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お狐様、まかりとおる!! ~転生妖狐の異世界漫遊記~  作者: 九巻はるか
第1章 大森海の世界樹とお狐様
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その8 お狐様、食事するついでに食事される!

「ごはん♪ ごはん♪ おかずか無いから、きょうはおにぎり~♪」


 腕を(まく)り、ご機嫌そうに口ずさみながら米を炊く作業を行っていた伊織だったが、穴が二つある(かまど)の片方に米の入った鍋をかけた後、ふと我に返った。


「この竈ってどうやって火を入れるんですか?」


 竈に薪をくべるにもくべるための焚口(たきぐち)が無いことに気がついたのだ。


「もしかして鍋をかけるための穴からいれたりします?」


 そう言って空いている方の穴の上から竈の中をのぞき込む伊織。

 だが、竈の中を見ても薪を燃やしたような後は無く、あるのは煉瓦のようにくすんだ紅色の金属だけである。


「妾は火を使われることが好かんのでな。直接火が出ないようにしておるんじゃ」


 ならなぜ、火の魔術を教えたのだ? と問い詰めたい気分の伊織だったが、それを言うとまたバトルになりかねないので華麗にスルーし、今ある疑問をぶつけた。


「じゃあ、どうやって煮炊きします?」

「中に緋緋色金が入っているじゃろ? それにマナを注ぎ込めば熱を放出するのじゃ」

「なるほどー、あれが熱源になるんですね。でもどうやってマナを注ぎこみます?」

「竈に手をついて体内のマナを竈に向けて移動させよ。さすれば自然に緋緋色金にマナが流れるようになっておる」

「コン? マナを移動させるようにですか。うーん、こんな感じかなぁ……」


 伊織は竈に手を付き、体内に環流しているマナの一部を竈に向けた。

 すると、それまで紅くくすんでいた金属が紅く光り輝き、それと同時に沸き上がるような熱が伊織の肌を刺した。


「わっ! 眩しっ! それにすごい熱!」

「マナを一気に注ぎ込みすぎじゃ。もっとゆっくり少しずつ注いでみよ」

「ゆっくり、すこしずつ……」


 手加減して注ぎ込んだつもりだったのだが、それでもマナの量が多すぎたらしい。

 伊織はアティラの指摘通り出来るだけ少なくゆっくりとマナを注ぐ。すると光り輝いていた金属は徐々に発光を弱め、発する熱も柔らかく変化する。


「うむ。上出来じゃ。汝は飲み込みが早いのう」

「僕にかかればこのくらい朝飯前ですよ♪ おっと、火が弱いかな?」


 ふふんと胸を張って勝ち誇る伊織。だが、火加減の調整は欠かさない。おいしいご飯を作るためだ。


「にしてもそのマナの量。半端でないのう。このまま成長すればいつか妾もを凌ぐかもしれん」

「え? 本当に? でも尾は一本ですよ?」


 半信半疑の伊織は太く立派な毛並みの尾をふりふりさせる。


「む? どれはどういう意味じゃ?」

「コン……えーと、お狐様……妖狐というのは尾の数が多くなるほど力が増すらしいんです。最も強い妖狐は九尾を持つと言われてますね」

「すると汝は妖狐の中ではまだまだ駆け出しなのじゃな」

「ええ、まあ、多分、きっと、そうなのかな……?」


 言葉を濁す伊織。ぶっちゃけ妖狐を生で見たことなど無いのだから断言出来るはずもない。

 それに本人自体も妖狐初心者なのだから返答に困るような質問はご遠慮いただきたいところだ。

 というか、そもそも伊織は自分が記憶喪失という設定なのだから、アティラの質問に答えられる方がおかしいという事に気付くべきであるのだがそこはご愛敬だ。

 出たとこ勝負の伊織に話の整合性を期待するのが間違っているのである。


 そんな妖狐レベル1の伊織だったが料理レベルはMAXだったらしく、まるで真珠のように光るご飯を炊きあげた。火力調整が上手くいったのだ。

 しゃもじっぽい木匙で炊きあがったばかりのご飯を素早く混ぜ余計な水分を飛ばすと、同時にえも言われぬ薫香があたりに漂った。

 伊織は混ぜ終わった米を大きめの木椀に移し、手を水に入れて濡らす。そして塩を掌に付けると手早くご飯を握り木皿に盛りつけた。


 伊織特製、塩おにぎりの完成だ。


「はい、完成です!」

「おお、随分と手慣れておるのう!」


 アティラは伊織の手際の良さに感心の声をあげた。


「なんというか、体が覚えていたんです」

「ふむ。良い香りじゃ。……妾も食事としようかのう」

「うわっ、美味しい! アティも食べてみます? 美味しいですよ!」


 伊織はおにぎりを頬張りながらお一ついかがと勧める。


「いや、結構。汝はそれよりももっと美味い物を持っているじゃろう?」

「え? もっと美味い物ですか? なんだろう?」


 アティラの瞳が妖しく光る。だが、勘の悪い伊織はその変化に気がつかず、もぐもぐと二つ目のおにぎりを頬張りながら首を傾げるばかりだ。


「汝、手を貸せい」

「はあ。どうぞ?」


 伊織は疑問符を浮かべたまま言われるがまま差し出す。アティラが伊織の右手を取った。そして、


「ひゃあ! ななななにするんですかぁ!」


 伊織は突拍子も無い声をあげた。


「んっ、んっ」


 なぜなら、アティラが伊織の人差し指を口に含み、(なぶ)るように舐め回しだしたからだ。


「ちょっ、あっ、んっ。やっ、やめて下さい! 何してるんですか!」


 未知なる感覚に口から思わず嬌声が漏れる伊織。


「ふぅこぉすぃがむゎんしぇい!」


 アティラは指を嬲ったまま上目遣いで言った。どうやら、少し我慢しろと言っているらしい。


「日本語でおk! って元々日本語じゃ無かった! って、あっ、ちょっ、やばっ、やばいですって! 事案発生しちゃうぅぅ!」


 発生しちゃうと言うか既に発生済みである。だが、心配は無い。ここにはマッポもサツも警察も存在しない。


「ふう、満腹じゃ!」

「あっ……あれ? 力が……コン……」


 アティラの口から指が解放されると伊織は睦み合った事後の如くかんばせを赤らめ、くたりと力なく床に伏せった。

 何故か体に力が入らなかったのだ。

 千早や緋袴がややはだけた姿は端から見ると汚された感ばりばりである。


「ぁぁ……私に何をしたんです……?」


 伊織は伏せったまま視線だけをつやつやしているアティラに向けた。


「なに。汝のマナをちょいと頂いただけじゃ。まぁ、家賃代わりじゃw」

「ちょっとって……どのくらい……ですか?」

「うむ。汝のマナの98%くらいかの?」

「それ、ちょっとじゃないですよ……」


 弱々しく抗議する伊織だったが、それ以上の言葉を発することは出来ず、意識はそのまま暗闇の中に吸い込まれていった。




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