その50 お狐様、滅っ!
「ご褒美キターー!! って、あれ? ここって寝室? それにイロハ?」
伊織は目を覚ますと意味不明な雄叫びをあげつつ身を起こした。そして辺りを見渡しイロハを発見するも状況を飲み込めず首を傾げた。
「伊織様! 良かった!」
側で控えていたイロハが目を覚ました伊織に気がつき抱きついた。伊織の顔にイロハの豊満な胸が当たる。
「おほーっ! 大きいおっぱいキター……じゃなくて! えーと、なんで私、ここで寝ているんでしたっけ?」
思わずイロハの胸の感触に歓喜しそうになる伊織だったが、すぐにごまかしがてら今ある疑問を口にした。
「『めっ!』をしたら伊織様が埋まりました……」
「ごめん。ちょっと言葉の意味がわからないんですけどー」
説明が端折られすぎて意味不明であった。
「伊織様を窘めようとして小突いたところ、思いの外威力があったらしく伊織様が地面に埋まったのです……」
「……ああ、なるほど。言われてみればイロハに『めっ!』を頂いた後の記憶が無い……」
伊織が納得したように呟いた。メイド美少女イロハちゃんにご褒美の『めっ!』を貰ったはずなのに、何故か気がついたら寝室で寝ているという疑問が氷解したのだ。
「伊織様、申し訳ございませんでした。私の不徳の致すところでございます」
イロハは伊織から身を離すと、すっと座を正し額突いた。
「わわっ! 頭を上げて下さい! 調子に乗って駄女神を煽った私が悪いんであって、イロハは悪くないんですから!」
伊織は慌ててイロハをフォローした。
自分が地面に埋まった結果はともあれ、そもそもの発端は調子に乗ってアティラを煽った自分にあるという自覚があったのだ。それなのにちょっと力加減を誤ったイロハに頭を下げされるという行為に伊織は罪悪感を覚えてしまったのである。
クズにしては殊勝な心がけであった。
「しかし、伊織様を傷つけたという事実は変わりません」
イロハは顔を上げたものの、自分を許せないのか後悔した様子で顔を伏せた。伊織はどうしたものかと少し首を傾げ思考を巡らせた。
「じゃあ、イロハには罰を与えます。それも体罰です」
伊織は言葉に感情を込めず宣告した。
「はい。なんなりと」
イロハは座して死を待つが如く、正座したまま抵抗せずに目を伏せた。
「良い度胸です。では覚悟を決めて下さい」
伊織はイロハの前に立ち拳を振り上げた。イロハは反射的に身を強張らせた。覚悟を決めたとはいえ、恐怖心が全く無い訳ではなかったのだ。
そして次の瞬間、勢いよく伊織の拳がイロハ目がけて振り下ろされ、
「イロハ。『めっ!』です!」
伊織の人差し指がイロハの額を小突いた。
「……あの……伊織様?」
イロハは呆気にとられたまま伊織を見上げた。何が起きたのかすぐに理解出来なかったのだ。
「これでおあいこですよ♪」
にかっと笑みを浮かべる伊織。イロハは伊織の意図を理解。瞳を潤ませ抱きついた。
「わわっ! イロハ、潰れちゃいますっ!」
「大丈夫です。力加減の仕方はもう覚えましたから」
「……言われてみれば確かにそうですね。じゃあ、私もぎゅーです!」
伊織は抱きしめられてそのまま潰されることを危惧したが、柔らかく抱きしめられる感触でイロハの言葉が真実であると理解。そしてすぐにこれは目の前にある柔らかな双丘を堪能するチャンスであることに気がつき、思いっきり抱きついて豊満な果実に顔を埋めた。
(おほーっ! イロハのデリシャススイカップキタコレ! イロハに寛大な態度をとって大正解だったよっ!!)
「ふふ。暖かいですね」
体温なのか気持ちなのか、それともその両方なのかは本人しかわからないが、イロハが幸せそうに呟いた。
伊織の心遣いが嬉しかったのだ。おかげで伊織に対する好感度はマックスどころか上限突破。もはや気持ちが溢れてしまう寸前であった。
一方、伊織はイロハの気持ちがそんなことになっているとは露知らず、ただおっぱいの感触を楽しむことしか頭に無かった。
「むぎゅー! (おっぱい)大好きー! はすはすっ!」
調子に乗って執拗に顔を押しつけたりする伊織。やりたい放題だった。と、そんな時、寝室の入り口の端からこちらをじーっと見詰める双眸に気がついた。
「……あの、アティ……一体、いつから……」
「いやなに。妾はいないものとして続けるのじゃ」
出歯亀神あてらちゃんはそ己を居ないものと取り扱うよう要求した。
完全に出歯亀る気満々であった。端的に言ってむっつりだった。
「そんなことできるかー!」
キレる伊織であった。
令和元年11月28日改稿




