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お狐様、まかりとおる!! ~転生妖狐の異世界漫遊記~  作者: 九巻はるか
第1章 大森海の世界樹とお狐様
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その4 お狐様、ょぅι゛ょと邂逅する!

「扉……だよね」


 伊織は洞の最奥に存在していた扉の前で驚愕していた。まさか大樹の内部に人工物が出てくるとは思っていなかったのだ。

 扉は木の板にノブをつけただけの簡易なものだ。

 伊織はその扉のノブを掴み、ゆっくりと扉を奥に押し込んた。すると扉はギギギと鈍い音を立てながらあっさりと開いた。そして、その扉の奥には大きな部屋が広がっていた。


「わぁ! おうちだ! 本当の意味でログハウス! 何となくアルプスにありそうな感じ!」


 西洋風自然住宅を見てアルプスが舞台の某アニメしか思いつかない発想が貧困な伊織がはしゃぎながら室内に突入した。

 室内には大きな木を水平に切って作られた年輪テーブルと、イスが4脚置かれており、壁の窪みに置かれたランプが部屋を明るく照らす。部屋は大きな洞をそのまま利用したような作りで、壁が斜めになっており高さ5メートルほどある天井付近で一つにまとまっていた。


 伊織は恐らくここが居間であろうと予想しつつ、ふと入口のほうに目を向けた。するとすぐそばにドアが一つあるのに気がついた。開けてみるとトイレだ。トイレは重要だよねと一人納得しつつさらに居間を見回してみると奥に部屋があるのが見えた。

