表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お狐様、まかりとおる!! ~転生妖狐の異世界漫遊記~  作者: 九巻はるか
第1章 大森海の世界樹とお狐様
12/56

その11 お狐様、初めてきのこ狩りをする!

 世界樹を出て5分。伊織は昨日、姿見をした小さな泉を通り過ぎ、世界樹の梢の下に広がる

草地に来ていた。

 世界樹を取り囲むように円形に広がった草地には背の低い雑草や芝生のような植物が一面に生えており、まるで整備された公園の広場のようであった。

 ボール遊びやバーベキューをするには良さそうな草地ではあるが、伊織の胃を満足させるような食物が自生しているようには到底見えない。

 しかし、伊織はそんな草地を目を皿のようにしてあるものを探していた。


「あっ! あった!」


 伊織は草地の陰に黒っぽい何かを発見すると、すぐに駆け寄り草を軽くかき分けて10センチほどの何かを採取した。


「アミガサタケげっとー!」


 そう。伊織が探していたのは草地に生えるきのこ。アミガサタケであった。


 日本では比較的なじみの薄いきのこだが西洋ではモリーユと呼ばれ親しまれている、春から初夏にかけて草地や路傍に生えるきのこで伊織も大好きなきのこのひとつであった。

 頭部は薄い茶色いで不規則なハニカム構造。円筒状の柄は白く一見グロテスクな形状だが、歯切れが良く出汁が良く出るためシチューやバターソテーするととても美味しい洋食にぴったりなきのこなのだ。

 なお、微量ながらジロミトリンという毒成分を含むとされているため、生食は禁物である。


 さて、何故インドアの伊織がそんなきのこについて知っているかというと、父の趣味がきのこ狩りだったため、必然的に伊織もきのこに対して一家言持つようになったのだ。

 ただし、自分できのこを採取しに行ったことは一度も無いため、触ったことがあるきのこは父が取ってきたきのこだけ。知識は斜め読みした本だけ。という偏りぶりであった。

 実は何度か父に一緒に連れて行って欲しいと、インドアの癖にお願いしたこともあるのだ。

 だが、毎回お前には(色々な意味で)向いてないからと言われ、全力で拒否されていたのである。

 まあ、美味しいきのこでお腹がふくれ家計が助かればそれで良かったので、拒否された理由を深く考えたことは無かったが、今でも謎だったなぁと思う伊織だった。


「あっ、こっちにもあった! けっこう生えてる!」


 伊織は次々とアミガサタケを背負った籠に放り込む。そして1時間もしないうちに1キロほどのアミガサタケが伊織の背中に収まっていた。


「ふふ、結構取れた。計画通り♪」


 伊織してやったりである。そもそもなぜ伊織がここにアミガサタケがあると見込んだかというと、森の木々が新緑に輝くのを見て今の季節が春であると気がついたのが発端であった。

 それに加えこの草地である。春……草地……きのこ……と考えた時にこのアミガサタケが出てきたのは必然と言えよう。


「おかずはこれで良いね。あと、出来れば味噌汁の具も欲しいなあ」


 あたりを見回す伊織。春であればふきのとうやこごみ、キトビロあたりが生えていてもおかしくないと思ったのだが、それっぽい植物は見当たらない。

 伊織は草地で食物を探すことを諦め、木々が鬱蒼と生い茂る森に目を向けた。

 一度入ったら二度と出てこれなくても不思議ではないと思えるくらい森は深く薄暗い。

 伊織の額に冷汗が流れ落ちた。本能的に危険を感じ取ったのだ。

 アティラの意味深な言葉もあったことだし、森には入らず世界樹に帰ろうかと考えた伊織だったが、しかしすぐにその考えを振り払った。

 虎穴に入らずんば虎児を得ず。リスクを恐れてはいつまでも豊かな食生活は望めない。

 伊織は士気を奮い立たせ薄暗く不気味な森に突入していった。



――――――――――――――――――――――――――



「いやっほう! 森に入って大正解だったよ! おっと、ここにも落葉きのこはっけーん!」


 伊織は小躍りしながら背負った籠にきのこを放り込んだ。籠には赤茶色でぬめりがあるキノコが大量に積み重なっていた。

 伊織が採取していたきのこは落葉きのこ……いわゆるハナイグチという日本でもおなじみのキノコだ。

 傘は半球状、色は赤茶色でナメコのようにぬめりがあり、傘の裏は鮮やかな黄色でスポンジ状だ。柄にはつばがあり、つばの上は黄色、つばの下はグラデーションがついた褐色で、内部の肉はレモンのような色合いである。

