分かってくれないこと
少し急展開気味ですが…
突然黙り込んでしまった俺を、三人――保険医の先生、河野、それから風紀委員らしい先輩が心配そうに見ているのが分かる。
「元也、大丈夫なのかっ!?」
青い顔をしているんだろうな。
章の綺麗な顔を思い浮かべるけど、横のほうにいる章の顔を見ることは出来なかった。いや、章じゃない。章の隣にいる人の顔を見れなかったんだ。
「ね、大丈夫だったみたいよ。
何があったのかは分かんないけど…篠崎くんのお母さんに連絡でもして帰ったほうがいいんじゃない?」
この綺麗な声に惚れているのが男子だけじゃなくて先生や女子にもあこがれている人がいると知ってる。
そして、その人がなぜここにいるのかも知っている。
「知美!悪いが、元也は大事な幼馴染なんだ。
帰れない」
章の彼女である白川 知美。
美人で、先輩達からのアプローチもかなり多かったのに章に告白した人物。
彼女が俺にしか聞こえないような小さな声で呟いた声が聞こえる。
「…なんでよ。私今日……」
そうだ。たしか彼女は今日が誕生日だった。
それでも「わるいことしたな」とは思えない自分がいる。
「元也っ、なにがあった!」
むしろ俺に掴みかからんばかりの章に、風紀委員の先輩が声をかけた。
「神林君だね。ちょっと落ち着いて。
……篠崎君、さっき言いかけていたことがあったね」
教えてくれるかい?と促す声は優しい。
少しだけ章も落ち着いたようだった。静かな憤りをはらんだ視線が俺を見つめている。…それは、助けを求めなかったからなの?
それとも、俺がうまくやってこれなかったことを非難しているの?
握り締めた手が痛い。
突き刺さるように感じるこの視線たちから逃げ出したい。
「あ……」
不意に、風が吹き込んでくる。
少しだけ開けられていた窓から入った風が、テーブルの上に裏返しておいてあったあの紙を散乱させていく。
何故か、無感動にそれをみていた。
「……っ!?おいっこれ!」
一枚、何気なく拾った紙をみた章が、怒りを再燃させていくのが分かる。だけど、それだけじゃない。
「こ、れ…」
そのうち、章の目が驚愕に見開かれていく。
あー、気づいたんだな。流石だ。
「章…」
小さく囁くような声に、章ははじかれたように俺を見た。
その瞳に映っているのは焦燥なのだろうか。
俺は章の顔を見ないようにして、顔をうつむけながら言った。
「あの……」
次の一言を探していると、何を感じ取ったのかは分からないが河野が言った。
「なあ、章と元也何かあったのか?
もし…ここで話しづらいんだったら委員会室貸してやるよ」
それでいいか?と問うような視線に、俺は小さく頷く。
ちゃんと、話さなければならない。
俺が、章の隣にいていいのかも、今日まで起きていたことも。
「あぁ……頼む。
しばらく、俺と元也だけにしてもらえるか?」
その言葉に誰よりも驚いているのは白川みたいだった。
自分の彼氏が、どうして二人きりで話そう、なんて虐められていた奴に持ちかけるのか分からないのだろうか。
冷静に頷いたのは風紀委員の先輩だった。
ちらりと保険医を見やると彼女はため息をついて鍵を章に渡した。
「話が終わるまで待ってる」
「でも…」
「うるせっ!お前たち俺の幼馴染で親友だろうがっ!」
その言葉に、もう何も言えずにただうつむいたまま「ありがと…」といって立ち上がった。
貸してもらっていたブランケットを肩にかけたまま、二人で暗くなっている廊下を歩く。
表情は見えない。それが余計に不安になる。
「あき、ら…」
そう声をかけても何も言ってくれないまま、風紀委員たちの委員会室の前に立ち鍵を開けてくれる。
促されるままに部屋に入ると、章は乱暴に扉を閉めた。
その物音にビクッとしていると、章は黙って先ほどの紙を机に置いた。
「あ、これ……章、あの」
「これ、知美だよな」
突然出た名前に、俺は黙ってしまう。
章は苦々しげに言った。
「この写真、俺が知美に見せて、渡したことある奴だ」
それは知らなかったのでびっくりしていると、章は不意に俺と視線を合わせた。
「お前がこれに気づいたのいつだ?知美が…その」
「あのっ、その……文字が、」
「文字?」
眉をひそめた章は目を細めて紙を凝視する。
紙には、連絡先や名前を書いたものを写真でとってアップしたようなものがあった。
「これ、前にみたっ白川の文字に似てるし」
放送部が以前書いた『曲のリクエスト募集中!』というチラシ。
アレを書いたのは確か白川だったはずだ。
その文字にとても似ていた、というのと、「2」や「8」「ゆ」「な」などの文字が特徴的なので覚えていたのだ。
それを指摘すると、章は思わず、というように口元に手をやった。
「知美が…なんでお前を」
「わ、わかんないけど……でも、前にクラスの女子に言われた。
『章たちと一緒にいるなんて不釣合いすぎる』ってかんじのこと」
不釣合い、という言葉に章は更に眉をひそめる。
昔から一緒にいた幼馴染は、きっと不釣合いとかそういう感覚をもてないんだろうな。俺と同じで。
「不釣合いとか…思ったこと無いぞ」
「でも、周りから見たら…」
不釣合いで苛々したんだろう。
昼飯を、一緒に食べられないのが悔しい白川。
それなのに、「不釣合いのくせに」毎日一緒にいる俺。
「それに…たしか、あの体育の教師前に白川狙ってたって…」
白川シンパ、というと悪い表現になるかもしれない。
だけど、白川に盲目的に従う奴らもいると聞いた。
「そいつらが、お前いじめてたのか?いつから」
「えっと、弁当が無くなったっていう日から…?」
それとなく前兆はあったのかもしれない。
だけどそれは察知できなかった。いつもと同じ光景が広がっていたはずだから。
「…そんなに?
どうして、お前俺に教えてくれなかったんだ」
「それは…」
言っていいのだろうか。
心配させたくなかった、好きな人に悪くみられたくなかったって。
だけど章は違うことを言い出した。
「そんなに俺のことが嫌いか?…避けるようになったし」
「ちが…」
避けるようになったのは、好きな人と結ばれないと痛感するのが嫌だったからだ。
「俺を信用できないか」
どうして?
彼女の誕生日なのに俺のところに来てくれたでしょ
「そんなに………
俺が嫌いなら、俺はもうお前に近づかないよ」
どうして……
「っ!?元也っ、お前…」
訳がわからなかった。
ただ分かるのは、頬を伝うのがさっき止まったと思っていた涙だということと、章が酷く焦った顔をしていることだけ。
俺は、訳もわからず泣き出してしまった。
お読みくださりありがとうございました。
ご意見・ご感想等よろしければお寄せください。
2500字超えられた…改行が多くて読みづらいかもしれません。
それから、18歳以上の方はよろしければ「Wings for」のほうもお読みください^^