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お狐様、まかりとおる!! ~転生妖狐の異世界漫遊記~  作者: 九巻はるか
第1章 大森海の世界樹とお狐様
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その28 お狐様、復讐する!

「そろそろほとぼりは冷めたかのぅ……」


 ドクツルタケ&シロタマゴテングタケ入りうどん事件から5日後。

 アティラは久方ぶりに世界樹の家におそるおそる顕現していた。

 唯我独尊な性格とは言え、己の巫女である伊織を見捨てて逃げたことに後ろめたさを抱えての再降臨であった。


「ふむ。留守かの?」


 居間に顕現したアティラだったが、伊織の姿が見えなかったため辺りをきょろきょろを見渡した。

 すると次の瞬間、アティラの背筋にぞくぞくと悪寒が走った。


「ふふふ……待っていましたよ……」


 慌てて振り返るアティラ。すると口元や服を吐いた血で染め、やつれた姿の伊織が真後ろでいかにも作ったような笑みを浮かべていた。


「うぉう! 汝、いつの間に!」


 アティラは驚いて飛び退いた。伊織があまりにも不気味だったのだ。


「変化の術で椅子に化けて、アティラ様を待ってたんです……」


 伊織はそう言うと逃げ出そうとするアティラに詰め寄り、後からがしりと羽交い締めにした。


「お、おい! 放せ! 何をするつもりじゃ!?」


 アティラはじたばたと抵抗するが、伊織からは逃げられない。


「大丈夫です……アティラ様の大好きな尾っぽもふもふですよ……ふふっ……」


 薄気味悪い笑みを浮かべる伊織。


「汝の表情を見るとちっとも大丈夫そうじゃないんじゃ――ふがっ!」

「アティラ様がいない間、とても大変だったんですよ……死ぬほど苦しい嘔吐腹痛下痢……それが終わったかと思うと今度はお腹全体が気持ち悪くなって血反吐を吐きまくり……」


 アティラが全てを言い切る前に伊織の立派な狐尾が顔面を襲った。

 いつもなら毛並み良くふわふわしている尾だが、今日に限っては毛並みが大いに乱れ薄汚れていた。


「ふがふがふが! うっ! うおーー! 何じゃこのえた匂いは! 吐きそうじゃ!」


 それもそのはず。この五日間で伊織の尾は吐き散らした血や吐瀉物、または転げまわったことで付いた床の汚れなどで汚れきっていたのだ。

 アティラはその端麗無垢な顔を歪め、汚れた尾から顔を反らそうと首を振るが、伊織は無情にもそのつらに尾を無理矢理押しつけた。


「ほらほらほら、アティラ様の大好きなふかふかの尾っぽですよぉ! 恋しかったでしょう!?」


 けたけたと笑い声を上げながら、執拗に汚れた尾を押しつける伊織。

 自分を見捨てて逃げたアティラへの復讐だった。


「ふかふかどころかべとついておるじゃないか! うおー! 臭い臭い臭すぎるのじゃ!! 臭いが目と鼻に刺さるのじゃ!!」

「あははははは! 変ですね、臭いなんて何にも感じないじゃないですか! アティラ様は鼻がおかしくなったんじゃないですか!」

「それは汝が臭いに慣れて何も感じなくなっただけじゃろうが!! って、あーー! 目がぁ! 目がぁ!! 臭いが目に刺さるぅぅぅ! うぷっ! 吐く吐く吐く! ギブ! ギブなのじゃ! 妾が悪かった! 見捨てて悪かった!! 謝るからもう止めるのじゃ!!」


 伊織に謝りつつ、目から涙をぽろぽろと零すアティラ。その姿に最早神としての意地も外聞もなかった。完全降参であった。

 一方、伊織はそんなアティラを見てしてやったりの表情を浮かべながら拘束を解いた。

 そして、「わかればいいんですよ……」と、一言呟くとそのままぶっ倒れた。体力の限界だったのだ。


 アティラに一発かましてやろうと頑張って変化して待機していたのはいいが、ここ五日間まともに食事を取れないどころか、きのこ中毒の苦しみで七転八倒していて睡眠も碌に取れていなかったのだから無理もなかった。

 明らかに頑張るところを間違っているが、アティラに一泡吹かせないと死んでも死にきれないのだから仕方ない。


「おい! 大丈夫か!?」

「もう、疲れたました……」


 床にうつぶしたまま答える伊織だった。



――――――――――――――――――――――――――



「水浴び……ですか?」

「うむ。服は妾が魔術で浄めておくから、汝は外の泉で全身を清めてこい」


 一息ついて持ち直した伊織がアティラから水浴びをするよう言われ怪訝な表情を浮かべた。


「尾っぽはともかく、体もそんなに臭います?」


 伊織としては腕や体を嗅いでみても、特段臭いが感じられなかったのでその必要性を認識できなかったのだ。


「うむ。尾ほどではないが、ぶっちゃけ酸っぱい臭いぷんぷんじゃ。ま、己の臭いには直ぐに慣れてしまうものじゃから、自身では感じ取れなくても不思議ではないがの」


 アティラの言うとおりであった。


「ふむ」


 伊織は成る程と頷くと、着ている着物に手をかけ一気に脱ぎ捨てた。


「……全く。人前で乱りに肌をさらすなど、汝にはらしい羞恥心というものはないのか。仮にも妾の巫女であろ?」


 すると、伊織を性的に襲った実績のあるアティラが苦言を呈した。

 完全にお前が言うなであるが、伊織に羞恥心と危機感が足りないのも確かであった。


「え? で、でもアティが服は浄めておくって言ったし、同姓だから別に良いかなって……」


 そう言い繕う伊織だが、何てことはない。男だったときの癖で、風呂に入るときは居間で服を脱ぐという行動がそのまま出でしまっただけであった


「むしろ同姓だからこそはしたないを取らないように行動せばならんぞ。大体、外の泉まで素っ裸で行くつもりか? 露出狂でもあるまいし」

「いいんです! どーせ、誰もいない森の中なんだから何も問題はありません! だから私はこれで泉までゴーです! じゃあ、服はよろしくお願いしますね!」

「あっ! ちょっと待つのじゃ!」


 伊織は矢継ぎ早に言うとアティラの制止を聞かず、そのまま裸で外の泉にダッシュした。

 なお、この悪癖についてはいつも妹に「脱衣所で脱げ」と注意されていた事柄でもあった。

 伊織。昔から反省が足りない男であった。


「やれやれ困った奴じゃのう……まあ、よい。あやつが帰ってくる前にこの着物を浄めておくか」


 言うことを聞かない伊織に溜息をつきつつも、伊織のために洗濯に取りかかるアティラだった。




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