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キンモクセイの香る夜

作者: 風柳 翔

 

 一人の天使が空の上

 きれいな鏡をみがいてる

 まあるいきれいな女神の鏡

 ぴかぴかにするのが仕事です


 ある晩みがいている時に

 天使はふっと手を止めた

「おや、なんだろうこの香り

 甘くて素敵な不思議な香り」


 香りにつられてふうらふら

 鏡を置いてふうらふら

 天使は鼻をひぃくひく

 お空の下に降りていく


 見つけた見つけたこの花だ

 なんてかわいい花だろう

 喜ぶ天使の目の前に

 キンモクセイが花盛り


 女神様にもお見せしよう

 天使は服の裾つかみ

 そこにいっぱいキンモクセイ

 摘んで急いで戻ります


 急いで帰る天使から

 キンモクセイがぱぁらぱら

 こぼれて落ちてぱぁらぱら

 天への道をつくります


 天使が戻るその前に

 鏡のところにお客様

 呼ばれもしないお客様

 小悪魔一匹やってきた


 小悪魔あたりをキョオロキョロ

「なんだ、天使はいないのか

 ひまだったからからかいに

 せっかく来たのにつまらねえ」


「お、こりゃなんだ?まあるくて

 ぴかぴか光る、ヘンなもの」

 小悪魔鏡を見ぃつけた

 つかんで触ってのぞきこむ


「右手をあげたら左手あげて

 左手あげたら右手をあげる

 あっかんべーにはあっかんべー

 何でも真似するヘンなやつ」


 小悪魔鏡を知らなくて

 自分にむかってあっかんべー

 やりかえされて腹立てて

 なぐってみたら手が痛い


 小悪魔よけいに腹を立て

 力いっぱい蹴とばした

 鏡は地上に真っ逆さまに

 ポーンと一気に落っこちた


 戻った天使は大あわて

 鏡がどこにも見当たらない

 びっくり仰天した拍子

 キンモクセイを放りだす


「鏡よ鏡よ女神の鏡

 どこにいったの、返事して」

「ここですここです天使さん

 私はここです空の下」


 かすかに聞こえたその声めがけ

 天使は急いで降りていく

 地上にむかってもう一度

 一目散に駆け降りる


「鏡よ鏡よ女神の鏡

 どこにいったの、返事して」

「ここですここです天使さん

 私はここです森の中」


 暗ぁい暗い夜の森

 ふくろうじいさん片目を開けて

「何かきらきら光ったものが

 あっちの方に落ちてった」


「鏡よ鏡よ女神の鏡

 どこにいったの、返事して」

「ここですここです天使さん

 私はここです沼の中」


 やっとみつけた女神の鏡

 泥にまみれてまっくろけ

 天使は急いでかかえあげ

 あわてて帰る空の上


 一生懸命ゴォシゴシ

 汚れを落とそうゴォシゴシ

 女神が戻るその前に

 きれいにしなくちゃゴォシゴシ


 だけどもけれどもどうしても

 前のようには光らない

 だけどもけれどもどうしても

 落ちない汚れがここかしこ


 ついに天使は泣き出した

 鏡も一緒に泣き出した

 戻った女神はおどろいた

 一体全体どうしたの


 天使と鏡、泣きながら

 何が起きたか話します

 女神はしばらく考えて

 そしてにっこりほほ笑んだ


「良い方法がありますよ

 さあ、もう泣くのはおやめなさい」

 女神は鏡を手に取ると

 ぽおんとお空に投げあげた


 するとおやまあ、不思議なことに

 鏡はお空にひっかかり

 そのままそこでぶうらぶら

 キラキラ静かに光り出す


 次に散らばるキンモクセイ

 集めてぱあっと撒き散らす

 お空に撒かれたキンモクセイ

 そのままそこでキィラキラ


 今まで寂しい夜の空

 急ににぎやか夜の空

 見上げてごらん夜の空

 キラキラキラキラ キィラキラ


 少ぉし汚れた女神の鏡

 染みがついてはいるけれど

 キラキラ輝くお月様

 浮いているのがわかるから


 天使が摘んだキンモクセイ

 こぼれて出来た空の川

 撒かれて出来たお星様

 光っているのがわかるから


 キンモクセイの香る夜

 甘い香りをかぎながら

 朝が来るまで月と星

 またたき光るキィラキラ-

 

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