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お狐様、まかりとおる!! ~転生妖狐の異世界漫遊記~  作者: 九巻はるか
第1章 大森海の世界樹とお狐様
39/56

その38 お狐様、説明は3行以内でお願いします!

「本当だ、伊織。俺はお前を諦めきれなかった。だからお前を喚んだ」

「ま、まじで? わ、私は神に選ばれた優秀な人材とかじゃないの?」


 狼狽する伊織。まさか友人である阿武隈に喚ばれたとは露にも思っていなかったのだ。

 あくまで自分の清廉潔白で自己犠牲も厭わない姿に感動し憐れんだどこかの神が、神の使いとしてこの世界に遣わしたのだと信じて疑っていなかったのだ。

 残念だが憐れなのは伊織の頭であったようだ。


「初めは俺がジュンニャンにより生身でこの世界に召喚されたように、死ぬ前の時間軸から生身のお前を召喚しようとした。でも駄目だった。肉体というか物質は時間に縛られていて、この世界と地球が同期している現在いまからしか喚ぶことが出来なかった。つまり、この世界の現在と云う時間座標と同じ時間座標にある地球の現在からしか喚ぶことが出来ないことがわかった。また、この世界と地球の時間の流れの方向ベクトルが一緒だったので、伊織がすでに死んだ地球の時間軸にしか同期できず、お前を召喚することはできなかった」

「なる……ほど……」

「どうだ? ここまででわからないことはあるか?」

「……別にないかな? 無いと思う」


 怪しい反応の伊織。理解が追いついていないご様子だ。


「本当か? 本当に理解出来ているか?」


 そんな伊織に阿武隈は疑いの目を向けた。無理も無い。どう見ても理解出来ていなさそうだったのだ。

 だが、伊織は馬鹿にするなと言わんばかりに反発する。


「しつこい! 理解出来ているってば!」

「……それなら続き行くぞ」

「うん。どんときて!」


 伊織は自信満々で頷いた。

 だが、阿武隈の見立ての通り伊織は理解なんぞしていなかった。

 何てことは無い。ただ単に見栄を張ったに過ぎなかった。

 阿武隈に舐められたく無かったのだ。だからつい、わかった振りをせずにはいられなかったのだ。

 大体、4行以上の文章は常に読み飛ばす伊織である。脳に負荷がかかりそうな専門用語+長文の蘊蓄が急に来たところで右から左なのである。

 一方、阿武隈は伊織を疑いつつも説明を再開する。


「そこで俺が目を付けたのが魂という存在だった。地球にいるときは俺も魂の存在なんて信じていなかった。だが、この世界に来てその認識は誤りだと知った」

「誤りだと知った……」

「人は肉体・マナ・魂の三つで構成されることがわかった。これは人だけじゃ無く、獣人や亜人にも当てはまる。そして人は死ぬと肉体は滅び、マナは霧散し、魂は天に昇り、そこでほかの魂と混ざり合い新しい魂となって輪廻を繰り返す」

「輪廻を繰り返す……」

「まあ、魂については輪廻せず神の世界……いわゆる天国に行くという例外もあるがな。それはさておき、ここで重要だったのが人は死ぬと肉体とマナはすぐに自然へと還り新たな生命の礎となるが、魂だけはすぐに天には昇らず、一定期間は現世に留まるということだった」

「ということだった……」

「つまり、魂だけはすぐに正体不明にならないから、天に昇って輪廻してしまう前に新しい肉体にぶち込んでしまえば生前の記憶や人格を引き継いだまま転生できることがわかった」

「できることがわかった……」


 阿武隈の言葉の語尾をただ繰り返すだけだけの伊織。内容を全く理解できていないのは明らかだった。

 それに気がついた阿武隈は少し頭を悩まし言った。


「あー……そうだな、伊織でも理解出来るようラブドールの構成部品に例えるなら、肉体はオナホ、マナはローション、魂はアタッチメントヘッドだ!」


 喩えがテキトーなうえにサイテーだった。だが伊織に対しては効果がばつぐんで、


むべ! それで私も記憶そのままでお狐様に転生したんだね!」


 それまで話の内容が理解出来ずにいた伊織が、我天啓を得たりと言わんばかりに頷いた。ラブドール様様である。


 ところでなぜ伊織がなぜラブドールに詳しいかというと、実家にラブドールがあったからである。

 厳密に言うと離れにあった父の書斎に置かれていたもので、一応は子どもの目に付かないようにはされてはいたが、管理がガバガバだったため伊織たちにはバレバレであった。

 しかもこともあろうか父は自分のラブドールとの生活記録をブログで公開。伊織たち家族にはそれを秘密にしていたが、そのブログを家族共有パソコンで綴っていたうえに、デスクトップ上にブログへのショートカットを設置するという失態を演出。しかも案外と読める内容だったため伊織も無駄にラブドールに詳しくなってしまったのだ。


