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お狐様、まかりとおる!! ~転生妖狐の異世界漫遊記~  作者: 九巻はるか
第1章 大森海の世界樹とお狐様
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その13 お狐様、熊に救われる!

「……………………………………………………………………………………はあっ!?」


 暫しの沈黙ののち、伊織は素っ頓狂な声を上げた。

 無理も無い。お前さっきまで唸って雄叫びを上げていただろうと突っ込みたい気分だった。


「でも、ぼくの目をごまかすとはなかなかやるね!」


 よく見るとつぶらな瞳の六つ足熊がウインクを飛ばす。


「はあ……それはどうも……」


 どう反応して良いのかわからない伊織が腰を抜かしたまま生返事だ。

 そんな伊織が勇気を振り絞って訊いた。


「すいません。つかぬ事を伺いますが、私、あなたに食べられてしまうんでしょうか?」

「え? それって性的に? それとも物理的に?」

「いやあの物理的にです」

「ごめんなさい! (食べ物的に)好みじゃないです!」


 六つ足熊が腰を斜め60度に折ってお断りだ。

 どこをどうしたら熊がそんな体勢を取れるのか謎である。


「そ……そうですか。……これは助かったのだろうか……?」


 別に好きな訳でも告白をした訳でも無い女子に振られる的ダメージを伊織は受けつつ、何となく胸をなで下ろした。

 どうしてこうなったのかはわからないが、とりあえず生命の危機を脱したには違いないからだ。


「……でも、性的にはイケるかも♪」

「コンっ!?」


 六つ足熊がぺろりと長い舌で口の周りを舐め回した。

 それを見た伊織は顔を一気に青ざめた。あの巨体だ。アレの大きさも半端ないに違いない。

 もし、貫かれるような事態になったらひぎぃは確実だ。だが、下手に抵抗したところで嗜虐心を煽るだけだろう。

 伊織は身を抱き後ずさった。


「あはは、じょーだん! じょーだんだよー! ぼくも女の子だから付いてないしね! HAHAHAHA!」


 冗談だったらしい。六つ足熊(雌?)は熊らしからぬアメリカンな笑い声を上げた。

 伊織はそんな六つ足熊に胡乱な視線をぶつけながら確認する。


「あなたはどうして私を探していたのですか?」


 面識の無いばけも……熊に捜索される理由が思いつかなかったのだ。


「あなたじゃなく、名前でよんでね♪ ぷーって言うの。人呼んでくまのP――」

「はいぃぃぃぃ! すぅぅぅぅとぉぉぉぉぷっ!!」


 六つ足熊もといPの声を遮るように伊織が叫んだ。商標登録が怖かったのだ。版権管理会社が怖かったのだ。

 というか、なんで異世界でくまのP(以下自粛)の名称が出てくるのだ!と怒り心頭である。


「ちなみに無職ですw」

「うまくねーよ!」


 思わずノリツッコミの伊織だ。普段なら丁寧な語尾も荒れ荒れである。本当にここは異世界の森の中なのかと疑わずにはいられない。


「あらためて自己紹介するね。ぼく、くまのもんすたー。訳してくまモn――」

「さっきと名前変わってんじゃねーか! てか、自分のことをモンスターとか言うな!」

「やだ、やさしい……」

「あーーーー! 結局、お前は誰なんだ!!」


 伊織は思わず頭を掻きむしった。

 先ほどまでの恐怖と今のこの緩い空気にストレスマッハだったのだ。

 六つ足熊はキリッとした表情を浮かべ、渋い声で言った。


「ゴロハチと申します。以後、お見知りおきを」

「渋い名前だな、おい! 口調まで変わってんぞ!」

「先ほどの口調と態度はただの演技です」

「って、演技かい! それって必要ないですよね!?」

「あなた様の緊張と警戒を解くためです。アティラ様の命により、眷属であるわたくしがお迎えにあがりました」

「マジで!? 助かったぁ! ホント、アティは頼りになるぅ!」


 六つ足熊のゴロハチの言葉に喜ぶ伊織。

 なんと、アティラの命令で遭難した伊織を迎えに来たらしい。なんだかんだ言って頼れる神様世界樹様アティラ様である。

 伊織は「腐れ世界樹め!」なんて毒ついた過去を放り投げ、都合良く賞賛だ。


「それでは世界樹までお連れいたしますので、背中にお乗り下さい」


 ゴロハチはその場に伏せると、伊織にその上に乗るよう促した。しかし、伊織はその場から動かない。


「どうしたのですか?」


 ゴロハチは不思議そうに首を傾げた。すると伊織は申し訳なさそうに答えた。


「すいません。腰が抜けて動けません」


 最後まで締まらない伊織だった。



――――――――――――――――――――――――――



「~♪」


 伊織は六つ足熊であるゴロハチの背中の上で童謡の金太郎を歌っていた。

