表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お狐様、まかりとおる!! ~転生妖狐の異世界漫遊記~  作者: 九巻はるか
第1章 大森海の世界樹とお狐様
19/56

その18 お狐様、加護を貰う!

 衣服を身につけ、寝室から居間に戻ってきた伊織が早速と言わんばかりに切り出した。


「で、私はアティに巫女になったんですよね?」

「汝の左手の甲に徴が出来ているじゃろ? それが巫女の証じゃ」

「左手の甲ですか?」


 伊織は左手の甲に視線を向けると、手の甲の中心に楕円形の葉が対になっているような形の痣が見えた。

 これが世界樹の巫女のしるしらしい。


「ほへー。これが巫女の徴ですかー。まあ、それはさておきアティは私にどんな加護を下賜かしりました?」


 伊織はずずいっ!とアティラににじり寄った。

 今までの話題はおまけでこれが本題と云わんばかりの勢いである。


「うむ。加護は治癒の加護と知覚の加護の二つじゃな。治癒の加護は自動発動するアクティブな加護で、知覚の加護は汝が発動を念じることで効果が現れるバッシブな加護じゃ」

「治癒と知覚! 2つも! それってどんな効果ですです?」


 ワクワクテカテカした伊織がアティラにがっつく。

 一方、アティラは落ち着いた様子で説明する。


「治癒の加護は治癒力や再生力を非常に高める加護じゃ。効果はマナの量に依存するが、基本体やはらわたが傷ついたら再生するようになる。まあ、汝ほどのマナ力があれば首をすっぱりと切り落とされたうえで頭部を消滅させらられたり、体を跡形も無く燃やし尽くされん限り死ぬようなことはなくなるじゃろう。なお、妾が生命を司る神ゆえの加護じゃ。他の神では与えられんぞ」

「おおっ! 自動回復オートリジェネートって訳ですね! それは凄いです!!」


 思いの外凄い加護に伊織は諸手を挙げて喜んだ。

 生命の危機を丸ごと軽減とは破格の効果だ。


「凄いじゃろ! まあ、痛みや苦しみまでは軽減出来んがな」


 アティラは得意げな表情を浮かべながら、しれっと聞き捨てならないことを言った。


「え? それって、どういう意味です?」

「傷を負えば傷が塞がるまで痛むし、毒にやられれば毒が抜けるまで苦しむということじゃ」


 つまり再生はするが、再生中に発生する痛みや苦しみまでは消えないということらしい。


「……それって拷問食らい続けたり、生きたまま野獣とかに食われ続けたり、毒を盛られ続けたら、マナが切れるまで延々と死ねずに苦しみ続けるんじゃありません?」

「まあそういう可能性はあるが例が極端すぎるじゃろ?」

「確かに。心配するほどのことでもないか。であとの1つってなんでしたっけ?」

「知覚の加護じゃな。知覚の加護は五感で知覚したものを完全に記憶する加護じゃ。例えば汝が取ってきたきのこなら見ることでその形状が記憶され、触ることでその感触が記憶され、嗅ぐことでその匂いが記憶され、食べることで味や成分が記憶されるのじゃ。そして、その五感のうちのいくつかを知覚し完全に記憶することによって、それが何であるか――すなわち名を認識できるようになるのじゃ。例えばきのこなら五感全てで知覚することで、その名を知ることができるという寸法じゃ。なお、自身の体のことも知覚できるので、病気になった時などに自分を知覚してやれば原因もすくに分かるぞ! ……多分」


