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お狐様、まかりとおる!! ~転生妖狐の異世界漫遊記~  作者: 九巻はるか
第1章 大森海の世界樹とお狐様
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その47 お狐様、命名する!

「はふっはふっはふっ! 駄巫女ほどでは無いが、ゴロハチも中々の腕前よのう!」


 アティラは白飯を口いっぱいに頬張り、ゴロハチ特製の平茸とボア肉と葉物野菜の炒め物を掻っ込んだ。


「この平茸の味噌汁も良い出汁が出て美味しいですねぇ……」


 伊織がずずずと味噌汁を啜り、幸せそうな笑みを浮かべた。


「上手く出来て良かったです」


 ゴロハチはほっと胸をなで下ろした。


「ふう、満腹♪ そういえばこの平茸は私が取ってきたものですか?」


 満腹になった伊織が思い出したかのように確認。


「はい。台所に置いてあったものを使わせていただきました」


 ゴロハチが首肯した。


「やっぱりー。本当にこの森のきのこはどれも味がいいんですよね。なんでかな?」

「私も詳しくはわかりかねますが、フィロウシー様によると『大森海のきのこはマナが豊富に含まれているために美味である可能性が高い』と仰っておりました」

「なるほど、マナってうま味成分だったのか……」


 ゴロハチの豆知識を聞いて納得の伊織。


「んぐんぐんぐ! ぷふぁあ! 満腹満腹! 妾は満足じゃ! ゴロハチ、大義であった!」


 一人食事を続けていたアティラが食うもの食って満足げに感想をもらした。


「お褒めに預かり恐縮です」


 おすまし顔で礼を言うゴロハチ。


「うむ。今後も精進せよ! ときに汝、どうして人型になったのじゃ?」


 ご飯を食べて頭が働き出したのか、アティラが思い出したようにゴロハチに聞いた。


「むむっ、確かに! 私も気になります!」


 まったりしていた伊織も首を突っ込んできた。

 そんな二人に対しゴロハチは少し視線を外し、思考を巡らした後、ゆっくりと伊織たちに視線を戻し口を開いた。


「……説明がまだでしたね。結論から申しますと、フィロウシー様との契約に基づいたものです」

「フィロウシー様? ああ、あの男色魔か」

「えー、寛との契約ってどんなんだったんです?」

「伊織様が復活なさるまでフィロウシー様の魂をこの身に宿し、完遂すればその対価として人にして貰えるという契約です。その契約を果たした私は本日、人となりました」

「なるほどのう。だからあれは汝を妾の眷属とするよう迫った訳か。汝を不死にするために。まあ、認めた妾も妾だが」


 アティラは阿武隈がゴロハチを自分の眷属に推した理由をいまさらながらに理解。腑に落ちたように頷いた。


「……黙っていて申し訳ございませんでした。どんな罰でもお受けいたします」


 ゴロハチはすっと正座すると、額を地面に付け深々と謝罪した。


「よい。赦す。汝は妾に尽くしてくれたのでな。これからも頼むぞ」


 アティラはあっさりとした様子で免罪した。


「慈悲深い沙汰、感謝いたします」


 ゴロハチは頭を下げたまま礼を述べた。


「面を上げよ。それにしても、人化の契約をダシに魂の器にするとはのう……。ふん。阿武隈あれもいいように使いよる」


 アティラはつまらなそうに鼻を鳴らした。

 元々は阿武隈の僕とはいえ、今は自分の忠実な眷属であるゴロハチをいいように利用されていたのが気に入らなかったのだ。

 また、魂の器にされた者は一人分のマナでもう二人分の魂を維持しなければならないので、母体であるゴロハチに少なからずの負担がかかるものでもあったためなおさらだった。


「ところでゴロハチはなんで人になりたかったんですか?」


 アティラとゴロハチのやり取りを眺めていた伊織が尋ねた。


「そうですね、少し説明が長くなりますがよろしいでしょうか?」

「うん。構わないです! ……理解出来るかはともかく」


 伊織の率直なぶっちゃけに、ゴロハチは微笑みつつ口を開いた。


「ふふ。では、出来るだけ簡潔に。元々、本能の赴くままに行動するただの六つ足熊であった私は、親から独り立ちした後、すぐに本能のままに縄張りを求め、本能のままに戦い、本能のままに敗れました。そして私の一生は終わるはずでした。しかし私はフィロウシー様に救われ、名を与えられ、さらに人並みの思考力と知識を与えられました。それにより私は、名前も無い只の六つ足熊から魔獣・六つ足熊のゴロハチとなりました」