 (六つ足)熊に乗っていることもあり、完全に金太郎気取りであるがゴロハチは特に気にする様子も無く、ゆったりとした足取りで暗い森を進む。

 そしてしばらくしてからゴロハチがふいに呟いた。


「あなた様は伊織様と仰るのですね」


 訊くと言うよりは確認するといった方が正しい呟きだった。

 歩き出してからは全くの無言だったゴロハチの急な発言に伊織は面を食いつつ、湧いた疑問をぶつける。


「あれ? 私、名乗りましたっけ?」

「いいえ。アティラ様から伺っておりました」


 あっさりと答えるゴロハチ。伊織はなるほどそれもそうかと納得する。そしてすぐに興味を失うと、今度は籠に積まれたきのこを眺めながらまだ見ぬきのこ料理に思いを馳せた。


「伊織様はいつからアティラ様の元に?」


 今度は質問らしい質問だった。


「昨日からアティの所で世話になってます。……ああ、きのこの味噌汁楽しみ♪」


 伊織は森から採取した戦利品であるきのこの籠を大事そうに抱え話半分で答えた。いまだ妄想中だったのだ。


「昨日からですか? 伊織様はどこからいらしたのですか?」

「……え。え、えーとですね。実は記憶が無くて、気がついたらこの森に……」


 伊織はゴロハチの突っ込んだ質問に言い淀んだ。

 まさか、そんな事を訊かれると思っていなかったのだ。

 まあ普通に考えれば話の流れ的に出て当たり前の質問なのだが、食い気が勝る頭ではそこまで気が回らなかったのだ。


「記憶喪失……ですか。ふむ。成る程」


 ゴロハチは含みありげに頷いたが、それ以上の追求はなかった。

 伊織はほっと胸をなで下ろす。ついでに気になっていたことを訊いた。


「ゴロハチさんはどうして言葉を話せるんです? もしかしてこの世界では動物も普通に話せるんですか?」

「ゴロハチでけっこうです。ご質問の答えですが普通の動物は人語を話せません。私と同じ種も同様に話せません。アティラ様の眷属である私だけです」

「眷属だとどうして話せるようになるんですか?」

「アティラ様の加護のおかげです。ギフトとでも言いましょうか。それにより知恵や能力を与えられたのです」

「へー。アティって、ああ見えて凄いんですね」


 伊織は意外そうに相槌を打った。

 伊織の中でのアティラは変態欠食ロリババアという位置付けだったからだ。

 当のアティラがそれを聞けば怒るだろうが、たとえ世界樹様であろうと内心までは偽れない! と、偉そうに思う伊織だった。


「ええ。生命を司る神ですから。神格としてはかなり上位かと。三柱神のお一人です」

「三柱神!? なんかめちゃくちゃ位が高そうなんですけど!? アティの他、二人は誰なんです?」

「ニャルラトホテプ様。モッ○ス様。ア○ギス様。そしてアティラ様です」

「全員、邪神じゃねーか! しかもそれだと四人だし! てか、ここ本当に日本じゃないんですよね!? 明らかにSAN値を削られそうな神の名前が出てましたけど!?」

「冗談です。ここも日本とやらではありません。這い寄る混沌も限定版ボックスからの邪神像降臨も存じ上げませんし、私はガチャで爆死もしておりません。あ、アティラ様が生命を司る神様なのは本当です」

「明らかに存じ上げてますよね!?」

「あなたの言っている意味がわかりません」

「あーーーーーーーーーーーーーーーー!」


 思わず頭を抱える伊織。

 コアな知識が溢れるゴロハチの言動を追及したくて堪らないのだが、このままでは埓が明かないため、あえてこれ以上深くは追及せずに話しを元に戻す。


「……アティが生命を司る神ってことは、他にも神様っているんですよね。ニャルラトホテプとかモッ○スとかじゃなくて」

「ええ。私はアティラ様しかご覧になったことがありませんが、様々な神がこの世界を見守っていらっしゃるとお伺いしております」

「ふむ。奥が深いな。この世界」


 伊織は感心したように頷いた。すると、


「奥が深いでしょう? この世界も」


 ゴロハチも意味ありげに頷いた。

 その言葉を聞いて伊織の顔が青ざめた。伊織がこの世界から見て異なる世界(というか日本)から来ているのを知っているような口ぶりだったからだ。

 伊織は慌てて誤魔化すように白を切った。


「いやー深いと言えばこの森と一緒ですね! 大森海だけに!」

「…………」

「…………」


 二人に沈黙が走った。

 海の深さと森の深さとこの森の名前の3つを掛けた伊織渾身のギャグだったのだが、所詮畜生であるゴロハチには難しかったようだ。


「……いま、失礼な事を考えたでしょう? 咬みますよ?」

「調子に乗ってすいませんでした!」


 所詮畜生なのは伊織なのであった。




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