我が季節7
「ちょちょちょ!どうしたんですか!」
鬼の形相で、勢いよく「すぱんっ!」と田神の部屋の襖を開けた枢に、田神はビクッと肩を震わせた。手に持っていた湯のみからお茶が少し零れ、畳に染みを作る。ああ、年末に替えたばかりなのに…。
「雪さんは!?」
「は?雪さんならさっき貴方のお部屋に…」
「来てません!というか田神!聞いていなかったんですか!?」
物凄い剣幕でまくし立てる枢に、何が何だか分からない田神は狼狽する。とりあえず安全を優先して熱いお茶を机の上に避難させたが、この状況は、どちらが主かは分かっても、どちらが妖かわからない。
「待ってください、聞いてないって何をですか?この雨音で部屋の外の音など…」
「本当に妖ですか!」
今し方考えていたことを言われてしまった。田神はプイッと顔を背ける。
「ほ、放って置いて下さい!わざわざ本家にいてまでお仕事する気はありませんから!」
「貴方という妖はっ!…っまぁそれはおいといて。それよりさっき、女性の叫び声が聞こえました。そういえば雪さんが見当たりません。で、雪さんはッ!?」
枢は急に声のトーンを抑えたり荒げたりと、落ち着きなく田神の着物に掴み掛る。
「いえ、貴方の弁解をして、お部屋に案内してからはお姿をお見かけしてはおりませんが…」
「本当に使えませんね田神は!!」
「ええいっ今から探しますよ!探せばいいのでしょう!人を何だと思って…そもそも人では無いのですよ!もう少し敬意をですね…!」
ぷんすか腹をたて立ち上がった田神だったが、何か思い出したように「あ」と小さく声を立てその動作をピタリ、と止めた。枢がその動作を見逃したり、その声を聞き逃すはずも無く、ガシッと襟元を握り締められた。
「何です、何を思い出したんです、早くお言いなさい!」
まくし立てる様な枢の視線から逃れるように、田神はついーっと視線を逸らし、「あははー…」と苦笑いをした。
「いや、あー、まさか早速落ちるとは…。しかも雪さんの方…。そうか、そういえば小屋に不要なものを仕舞いに行くと…いやしかし…あー、あそこを通るとは…」
ぶつぶつと呟いてはっきり言わない田神に、ついに枢がしびれを切らした。
「ええいっ何をしたんだ貴様はさっさと吐かんか
っ!!!!」
「枢様を落とそうと人間には見えないように術を掛けて落とし穴を掘りました!!」
「1回死んで来いこの馬鹿者目がーーーっ!!!!」
後にこの日は、いつもは叫んでも怒っても丁寧な口調を絶対崩さない温厚な当主が本気でキれた日として、使用人の中では厄日として語り継がれていったことはまた別の話。