 このようにハナイグチは見た目に特徴があり、似た毒きのこも少ないため同定が容易。群生するタイプなので量も取れる。しかも汁の具にすると出汁が濃く出て歯切れも良く、とても美味しいきのこだ。


 なお余談だが、イグチとは傘の裏が椎茸や松茸のようなひだ状では無く、一見すると細かいスポンジのような孔……管孔と呼ばれるチューブ状の構造を持つ種類のきのこで、西洋でよく食されるヤマドリタケ(ポルチーニ茸)も同じ種類のきのこである。


 そうして喜び勇んでハナイグチを次々と採取する伊織だったが、心の中では大きな疑問が渦巻いていた。

 その疑問とは……このハナイグチ。取れるのが秋なのである。

 なのに伊織の背中にある籠の下部ではそのハナイグチに押しつぶされるような形で春に取れるアミガサタケが詰まっているのである。

 もしかしたらこの森に四季なぞ存在していないのではないかとも考えたが、目の前の倒木に幾重にも刻まれた年輪がその推測を否定する。


 そんな時、伊織が前方にある物を発見した。それはどどめ色でまるで人間の脳みそを連想させるように不気味な形状のきのこだった。

 あまりの禍々しさに一見しただけで毒きのこだとわかる色とフォルムだ。 


「うわっ! シャグマじゃん! えてるの初めて見た! 気持ちわるっ!」


 生えているのを初めて見たも何もきのこ狩り自体が初めてであるが、そんな瑣末をいちいち気にする伊織ではなかった。それどころかむしろ逆に己はベテランきのこ採りだと錯覚する始末であった。

 記憶を前向ポジティブきに捏造クリエイト! 伊織です。


 そんな、いかれポンチ伊織はその気持ち悪いシャグマこと、シャグマアミガサタケを手に取り首を傾げた。


 伊織はその気持ち悪いシャグマこと、シャグマアミガサタケを手に取り首を傾げた。


「コン……これって春のきのこだよね? なんで落葉きのこと同時期にでているんだろう?」


 辺りを見回す伊織。するとシャグマアミガサタケが群生している地点の向こう側にあるカラマツが黄色く紅葉しているのが見えた。完全に秋の装いである。

 だがその隣にあるブナは展葉したばかりらしく鮮やかな緑色で春の装いだ。

 さらに向こう側にあるシラカンバは葉がすべて落葉しており冬の装いだ。

 そしてそのシラカンバのたもとにはラベンターが紫の小さな花をつけ夏の装いだ。

 きのこ採りに夢中になり気が付かなかったが、木や草によって季節感がてんでばらばらである。


 そんな木々を見てうーんと悩む伊織。

 はっきり言ってこの森の植生が異常であるのは間違い無い。いや、もしかしたらこの世界ではこれが正常であるのかもしれない。

 だが、いくら自分ひとりで考えても答えが出るわけが無い。だが伊織は真実を知るべく、


「まあ、いっかー」


 と、あっさりと考えるのをやめた。

 理由はどうあれ美味しいきのこが採れればそれで良かったのだ。心に渦巻く大きな疑問などただのええかっこしいである。ただ、それをあっさり認めるのは何となく癪なだけだったのだ。


「あ、シャグマは毒抜きすると食べれるって本で読んだことがあるから全部採っていこうっと! ランベダーもね! ハーブティーが楽しみ♪」


 なんともお気楽な伊織だった。




 出てくるきのこや植物は地球のものと超そっくりの別モノです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