 なお余談だが、父のラブドールブログの存在がひょんなことから伊織の同級生にも広く知られてしまい、後日伊織は「ラブドールの落とし子」や「オリエンタルボーイ」という二つ名を頂戴するハメになるという悲しい結末を迎えるのだが、伊織はそれにめげない強い子であったりもする。

 それはさておき、やっと伊織に話の内容が通じ阿武隈はやれやれと嘆息した。


「やっと理解したか……。しかし、相変わらず勘が悪いというか、頭が悪いというか……」

「なななな、何言ってんの、寛!? 最初から最後まで理解してましたけど! 別に喩え?を聞いて初めてわかったじゃないんですけど!」


 伊織、顔を真っ赤にさせて必死の言い訳である。無論、真実は『嘘をつきました』である。


「そうか。それは良かったな」


 阿武隈もそんなことは百も承知なのか、反応が極めてドライだ。


「信じられてない!」

「はいはい。信じてる信じてる」

「くそー! 馬鹿にしやがってぇ! もういい! ぐれてやる! 寛が謝らなかったらくれてやる! ぐれたら寛のせいだからね! だから謝って?」


 伊織はその小さな頬を目一杯に膨らまし、必殺上目遣いで抗議を繰り出した。

 中身はともかく見目は極めて良いお狐様である。その非常に愛くるしい姿をみれば思わず謝罪せずにはいられないほどに魅力的だった。

 なお、抗議の内容は言い掛かりからの謝罪要求であった。とにかく伊織は何かにつけてマウントを取りたがる迷惑な性格なのだ。


「あ、そう。ぐれたらいいんじゃない?」


 だが、阿武隈の反応は冷淡であった。

 相手が悪かった。そもそも阿武隈には少女趣味(というか女性に興味)なぞ存在しないのだ。

 いくら中身が過去に恋慕した伊織とは言え、肉体主義者の阿武隈に狐少女の魅力を見せ付けたところで効く道理なぞなかった。

 むしろ一部始終を傍目で見ていたゴロハチが伊織の愛くるしさに心を打ち抜かれ悶える始末であった。


「あ、あれ? 効いてない? 本当にぐれちゃうよ? いいの? 私がぐれたらアティラ様もきっと檄おこだよ? 自分の巫女をぐれさせた原因となった寛にきっと天罰だよ? いいの?」


 阿武隈から思い描いたような謝罪が受けられず困惑する伊織は、なんとか謝罪させようとアティラの名前をだして揺さぶった。


「まあ天罰は困るな。で、伊織はぐれた経緯をアティラ神に説明できるのか?」

「コン? けいいって?」


 伊織は阿武隈の言葉の意味がわからず首を傾げた。


「端的言って、ぐれた理由を何て説明するんだ?」

「そんなの簡単だよ! 寛に馬鹿にされたからって言うよ!」


 元気に言い切る伊織。すると阿武隈はアティラの口調を真似て訊いた。


「ほほう、それで汝は何と馬鹿にされたのじゃ?」

「無駄に声真似が上手いな! とにかく、伊織は頭が悪いって言われま――うーん?」


 伊織は皆まで言わず言い淀んだ。ふと、この理由ではアティラが阿武隈に天罰を与えないように思えたのだ。

 むしろ逆に「汝は本当に頭が悪いのう……」と、アティラに憐憫な眼差しで呆れられる可能性すらあると思えた。

 それに冷静に考えてみると「頭が悪いと言われたからぐれるぞ」なんていう脅しは、駄目な親に言い付ける駄目な子ども並みの駄目さがあるなと今更ながら一人納得する伊織。

 しかし、だがらと言ってすでに後に引ける状況では無かった。


「とにかく、謝って!」


 もはや理屈も糞も無い。ゴリ押しすることに決めた伊織だった。上手い言い訳が思いつかなかったのだから仕方ない。

 すると、阿武隈は急に優しい表情を浮かべ言った。


「伊織、俺が悪かったよ。ごめんな」


 阿武隈、勝者の余裕だった。

 これ以上伊織を追い詰めたら可哀想だと思い下手に出たのだ。

 一方、伊織には強弁した自覚があったので、きっと来るであろう反撃に備えていたのだが阿武隈の言動に拍子抜けして首を傾げた。


「あ、あれ? 何で謝る……の?」

「俺が悪かったなと思ったからだよ」

「そ、そうなんだ? うん?」

「どうした? 納得できないのか?」

「いや、ううん。何でも無いよ」

「そうかなら良かった」


 一件落着であった。……が、何となく釈然としない伊織が呟いた。


「なんか人間として何か負けた気がする……」


 その呟きにゴロハチが冷静に反応する。


「ええ、完敗もいいところでしたね」

「……ゴロハチのばか。嫌い」

「伊織様ひどい……」

「つーんだ」


 図星を突かれていじける伊織だった。



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