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「―――チッ!!ゴリラかよ!!」
悪態をつきながらその拳撃を流し、カウンターを決めようとする田仲。
その田仲と野良猫の間に一迅の風が吹いた。
「田仲、どういう状況か説明しろ」
大谷だ。
両の手に大振りのバタフライナイフを持ち、それを田仲と野良猫の首もとに突き付けている。
「ふざけんな、糞団長。大谷は俺に『説明しろ』なんて言わねぇよ」
しかし、それは【月墜】の団長、リヴィネルだった。
「ふむ、成る程。今回は私のアプローチ不足だったな。だが、前よりは遥かに戦えるようにはなったはずだぞ?」
大谷の顔が歪み、男物のブレザーの制服に身を包んだ妖しい美女に変わる。
「雑魚が戦えても意味ねぇよ。それにあんたは傀儡の王だろうが。戦う必要もない」
その言葉に笑いを堪えるリヴィネル。
「しかしお前は私の色仕掛け(ハニートラップ)に引っ掛からなかった数少ない人間でなおかつ私と歳が近い。気を引こうと思っても不思議はないだろう?」
両手のバタフライナイフをしまい、妖艶に微笑みながら田仲にしだれかかるリヴィネル。
その頭を無言で押し遣る田仲の態度に憮然としながら、仕方ないとばかりに野良猫の方をむく。
「ところで野良猫」
その声には紛うことなき怒りが内包されていた。
「私は大和を連れてこいとは言ったが襲えとは言ってないはずだが。どういったことだ?」