 アティラは伊織に「多分」を聞き咎められないように小声で言った。

 確かに言ったような効果を発揮する加護であったが、いかんせん初めて他者に与えた加護であったためそこまで完全な効果を発揮するか微妙な所だったのだ。


「なる! 一度知覚したものを完全に記憶できるなんて天才じゃないですか! しかも、条件を満たせば名前までわかっちゃうなんてマジコレチートですよっ!」


 一方、伊織は再び諸手をやほーいと挙げて大いに喜んだ。

 全く。プライドを捨ててアティラに媚びを売った甲斐があったと言うものである。


「これで汝の好きなきのこを好きなだけ食うが良い。どんなものを食っても死にやせんだろう」

「ありがとうございます! これで食生活に彩りがでまくりですよ! レッツきのこパーリィの始ま――」


 伊織はそこまで言ってあることにはたと気がついた。


「あのー、アティ? この加護だと、知らないきのこは食べてみないと何てきのこが分からないってこと……です……よね?」

「うむ。きのこは五感で知覚せんと名がわからんからな」

「あのあの。すると私の思い違いかも知れませんけど、もしも食べたきのこが毒きのこだったら、その毒で散々苦しんだあとにきのこの名前を知ることになりません?」


 伊織は否定して欲しげに訊いた。

 せっかく毒きのこに有効な加護を貰ったのに、毒きのこを食べて毒で苦しむのではまるで意味がない。


「いや、ならんぞ?」

「ああ、よかった……私の思い過ごしでしたね」


 アティラの否定の言葉に伊織はほっと胸をなで下ろした。さすがにそこまで鬼畜な神では無かったと一安心だ。


 だが、世の中そう甘くは無かった。


「汝が苦しむのは名を知った後じゃしな」

「……コン?」


 アティラのあっさりとした物言いに、伊織は首を傾げた。そして硬直した。

 言っている意味がよく分からなかったというか、頭が理解するのを拒否ったのだ。

 そんな硬直した伊織を見て、アティラはやれやれと口を開く。


「なんだ。わからんのか。仕方ない妾が解説してやろう。汝がきのこを食べるじゃろ? 汝が加護を使うじゃろ? すると知覚の加護が発動し毒を持つきのこだとわかるじゃろ? そして五感全てで知覚するという条件を満たしたことで毒きのこの名前が分かるじゃろ? それはさておき毒きのこの毒が体に回るじゃろ? しばらくして苦しむじゃろ? で、治癒の加護によりそのうち直るという寸法じゃ!」


 なるほど。きのこの毒が基本的に遅効性であるので、毒が回って苦しむ前に名前を知ることが出来るということらしい。


「こぉぉぉぉん! 危惧したとおりの結果キタコレ! それって死刑宣告という名の生殺しじゃないですか! なんですか、その舐めた加護は! 訴訟です、訴訟!!」


 伊織が頭を抱えながら吼えた。


「何を言う! 加護なしじゃと毒にやられて死ぬんじゃぞ!? 十分な働きでは無いか!!」


 アティラも負けじと反論だ。


「それなら毒無効とか痛み無効の加護も一緒にくださいよぉ!!」


 伊織が不満げに手を上下にばたつかせた。

 さすがに死なないから良いだろうとはあんまりであった。


「そんなものを与えると汝が成長しないじゃろ! 失敗し、痛みを知るからこそ立派な妖狐になれるとは考えられんのか!」


 ロリババアアティラ。若い時の苦労は買ってでもせよという、昔ながらの根性至上主義者であった。伊達に二億四千万とんで六年生きていないのだ。

 なお余談だが、世界樹として顕現したのが二億四千万とんで六年前だけであって、精神体の年齢はさらに上である。


「考えられませんよぉ! 私は褒められて伸びる子なんです! 私には失敗体験よりも成功体験の方が成長に有効なんです! ぶっちゃけ根性論なんて時代遅れも甚だしい!」


 一方、伊織は現代っ子なので旧来の硬直した根性論に反発。異議を唱えた。

 大体、どこぞのジョン・ブルも『いらぬ苦労する奴は無能。事前の準備こそ正義』(意訳です)と言っていたのだから、己の言動に間違いはないのである。


「汝は妾が間違っていると言いたいのか! それでも妾の巫女か!」

「駄目な主君を諌めるのも忠臣の役目ですが、何か!? それからとっとと毒無効の加護を追加でよこさないとアティの巫女辞めちゃいますよ! いいんですか? 加護を与えた巫女に逃げられても! 他の神様に甲斐性無しの世界樹様と噂されちゃいますよ!」

「なにおぅ! この駄狐!」

「なんですか! 世害樹!」

「「うーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」」


 お互い持論を曲げずにらみ合う伊織とアティラ。端から見れば完全に子供の喧嘩であった。

 中身を見てもまあ子供の喧嘩なのだが、当の本人たちは真剣な闘争をしているつもりだった。


 そんなこんなでしばらくにらみ合っていた二人だったが、いい加減睨み疲れたのか、アティラがふっと相好を崩し言った。


「汝に祝福あれ♪ じゃあの!」

「コン!?」


 そう言って煙のように消えるアティラ。その場には一本の小枝が残されていた。

 一拍してから逃げられたことに気がついた伊織は残された小枝を拾い握りしめると慌てて世界樹の幹である壁に駆け寄った。


「あーー! こら逃げるな! 毒無効の加護置いてけーー!」


 ばんばんと壁を叩きながら叫んだが、時すでに遅し。

 その日、伊織の前にアティラが再び顕現することは無かった。





どこぞのジョン・ブル=チャーチル

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