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「――君は…」
まだ若干肌寒い早朝。
桜が舞い散る木の下に、その青年がいた。
天使のような雰囲気を纏った、悪魔が。
はい、エンカウントオオオオ!!!!!!!!!!
来たな、来たな、来ちゃったな?!
昨日の時点で、お前が来る事は分かってたんだよお見通しなんだよ、バーロー!今更、ビックリなんてしないゾ!心なしか目の前が滲んでるなんてただの蜃気楼なんだぜ!
ははは、あはは!!!!!!!!!!
……表情はポーカーフェイスで微動だにせず、心の中で滂沱の涙を流しながら思いっきりパニクってる俺ですが、何か?
主人公――四季恋華の偵察で見た、礼拝堂イベントの攻略対象者が前方にいた。
そう、奴は、中二階に潜んでいた俺の気配に勘付いて、ゴキブリを発見したかのように蔑んだ目で、階下にいたのに思いっきり見下げられた視線を送られ俺のなけなしのプライドを木端微塵にしてくださりやがったあのイケメン変態神父。あ?名前?生徒に手を出す不届き者なんて、変態で十分だろ!
OK、OK。取り敢えず、状況を整理しよう。
現在、入学してから記念すべき三日目の登校にしてはちょい時間が早い朝。
桜並木が目に優しい、洒落乙な煉瓦舗装された高等部に続く通り道の一つ。
まだ部活動紹介もない一年生がこんな早朝を登校している筈もなく、また朝練がある他の二、三年生は既に登校済みの、なんとも中途半端な時間帯の為、見晴らしの良い一本道のこの大通りには、俺と件の男以外の人影は一つもなかった。つまりは、二人っきり。うわあお。
「おはようございます」
「……おはようございます」
爽やかに声をかけられて、俺は動揺を押し殺し、鉄面皮で挨拶を返す。
10メートル先にいる奴に気付くのが遅れたのは、単純に桜の木陰で佇む姿を視認できなかったのもあるけれど、三日目にして既に前途多難な未来に魂を飛ばしてふらふらしていたからである。前者は兎も角、後者は不覚すぎる。
俺は一瞬だけ奴の方へ視線を合わせ、挨拶と共に会釈しながらそのまま素通りしようとするが。
「こんなにも早朝に登校とは、勤勉なんですね。私はこの通り、神父なので朝の勤めがあるのですが、君は何か用事でも?」
そうは問屋が卸さなかった。
ちっ。
内心で盛大に舌打ちして、奴の方へ顔を向ける。
にっこりと、慈愛の笑みを浮かべる金髪碧眼のハーフ野郎。
うふふ、背後にある麗しい桜並木がテメーの隠しきれてない腹黒いオーラで台無しになってんぞ。
普通なら、ここで立ち止まって会話だろうが。
「いえ、ちょっと。……失礼します」
「あ……」
ハッ、その手は食わねえ。コミュ障のコミュ力のなさをなめんなよ!
そそくさと逃げるように足を速めてその場を離れた。背後からのビシバシ当たる強い視線に、内心で悲鳴を上げながら。
キーンコーンカーンコーン。
学校のチャイムって、大体こんな何の変哲もないメロディとか多いよな。因みに、俺の前世では小中高このロディだった。
だけど。
どうやら、この金持ち校は『野ばら』がチャイムらしい。あ、メロディラインが分からない奴は動画でも検索してくれ。他所では防災用とかにも使われているらしいから。
俺は呆けた頭でそんな事を思いつつ、心の中でこっそり前世のチャイムを口遊む。気分はキンコンカンなんだ、ほっといてくれ。
「おはよう。皆、揃っているな」
朝から爽やかな声で教室に入って来る男に、俺は無気力な目でその顔を見上げてぼそりと心の中で罵った。
―――揃ってねーよ。テメーの目は節穴か!