「魔獣って何ですか?」

「きちんと決められた定義はありませんが、一般的には普通の獣よりも知能にすぐれ、人語を解し、個体によっては魔術を発動させることが出来る生き物を指します」

「はー、なるほど」

「……でも、魔獣になったことで私は悩みました。お恥ずかしい話ですが自分で自分を六つ足熊と認識出来なくなってしまったのです」

「どういうことです?」


 伊織は首を傾げた。ゴロハチは言葉を頭の中でまとめながら答えた。


「本来、六つ足熊というのは知性という物がありません。当然、言葉を理解することは出来ませんし話すことも出来ません。だから、言葉を理解し話し人と同じように思考するようになった魔獣・六つ足熊のゴロハチは、魔獣となっていないの六つ足熊を見ても同じ種族と思えなくなってしまったのです。有り体に言うと自己認識はもはや人でした。でも、私の姿は間違いなく六つ足熊です。人のそれとは似ても似つきません。心は人なのに姿は六つ足熊。矛盾する心と体にずっと悩んでいました。するとある時、魂保存の魔術の開発に成功し魂の器を見繕っていたフィロウシー様に話を持ち掛けられたのです」

「人にしてやるから魂の器となれ――じゃな」


 ゴロハチの言葉を代弁するアティラ。ゴロハチはご明察と首肯した。


「……ええ。私は渡りに船と言わんばかりにその提案に飛びついたというわけです」

「それでゴロハチは人になったんですねぇ。でも、こんなにかわいい女の子なのにゴロハチは正直無いな……」


 伊織はしみじみと言った。

 確かに六つ足熊のままならゴロハチでもいいだろうが、こうも可憐な美少女にゴロハチでは違和感バリバリであった。


「はて? そんなに変でしょうか? お気に入りの名前だったのですが……」

「うん。だってゴロハチって完全に男の名前ですよ? しかも武骨系。いまのゴロハチじゃあ違和感しかないです」

「妾も人の名については詳しくないがそういうものなのか?」

「そういうものです」


 根拠無く断言する伊織。自分がそう思ったらそうなのだ。


「でも、せっかくフィロウシー様に付けて頂いた名前です。出来れば変えたくありません」

「そっか、寛の命名か。んー……ゴロハチってどういう字を書きます?」

「フィロウシー様に教わった字ではこうでした。『五郎八』と」


 ゴロハチは指を水で濡らし、お盆の裏に字をなぞった。それを見た伊織は何か引っかかるものを感じ、頭を働かせた。


「『五郎八』でゴロハチか……あー! なるほどそういうことか!」


 伊織は何か閃いたらしく合点!と柏手かしわでを打った。阿武隈がゴロハチに『五郎八』と名付けた意図を感じ取ったのだ。


「なんじゃ? 汝、何かわかったのか?」

「ええ。この『五郎八』という字は漢字と呼ばれる文字を使っているんですけど、この漢字って実は字や組み合わせによってはいくつも呼び方があるのです」

「そうなのですか?」

「それは面白いのう!」


 驚くゴロハチと興味津々のアティラ。そんな二人を見て伊織は焦らすようにもったいぶった言い方をした。


「で、ゴロハチの名前である『五郎八』は通常は男の名前で『ゴロハチ』と読みます。でも、読み方を変えると一転、女の子の名前になるんですよ」

「して、女の子では何と読むのじゃ?」

「それは……」


 良いところで言い淀む伊織。


「「それは?」」


 ゴロハチはどきどきと表情に不安と期待を貼り付けさせながら答えを待った。伊織は軽く笑みを浮かべ一呼吸ついた後、ゆっくりと口を開いた。


「『イロハ』です」

「イロハ……ですか? イロハイロハイロハ……」


 答えを聞いてもごもごと反復するゴロハチ。


「ふむ。確かに『ゴロハチ』よりも柔らかい感じがして良いかもしれんな」

「でしょう!? どうです『ゴロハチ』? 体も人になったことだし、心機一転して今日から『イロハ』になりませんか? 名前の字は寛に貰った名前『五郎八』のままですよ? 多分、寛も人になった時を想定して名前の読み替えが出来るよう『五郎八』にしたと思いますし」


 伊織が優しく促した。するとゴロハチはもじもじと両手の指を合わせながら、上目遣いで伊織を見た。


「伊織様は私に『イロハ』という名が似合うと思いますか?」

「勿論です! かわいらしいゴロハチ……いや、イロハにはぴったりな名前です!」


 満面の笑みで答える伊織。その愛くるしい笑い顔にはうっとやられたゴロハチは顔を赤らめながら口を開いた。


「……はい、決めました。私は今日から人間の『イロハ』となります。不束者ですかどうかよろしくお願いいたします」


 ゴロハチ改めイロハは姿勢を正し、口上を述べると深々と頭を下げた。


「うん! よろしく、イロハ!」

「うむ。よろしくじゃ。イロハよ」


 笑顔で応える伊織とアティラだった。




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