period 10
俺達はいま永環の森中層で狩りをしている。
ここまで来ると出てくる魔物の種類は増え、ゴブリンとフラージュスネークに加え、ランウルフ、フォレストモンキーそして稀にゴブリンの上位種のゴブリン戦士が出てくるようになった。
レベルも平均レベルが24と高い。本当はここの前に平原の奥地に行ってからここに来るべきらしい。
たがそんなものは知らん。パーティー名通り全て殲滅してやる。上層のエリアボス、ゴブリンナイトよりレベルは高いが強さはゴブリンナイトの方が上だ。
ゴブリンなど装備のランクを上げた俺達の前ではただの動く経験値だ! と1分ちょっとで5匹の群を殲滅し、フラージュスネークは3方向からの連続攻撃でリンチし、ウッドモンキーは俺の投げナイフとハルカのファイアーボールと熟練度20で覚えたファイアーアロー、そして何時の間に買ったのかたしか千本とも呼ばれる針をアンナが投げつけ撃滅した。
『なんか物足りないよ。もうちょっと骨のあるモンスターはいないのかな~?』
『そうですね。ちょっとで物足りません……』
『いや、ちょっとばかりじゃない、大分だ!』
本当は手応えが無さすぎる! 俺が攻撃すれば即死するは急所に食らうはたまに投げナイフ弾いたりするだけで短剣の攻撃もフェイントを入れるだけですぐに釣れる。
アンナも楽々攻撃を回避してるしハルカも魔法の的にしか思ってないだろ……
ランウルフの連携は少し厄介だが3体の群れじゃ簡単には対応できてしまう。臭いで奇襲が出来ないのが困るだけでこっちにも察知とアンナのテイムモンスターのネルの熱感知があるから向こうの奇襲も失敗するし。
俺達、主に俺がこの森と相性良すぎるのか……?
そう考えて強いモンスターを求めて森をさ迷う。
『ボスはどこだ~い! ででおいでぇ』
『ボスさん出ておいで~。ぼこってあげますよ~』
怖い事を言っている人が居るけど忘れよう! なにも聞いてないからねっ!
ボスを探して森の中を彷徨きながら出会い頭に魔物を狩っていくこと20分。察知に一体で行動している何かが引っ掛かった。
『ちょっとストップ。何かいるぞ。エリアボスかもしれない』
2人にそう言って待機してもらい遠視を使って確認する。
いた! デカ過ぎる狼? が此方を視認している……
ってあれぇ? ここのエリアボスって狼だったってけ!?
ヴヴゥゥヴゥ……グラァッ!
『まじかっ! 散開しろ!』
そんな場合じゃねえ!
いきなり突進してきたため急いで指示を出す。飛び掛かってくるのを転がって回避して距離をとる。即座に方向転換した狼はハルカに向かって駆け出す!
ヤバイッ! 予想以上に動きが速い!!
『しっ!』
『やあっ!』
俺とアンナが同時にナイフと針が狼の動く先に投擲する!
目と足目掛けて飛んでいく2つの武器に気づいた狼が急停止したところに走りながらハルカがファイアーアローを飛ばす!
急停止した反動でよろけた狼に直撃するが流石は耐性持ち……HPが5%も削れていない。2%削れてるかどうかだ。
『名前はスピードウルフって魔物だ! レベルは28だ! ランウルフの変異種だと思う! 多分だが図鑑で見た限りアイツは魔法耐性を持ってる! アイツは動きの速さと魔法耐性が厄介だ。お互いがお互いの動きをフォローしながら殺るぞ!』
『りょーかーい!』
『わかりました!』
一旦固まった3人がまとめて攻撃を食らわないように再び散開する。
『ハルカは魔法を使いながらスピードウルフを誘っては回避の繰り返しで頼む! 出来るなら杖で殴ってやれ!』
『フッフッフッ! 了解だよ!』
詠唱を始めるハルカに敵愾心が向いているスピードウルフは執拗にハルカを狙う。それを投げナイフで阻止し、止まったところに短剣で斬り付ける。
凪ぎ払おうと俺に振るわれた足をハルカがファイアーボールでノックバックさせて軌道をずらし、少しかすったが回避する。
凪ぎ払った足の軌道がずれてバランスを崩したところにアンナが胴に短剣を突き刺し即座に離脱する。
それを繰り返しじわじわとスピードウルフのHPを減らしていく。
『あと半分だな……ゲーム的に行動パターンが変わっても可笑しくない。用心して置いてくれ』
俺の指示に頷いた2人はスピードウルフを攻め続ける。
投げナイフが目や足に刺さり、顔、足、胴体に針が生えたスピードウルフをハルカが杖で殴る。
こっちだ!
ヘイトを向けさせるため拾った投げナイフをスピードウルフに投げる!
そして飛び掛かってきたのを木を利用して三角跳びで避け、急所攻撃を発動させながら上から首を短剣で掻き切る!
大ダメージが入り、遂に狼のHPが2割を切り、アンナが短剣で腹を刺し、ハルカがファイアーボールを当てて1割を切った所でスピードウルフに変化が現れた!
『2人とも気を付けろよ! ポーションも残り6本しかない。注意していくぞ!』
最初は15本あったパーティー共有アイテムストレージ内のHPポーションも残り6だ。俺の使用数は2だがアンナとハルカの使用数が多い……予想以上にスピードウルフが強くて2人とも疲れてきている。
ダッ!
