、主人公はイベントを成功させた。
それって、さ。
好感度というか、イベント進捗的には、判断基準にはなりえなくね?と個人的に思う訳で。
そして。
委員長イベントで見たことない選択肢・じゃんけんによって、勝敗を分けたこの茶番。本来ならば、そのイベントの選択肢的にも必要不可欠で、スチルにもしっかりいた筈の、メインヒーロー・皇煌夜の不在。
アレレ~、おかしいなあ?
思わず某ぶりっこ探偵の声音で首を傾げる。
そもそも、なんであいつ、いねーの?
いや、朝からいなかったんだから、超今更なんだけどさ。うん。
でもさ、でもさ。
いや、本当にガチで。
……何で、アイツいねーんだよ。
「――あ。ねえ、キミ!」
「!」
スッと、ナイフで切れ込みを入れるように。
少しも歪な形に削らない、綺麗に研がされた鋭利な声音で清閑な空気を裂いたソレは。
ぞっとするくらい耳に馴染む低い音程で。
思わず、足を止めてしまうくらいには、唐突なものだった。
耳に心地良く響くこの声色は。
聴き覚えがありすぎるくらいで。
どうして。
何故。
息を吸い込んだまま、見開いた目をゆっくりと動かして、動かない体の代わりに背後を見ようとする。
「ちょっと、良いかな?一年担当の先生方が丁度職員会議で誰も捕まらなくて。キミ、一年生だろ?」
「…………」
嗚呼、嘘だろ。
振り返らずに立ち止った後ろから、段々と近付く気配と声。
「?ねえ、キミ」
遂に俺の所まで辿り着いた声の主が、頑なに動かない俺の肩にかかる。
「っつ」
顔を覗き込むように肩を掴まれ、俺は息をゆっくりと吐いて観念するように振り向いた。
「どうしたの、キミ。体調が悪いのかな?」
『――――は、……だよ』
振り向いた先にあった姿に、俺の脳裏に懐かしい顔がおぼろげに過る。
「……………生徒、会長」
ぽつりと零れ落ちたのは、まさかとぎりぎりまで否定していた存在の事実を表す名で。
小さくとも聞き取れたのか、きょとりと目を瞬かせたその人物は。
主人公らしく整った容貌で、見惚れてしまうくらい綺麗な笑みを浮かべた。
To be continued…?
更なる厄介事が少女を襲う。