ギリギリと睨み付けるようにその軽薄そうな茶髪男を見ていると、心の声が聞こえた訳でもないだろうが、ロリコン教師が「ああ、そう言えば」と付け加えた。
「皇は、家の都合で休みだ。それ以外は皆ちゃんと遅刻者もなく揃っているな!」
「…………」
空席である隣人の欠席理由を告げられ、俺はいつまで経ってもやって来ない隣席の男がとうとう今日は来ない事を知り、朝から苛々MAXだ。欠席理由を曖昧ながらも教えてくれた事で、空席である理由も分からず苛々していた俺の不快感指数は少しは減ったが、朝っぱらから爽やかな担任の教師を見ると、やっぱりイケメン嫌いの俺の苛々は復活するわけで。
これが所謂プラマイゼロかと遠い目で嘯いてしまう。
「今日の7限目は、クラスの委員決めをする。今の内に考えておいてくれ」
SHRの短い時間を気にしつつ、本日の7限目のLHRの予定を告げるロリコン教師。
委員決め?
普通、それ昨日か入学式の日にやるもんじゃね?とか思うが、そう言えば、俺がぶっ倒れた入学式の日は教室棟とかカリキュラムの紹介でオリエンテーションだったけなと思い出す。この馬鹿広い学園の事だ。初日はそれだけ潰れたのだろう。昨日は昨日で通常授業で配布物も多かったし、時間割の問題か。
「一限目は体育だから、ホームルームはここまでにするな。各自更衣室で着替えたら、体育館に集合!」
そんなこんなで、体育館。
三つ編み、七三、眼鏡の三拍子の俺のナリを察して貰うと分かるだろうが、俺は体育向きじゃない。つーか、運動全般好きではない。体を動かす事がそもそもメンドイのだ。熱血スポ根とかも見るのも無理。況してや、ありがちな熱血スポ根教師なんて、暑苦しすぎて唾棄すべき輩である。それは、爽やか教師でもその括りに入る訳で。
「シャトルランとかの身体測定は明日やるから、今日は取り敢えず集団行動な!」
爽やか枠ロリコン教師は、ゲーム画面で見た事のある青いジャージにホイッスルを首に掛けた姿で、ステージ側に立った。
襟ぐりは開かれた白のTシャツで、上着を羽織っただけだから、服越しでも分かる逞しい胸筋とか首筋の太さとか男らしさがちらちらと目につく。ちっ、イケメン爆ぜろ。
……前世の俺は、自分より整った男にここまで小姑のような感じで目の敵にしてはいなかった筈だけれど、女性という異なる体に前世の魂が目醒めたからか、視野が広くなったとういうか気付かなかった事に気付くようになった気がする。興味がないものには一切関知しなかった俺でも、目にするものをしっかり見るようになったというか。女が元々持っている男とは異なる視点を身に着けたって感じだ。まあ、アレだな。恐怖の女子トイレとか、友達同士で好きな奴を狙う時のえげつなさのバトルとか見てたら、色々目が鍛えられたのかもしれん。目に映るモノの表面だけ見るんじゃなく、その本質を見ようとしている……のかもな。うん。前世俺+今世私で観察力が鍛えられたってコトだな。その結果が、益々イケメン嫌いを拗らせているのはもうどうしようもないとしか言えない。うん。
あ、今の俺なら「女の勘」とかチート並みな第六感も扱えるんじゃね?
「じゃあ、男女別で名前順に一列並んで整列!」
ピッ、と早速ホイッスルで号令かけられ、ぼけっとしていた俺は列に並ぶ。
が。
「…お前あっちだろ」
目を丸くした男子生徒が俺を呆れたように見ると、人差し指で隣を示す。
「あ」
既に並び終わった二列の間に立ちつくし、俺はその指摘の意味に気付いて慌てて女子の列に並んだ。
くすくすと微かに笑う声が聞こえてきて、俺は色んな意味で引き籠りたくなってきた。
「静かに!次は、身長順に整列な」
ステージ側に立ったロリコン教師なら一部始終見えていただろうが、武士の情けか敢えて何も言わずに次の指示を出した。
ツッコめよ!笑い飛ばせよ!そっちの腫物に触るような感じの対応の方が傷付くわ!
色々言いたい事はあったが、これ以上傷を増やすと本気でお布団の中から引き籠って出てこなくなる未来を予想して、俺は無言で奴の指示に従うのだった。
To be continued…?




