柑橘類とヨーグルトの爽やかムースケーキ
季節に合わせた洋菓子を。
いつか和菓子も出すかもしれません。
今日の一押しメニューは柑橘ヨーグルトケーキ。クッキー生地の上にヨーグルトムース、更にその上にピンクと白のグレープフルーツ、オレンジ、それからミントを飾った冷たいケーキだ。暑い季節には丁度いいから、きっとお客様も喜んでくれるだろう。
「こんにちは〜、もうやってますか?」
カランコロンとドアのベルが鳴り、一人の青年が入ってきた。彼はこの森でしか採取できない植物を採った帰りや採りに行く前に店に来る、所謂常連客の一人だ。
「いらっしゃい、マーク。丁度開店したところだよ」
彼は人好きのする笑顔を浮かべ、僕の目の前のカウンター席に座った。月に二度やって来る彼はいつもこの席に座る。毎回一押しメニューと紅茶を頼み、一時間ほどゆっくりしてから出ていく。
「じゃあ、僕が今日最初のお客さんですね! あ、今日の一押しメニューと紅茶でお願いします」
今日もいつも通りの注文だ。かしこまりました、と笑って応じ、紅茶の用意をする。ケーキは丁寧に六等分にし、一切れを皿にのせる。一度氷魔法で作った冷蔵箱に戻し、冷やす間に紅茶を淹れる。温めたカップに三分蒸らしてから注ぎ、ソーサーの上にのせる。冷えたケーキと一緒にカウンターに置くと、それを合図に彼が話し始めた。
「今度、薬師局の研究科に勤めることになったんですよ。研究設備も良いですし、楽しみなんですよね〜」
彼はずっと個人でこの森の植物の研究をしていたのだけれど、とうとう長年の夢だった薬師局――薬師局は彼や僕のいるイタレン王国の国家機関だ――に勤めることになったようだ。
「夢が叶ったんだね、おめでとう!」
彼がケーキと紅茶を取るのを眺めながら言うと彼は照れ臭そうに笑った。その様子を見ていると僕もつられたように自然に笑顔になった。
「えへへ、ありがとうございます! 僕、これからもたくさん研究して、いつかきっとすごい薬を作りますから!」
彼は目を輝かせ、夢を語っている。僕も彼が作った薬でたくさんの人が救われる未来を想像すると、期待で胸が熱くなった。
それからも彼は話し足りないといった風だったけれど、紅茶が冷めるからと一度会話を中断してもらった。彼がケーキを食べ終えたら、また話を聞くと約束して他のお客様がいつ来ても良いようにテーブルを磨いたり、店の前を軽く掃除したりと仕事に取り掛かった。一通り仕事を終え、カウンターに戻ると彼が待っていたと言わんばかりに話し始めた。
「マスター、このケーキすっごく美味しいです! 甘さもそこまで強くないですし、柑橘の酸味と香りがヨーグルトムースに合ってて……本当に今の季節にぴったりですよ! しかもクッキー生地がほんのり塩味で飽きが来ないです! これならホールで食べられます!」
興奮気味に感想を伝えてくる彼に押されつつ、お誉めに預かり光栄です、なんて格好つけて言ってみる。彼が熟練マスターみたいで格好いいですね、と笑った。
ところで、ホールで食べるのは流石に無理なんじゃないだろうか……。
次話投稿は8月10日を予定しています。