と音がして先程よりも動きが早くなったスピードウルフが俺に噛み付いてくる。
『くっ、ここに来て更にスピード特化かよ……!』
体を捻り、宙返りしながらスピードウルフの噛みつきを避け、背中を飛び越える!
『おらあっ!』
脳天目掛けて投げナイフを投擲し地面に着地する。
急所攻撃を発動しながら投げたナイフは脳天に突き刺さり目に見えてスピードウルフのHPを減らす。
本来なら削りきれるはずだったのだが5%程しかHPは減らなかった。
『VITも上がってるみたいだな……魔法はもうドット単位でしか削れそうにないな』
ハルカに飛び掛かるスピードウルフを横から蹴り飛ばす!
そこにアンナが短剣を喉元に突き刺し、ハルカの杖が顔面を捉える!
『ここだっ!』
腰を捻り一拍溜めてスピードウルフの横から首に短剣を突き立てる!
攻撃速度でダメージ補正が入り、更に首への弱点攻撃のダメージが倍になる。
高威力の短剣がスピードウルフのVITを突き破り、吹き飛ばす!
『ユニークモンスター・スピードウルフがパーティー名昇華三柱によって討伐されました』
過去ログに出たメッセージを見て、俺達は固まった……
『『『やっぱり……エリアボスじゃない』』』
『あはははは! いやー、ビックリしたよね! いきなり遭遇して倒したのがユニークモンスターなんて!』
『ほんとですね……よく私たち生き残りましたね』
嬉しそうにはしゃぐハルカと安堵しているアンナが対照的だ。
『取り敢えずドロップ確認しようか』
そう言ってメッセージを確認する。
〈討伐部位兼素材加速狼の牙を手に入れました。(リーダーのみ)〉
〈加速狼の毛皮×2を手に入れました〉
〈加速狼の爪を手に入れました。〉
〈最大与ダメージボーナス。加速狼の首飾りを手に入れました〉
〈討伐&戦闘被ダーメジ200以下統合ボーナス。加速狼の短刀を手に入れました。〉
〈初ボス討伐成功&戦闘被ダメージ100以下統合ボーナス。加速狼のテイム〉
〈LAボーナス。加速狼のロングコートを手に入れました。〉
うわぁ、めちゃくちゃ多いな……素材の方は分かるがボーナスの方の性能がぶっ壊れだ……
加速狼の首飾り AGI小上昇はまだわかる……分かる範囲内なんだ。
なんだよ短刀 ダメージ1.5倍 STR中上昇 AGI中上昇 って。この短刀レベルの性能だとガザン武具工房で売ってたダマスカスとアダマンタイトの合金の短剣という1MF(M=100万)の短剣の効果と同等だ……ケイルが親方から聞いたと言っていたから間違いない……
ロングコートも魔法耐性 VIT中上昇 AGI中上昇 DEX小上昇 と短刀を上回る価値のありそうな装備だ。
これでガザン工房行ったら大変そうだな……はは。ははははは
『……さん? オ……さん! オウヤさん!』
『はっ!? げ、現実逃避してたみたいだ……』
『それは私もわかるよー。FAでとんでもない装備が手に入っちゃったし……』
『2人ともそんなにいいのが手に入ったんですか? 羨ましい……』
『よし、じゃあ俺からいっていくから固まらずに聞いてくれ』
そう前置きして俺のドロップアイテムを言う。
『なんとまあぶっ壊れなものを手に入れたものだね。ばれたら騒ぎ立てられること間違いなしだね!』
『ほぇ~ボーナスが統合してレア度が跳ね上がったんでしょうね……でもまあ楽しければいいんじゃないでしょうか?』
それもそうだな! と思いドロップアイテムを早速装備してみる。
装備が完了する。
装備の効果は単純にステータスに反映されるだけでHP等には反映しないようになってる。
装備欄に首飾り、短刀、ロングコートが表示された。
鎧を装備しながらでもロングコートは装備できるみたいでタックルラビットの装備一式の上からロングコートが具現化した。
ハルカはFAボーナスで加速狼の錫杖 INT大上昇 AGI小上昇を手に入れ、初ボス討伐と討伐のボーナスはハルカは爆炎の杖とスピードリング。
アンナは疾風の短剣とスピードリングを手に入れたようだ。
ノーマルドロップはアンナが魔玉、ハルカが眼球を手に入れたみたいだ。
話し合った結果ノーマルドロップは加速狼の毛皮以外は全て売り払うことになった。
そしてこの毛皮でアンナのレザーアーマーを作ることに決めた。
さて、問題は俺の加速狼のテイム本来なら砕け散るはずのスピードウルフが魔だ残っているのはその所為だな。
俺は目の前に出ている
〈スピードウルフをテイムしますか?〉
に端的にイエスと答える。
オスみたいだから名前はシューガだ。
するとスピードウルフが光に包まれ、その光が少しずつ小さくなり、何も表示の無かったHPゲージの上にシューガと白く表示される。
シュンガが起き上がると前のような高さが2メートル以上ある巨体ではなく高さが一メートルくらいの狼になっていた。
シューガがこっちに歩いてきて顔をすり付けてくる。
思わず喉元や頭を撫でてやると気持ち良さそうに目を細める。
2人が羨ましそうに見て居るがスルーしよう。
おいアンナ……ネルに噛まれるぞ。
シューガに癒されながら俺は2人と街に戻り始めた。