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letter to you  作者: そうな
本編
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ちょっと不道徳描写(続き)です。


 どうしてこうもうまくいかないんだろう。

 誰かに惚れることを、誰かがとめることなんて出来ないはずなのに。


 幸せなカップルを知っている。

 毎日、幸せそうに満ち足りた顔をした、俺が好きな人を知っている。

 毎日毎日、くだらない冗談にも付き合ってくれる人好きのする友人を知っているんだ。俺の友人運は今まで最高についていた。それだけは分かっているのに。

 閉ざされた扉がだんだんと見えなくなってくる。日が落ちればきっと本当にあの扉は見えなくなるんだろう、なんて考えていた。



「さむ……」

 体育の後だったから汗もかいていたし、半袖半ズボンに汗も冷えてかなり体は冷たくなってきていた。

 まだ日中は暖かいけど、夜になればぐっと気温は下がる。

 ライトがあればそれの熱もわずかばかりはあったのかもしれないがそんなものは期待できない。

 その辺にあった体育祭とかで使った捨て忘れのごみであろう石灰をまとめてあったはずの麻袋で格子窓から入ってくる風を凌ごうとする。

「母さん大丈夫かな…」

 正確な時間までは分からないけど、多分もう家についている時間じゃないだろうか。

 一人パニックになってしまっているかもしれない肉親を思うとすこし心が重くなってくる。……俺が、うまくやれないばかりに。


 ずんずんと重くなってくる心をもてあましながら、この空腹をこれからどうやってやり過ごそうかと他の方に意識をやろうとする。



「……っ!!」


 なんだろう、何か聞こえた気がした。

 暗い所で視覚は殆ど頼りになっていなかったので聴覚が研ぎ澄まされているらしい。

 もう一度、耳を澄ます。


「…やっ!元也!どこにいるんだ!!!」


「あ……」

 思わずそう呟いていた。

 名前を呼んでいるのは、章ではないことにむしろ安堵している自分がいる。

 どうやら他にも人がいるらしく、内容までは聴こえないまでももう一人声がする。それに気づいて背筋が凍った気がした。

 先ほどまでぐるぐると巡っていた嫌な予感。

 緊張に、声が出せずにいるとまた河野の大声が聞こえてきた。

「元也っ!!!どこにいるんだよ!!」

 焦っている声がする。



 もう、どうだっていいじゃないか……



 おもわずそう思ってしまう。

 たとえ河野が俺の敵だったとして、それは今更じゃないのか。それよりも早くここから出て、どうにかしてでも家に帰ったほうが家族を安心させられるんじゃないのか。


「ぅの……河野っ!!」

 閉じ込められてから、はじめて出した大声はかすれていた。

 それでも、手探りで扉の所まで行って思い切り拳で扉を叩く。

「河野!ここだっ!」

 扉は硬く、打ち付けている拳からは血が流れ出したのを感じた。

 しばらく大声を張り上げていると、突然倉庫の鍵が廻る音がする。


 扉が開いて、珍しく取り乱し、息を荒げている河野と多分風紀委員であろう上級生が目の前に立っていた。


「こうの…」

 そう言えば、河野はキッと俺をにらみつけた。

「このばかっ!心配しただろうが!」

 しんぱい?

 こんな俺を、河野は心配していたのか。

「ごめ…」

「謝るなっ!それより…どうしたんだよ、これ…。

 お前が帰ってないって、お前の母親が章に電話したらしくって…」

 それで来てみればこんなことになっていたというわけか。

 俺は恐る恐る河野に声をかけた。

「なぁ……章、は…?」

 姿が見当たらない。 

 俺の言葉をどう解釈したのかは分からないが、それに先に反応したのは河野ではなくもう一人のほうだった。

「なんか彼女サンが放してくれないみたいだよ」

「そう、ですか…」

 顔をうつむけると、河野が慌てたように俺の肩を叩いてくる。

「あいつ本当にリア充爆発しろって感じだよなっ」

 その励まし方に、俺は黙って首を振った。

 心配そうに河野は俺の顔を覗き込み絶句する。

「おい…どうした、そんな怖かったか?」

 その言葉にも黙って首を振った。

 困惑したように佇んでいる二人を前に、俺はずっと泣いていた。

 久しく、泣いていなかった子どものような泣き方で。





「落ち着いた?」

 丁度宿直が保険医だったらしい。

 彼女がくれたりんごの葛湯を静かにすすっているとしばらくしてから河野とともに現れた先輩が声をかけてきた。

「…はい、ご迷惑をおかけしてすみません」

「君のせいじゃないよ。

 それより、ちょっと話を詳しく聞きたいんだけど…」

 窺うように保険医のほうを向くと、彼女は少し硬い表情をして頷きまっすぐに俺のほうを向いた。

「そうね、聞かせてもらうわよ」




 俺はぽつりぽつりとしか話すことが出来なかった。

 それでも、先輩も先生も河野も、黙ってゆっくりと聞いていた。

 先ほど閉じ込められていたまでの経緯を説明すると、河野がため息をついた。

「…はぁ。な、俺ってそんなに信用ないの?ちょっとショック」

「ぅ…ごめ…」

「あ、怒ってるわけじゃねえよ。勘違いすんな。

 だけどさ、俺風紀委員やってんだぞ?お前には出来ない解決の仕方だって出来たわけだし、実際お前ここまでやられてるわけだし」

 河野は不愉快そうに、俺のことを書き連ねられたあの紙を見ている。

 それをみて思い出した。

「あ、の…」

 不安げな響きが篭っていたらしい。

 保険医は俺のほうを見て「どうしたの?大丈夫よ」といってくれる。

 あぁ、優しい先生だ。

「体育の、先生は……」

「…あと数日もしないで教員免許どころか社会生活を営めるっていう社会認識も剥奪されそうね」

 吐き捨てるような言い方に、やはり俺はあの体育教師にも見捨てられていたのかと思い知る。

 そういえば、彼はこの目の前にいる先生のようにまっすぐに俺のことを見てはくれなかった気がする。

「それから……」

 言いにくくて、思わず視線をさまよわせてしまう。

 じっと俺の言葉を待ってくれている三人に、覚悟を決めて河野が持っている紙を指差す。

「おれ……アレ書いたやつ、知ってるかもしれない……」



 バァンッ

 乱暴に保健室の扉が開けられる。

 思わず四人がそちらに目をやれば、見たことがないくらいに表情をこわばらせて俺のことを見つめている章と目があった。

「もとや……よかっ…た…」

 その、嬉しい言葉にも俺は反応できなかった。




「…………元也?」




 その後ろにいる少女の、いつも優しい茶色の大きな目が、憎くてたまらないというように俺を映していたから。

お読みいただきありがとうございました。

よろしければご意見・ご感想等お寄せください。

今回は2000字越えられました^^明日も朝更新する予定ですのでよろしければお付き合いください^^

ここから5日ほどで果たして収拾がつくのかが疑問ですが(笑)

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