表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
器の中身(仮)  作者: yoru
2/2

僕の器

後編


看護大学を卒業した僕は知人のつてで、精神科病院に就職した。

右も左も分からない僕の教育係を務めてくれたのは3年目のナースの鈴木さんだった。


「今日も保護室担当かぁ」

「君にはPICUはまだ早いよ。じゃあ検温お願い」

「はい、入浴の日でしたよね、順番に連れて行きます」


精神科病棟の保護室は、ベッドとトイレが付いているシンプルな個室で、入院患者がけがをしないように、壁なども柔らかい素材でできている。

もちろん分からないようにカメラもついていて、ナースステーションから患者の様子を見ることが出来る。

田村さんという若い女の方が現在入っていて、この方は意思の疎通は出来るが鬱を患っており、いろいろな点で心配だった。

ときどき、なぜ自分がここにいるのかもわからない様子でじっとしている。


「おはようございます田村さん、入りますよ」


その瞬間、僕は妙な違和感を感じていた。

まず電動式のベッドが中途半端に持ち上がっていて、田村さんがその上に腰かけてうつむいている。

そして手首から血を流したまま、ちからなくこちらを振り向いてきた。


「ちょっちょっちょっと、田村さんその手首どうしたんですか?」

「何でもないよ、ちょっと自傷してみただけ」

「いったいどうやって?」


よく見るとプラスチック製のコップが割れていて、どうやら電動ベッドを動かして割ったらしい。

そしてとがった破片で手首に傷をつけたようだった。

一気にパニックになった僕は、教育係の鈴木さんのもとに走って行って助けを求めた。


「どれどれ、静脈まで行ってないし、ひっかき傷だね。ちょっと先生を呼んでくるから待ってて」

そう言い残して鈴木さんは部屋から出て行った。


「どうしてこんなことを………」

「あのね、自傷をするとなんだかホッとするの」

「でも傷つけるのは痛いでしょう?」

「あのね、このまま死んでも良いかなと思っていて、それでも血を見ると生きているんだなって」


その後のことはよく分からない。僕はナースステーションで田村さんの看護記録をかきながら、あの時の部屋の様子がなかなか頭から離れなかった。


そんなこんなで病棟で色々な経験をしているうちに、僕は心底看護師を辞めたくなった。

僕にできる事なんて何もない。


あの時のインド人の言葉をふと思い出す。そしてそっと独り言をつぶやいていた。

「僕の器はとても小さかったんだな、そしてそもそも中に入れるものを間違えたんだ」と。


(終わり)

お読みいただいてありがとうございます。長編にするつもりでしたが、前話を前編として今回が後編の2部構成で終わらせていただきたいと思います。初めて小説を書きいろいろと得るものがありました。今はまた気が向いたら書いてみようと思っています。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