 また、その奥の部屋とは反対側の壁の高さ1メートル位の位置に人が一人通り抜けられそうな穴がぽっかりと空いていた。


「何かの物語に出てきそう! ハイジとかクララとか!」


伊織が興奮気味にテーブルに手を乗せると埃がぶわっと舞い上がった。


「うわっ! 凄いほこり!」


 よく見るとテーブルだけでは無く床もほこりだらけである。埃の積もり具合を見るにつけ、どうやら長いこと使われていない様子だ。

 だが、これは好都合。誰も使っていないのなら、自分が住まわせて貰っても大丈夫だよねと独り言を呟く伊織。

 もちろん大丈夫な訳が無い。完全に住居侵入罪である。


「えーと、台所は奥の部屋かな?」


 居間の奥にあった部屋をのぞき込む。すると、そこには石造りの竈と幹をくりぬいた棚があり、鍋や木の皿、少なくない数の甕などが収まっていた。

 また、地面から突き出た岩の先からはこんこんと水が湧き出し、その岩の一部をくり抜いて作られたシンクの排水溝に流れ出ていく。

 部屋の端には小さめの食卓もあり、ここで軽く食事を摂ることも出来そうだった。


「わー! この台所、天然の水道付きだよ!」


 水を一口含む。冷たくそれでいてほのかに甘い液体が喉を潤す。


「うん! おいしい! 言うこと無しだね!」


 諸手を挙げて喜ぶ伊織。

 水は美味しいし、これならわざわざ泉まで汲みに行く必要が無くなるためご満悦だ。あとは寝床があれば完璧だと思いながら台所から居間に戻る。

 さて、寝室はどこにあるのだろうと伊織は居間の中を見回すと、台所の反対側の壁に開いている穴が目に映った。


「コン! ……あの穴ってもしかして!」


 ぴんときた伊織は小さい足を動かし、とことこと壁の穴に近づく。高さ1メートルほどの高さに開いた直径50センチほどの穴の前までやってくると、穴に頭を突っ込んだ。

 すると目の前には居間よりも床が高く、縦横高さがそれぞれ3メートルほどの半球状の部屋が広がっていた。部屋の壁全面が黒く塗られ、その上には無数の点が煌き光っていた。

 その光景はまるで闇夜に浮かぶ星のそのものであった。


「圧巻。と、でもいったらいいのかな?」


 伊織はそう漏らすとまたその星空を見入った。

 しばらくして隅に畳まれた毛布に気が付きこの部屋が寝室であったことを認識。今夜寝るのが楽しみだと思いながら、伊織は突っ込んでいた頭を抜き居間に向き直った。


 すると、椅子に座りテーブルに片肘をつけて頬を支えた幼女が物珍しそうにこちらを眺めていた。



          ――――――――――――――――――――――――――          



「えっと……おじゃましてます?」


 何故か疑問型の伊織が手をもじもじさせ上目遣いで言った。しかし幼女は何も答えず、じっと伊織を見つめるばかりだ。

 伊織は次なる言葉を考えながら幼女を観察する。

 体格は今の伊織よりも年下の見た目六歳程度で肌は少々浅黒い褐色。服装は木の葉をモチーフにしたような感じの緑色のワンピースだ。

 見目は非情に良く、腰の下までたっぷりと蓄えた艶のある銀色の頭髪や、まるで翠玉をはめ込んだように煌き澄んでいる瞳は見る者を一目で魅了してしまうほどに美しい。

 ここにペドの人が存在したのなら未成年者略取が発生してもおかしくない。ぶっちゃけ、二次ロリ好きの伊織としても好みど真ん中だった。

 だが、感じさせる雰囲気は幼女のそれでは無く、幾年もの齢を重ねた老練者ヴェテランのようであった。

 その証拠に伊織の立派な狐尾の毛が怪しい気配を感じ取りよだつ。

 そんな幼女がふっと相好そうごうを崩した。


「妖狐とは珍しいのう。なれはどこからきたのじゃ?」

「えっと……」


 少女の突然の質問に伊織は言葉を詰まらせた。

 どこからと聞かれてなんて答えれば良いのだろうか。まさか、日本の北海道ですと言ったところで意味が通じるとは思えない。転生しましたと言えれば話は早いが信じて貰えるとは思えないし、そもそも得体の知れないこの幼女にやすやすと自分の情報を与えるのは危険にも思えた。


 どうしたら良いのだろうかと伊織が頭を悩ませていると、幼女が伊織の心情を察したのか助け船を出すように言った。


「別に取って食いはせんよ。どこから転移してきたのじゃ?」

「え、転移ってどういうことですか?」

「ん? 違うのか? が一人。しかも手ぶらでこんな森の奥まで転移なしにやってこられるとは思えんのじゃが……」


 首を傾げる幼女の言葉を聞いて伊織はなるほどと頷いた。


 ……目の前の幼女は伊織がどこかの土地からこの場所に転移したと勘違いしているようだ。本当は転生なのだが、わざわざ疑問を増やすこともあるまい。このまま幼女の勘違いに乗っかり、この場所に転移したことにした方が話は早そうだ。それに転移前の記憶は転移の副作用で全て忘れてしまったことにすれば深くは突っ込まれないだろう。


 伊織は頭の中で素早くそう算段すると、あたかも困惑したように装い口を開いた。


「多分、そうなんだと思います。でも、過去の記憶が全く無くて……気がついたら木の根元にいて……」

「なるほど。記憶喪失か。だからわらわの傍らに突然現れたかと思うと、いきなり奇っ怪な行動を取ったり、泉を覗き込んで放心したりしていたのだな。てっきり気が違ったのかと思ったぞ」

「えっ? もしかして初めから見ていたんです……か?」


 伊織は表情を強張らせて確認するように聞いた。


「あの慌てふためく姿は中々に滑稽こっけいであったぞ。そういえば何を思ったかいきなり抱きついて来て、「おまえも一人なの?」と言い出した時はこやつ頭がおかしいのかと思ったものじゃw」


 幼女は伊織の姿を思い出したのか、くつくつと笑いだした。


「いやぁー! 全部見られてるぅぅぅぅ!」

「しかもに「そっか、僕といっしょだね」だしのぅwww」

「コン! 皆まで言わないで!」


 まさか、そんなところまで見られているとは思わなかった伊織は恥ずかしさのあまり悶絶だ。


「そもそも、あなたは誰なんです!? 口調が「のじゃ」って、ロリババアなんですか!?」


 二次元に毒されすぎの伊織が逆ギレだ。


「妾か? 妾はこれじゃが」


 幼女はそう言うと人差し指をピンと上に立て、視線を上に向けた。


「上?」


 それにつられて上を見上げる伊織。しかし見上げた先にあるのは大樹の天井だけだ。


「一体どういうことです?」


 意味が分からず怪訝な表情を浮かべる伊織。

 何も分かっていない伊織に幼女は呆れたようにやれやれと手を広げる。


「汝は察しが悪いのう。だから妾はこれじゃ」


 幼女は大樹の壁に歩み寄り、ぺちぺちと壁を叩いた。


「ただの木の壁じゃないですか……って、もしかして……これ?」


 伊織は話している途中で幼女が言わんとしていることに気がつき、確認するように壁をこんこんと叩いた。それを見た幼女はうむと満足げに頷く。


「……マジで?」

「マジじゃ」

「じゃあ、僕は今ユーの中ってこと?」

「そうじゃ」

本気マジ!で?」

「あゆみ乙じゃ」

「あの湧き水はユーの聖水?」

「セクハラじゃ。妾の聖水では無いのじゃ」

不運ハードラックダンスっちまった……」

「それは特攻ぶっこみじゃ」

「すいません、勝手におじゃまして……あと聖水……飲んじゃった……うぇ……」

「だから違うと言っているじゃろうが!」


 懲りない伊織だった。


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