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我が季節  作者: ゆきみね
7/12

我が季節6

あの綺麗なお方は枢さまの恋人だろうか。だけれど田神さまは何とか引き剥がそうとしていたし、もしや修羅場だったのだろうか。だとしたらいきなりその場に第三者が現れるなど、自分は本当に失礼をしてしまったのではないか。

自宅の自室で文机に向かいながら、雪は悶々と考えていた。しかも貰ったかすてらもそのまま置いてきてしまったし、田神さまにも凄く失礼な事をしてしまった。


(明日、きちんと謝りましょう…)


宵家本家でのお話を貰った事は、自分というより、実家の皆が喜んだ事だ。宵家の仕事に携わってきた一族としては、本家の仕事にまた携われると言う事は本当に名誉な事で、そして幸せになれる事の代名詞みたいなもの。その家族の思いを無に返すのはいただけない。


(怒って、いらっしゃるかしら…)


一抹の不安が沸き起こる。自分は初めてお会いした時も非礼を働いてしまった。もしかしたら、もうクビが決まっているかもしれない。もし、もし許して頂けなかったら…?


外はいつもより暗い空、雨雲が段々と近づいているようだった。




**




「昨日はすみませんでした、雪さん。あの女性、枢様の親戚の方なんですけどね、私の事が大嫌いみたいでしてねぇ。顔を見ると喧嘩が始まるのですよ。嫌な思いさせてしまいましたね」


次の日、雪を迎えた田神の第一声は謝罪の言葉だった。第三者視点でさらりと謝罪し、そしてその謝罪の言葉の中にそっと、枢に対してはただの親戚の女性だ、というフォローを入れる。済まなそうに笑う田神に、雪も咄嗟に頭を下げる。


「そんな!私が勝手にお邪魔してしまいっ…!あっあとお菓子も置いたままでっ…!!」


「いえ、本当にお気になさらず。それにかすてらもきちんと取っておいてありますので、宜しければ今日の休み時間にでも是非召し上がって下さい」


「で、では、枢さまもお怒りでは…?」


「まさか。どちらかといえば変な誤解を生んだことに焦っておりましたよ。どうやって弁解しようか、だなんて。気にしないであげてくださいね」


にっこり笑う田神は本当に気にしていない様子だ。昨日あんなに悩んだ雪だったが、なんとか大丈夫そうだ。これでお役御免にならず、枢さまのお側でお仕事が続けられる。緊張の糸が緩み、雪は一晩ぶりにホッと一息ついた。




(ど、どうにか納得してもらえたでしょうか…)


適当に取り繕った話に安心した雪の様子を見て、田神自身もほっと胸を撫で下ろした。

雪は田神が宵家の裏の仕事を知る人間の中から、ようやっと見つけてきた、妖と渡り合えるだけの知識と教養を兼ね備えた最後の望みだ。このまま雪と枢の仲がこじれてまた一から探し直し、なんて事になるのは困る。まぁさして今も仲睦まじい、とは形容しがたいのだが。あえて言うなら「あぁ素晴らしき上下関係」だ。


(それでも悪いよりは十分…前に進む可能性があるならそれで十分…!!!)


一生懸命自分に言い聞かせ、田神は進展しようとしない主を心の中で詰った。












(本当どうして恋愛関係に発展できないんでしょうかねっ…!!!!)


と。


雪さんと枢様があわよくば…等と隠れて考えて、枢が雪を怖がらせることが無いように、雪が枢と距離を置きたがらないように、除々に仲を深めてもらおう等と画策していた田神も、流石の進展のなさに溜息を吐きたくなった。雪さんの「事情」を考慮して、ちょっと枢を牽制しすぎたのかもしれない。あからさまに自分に対する自信がなくなっている。きちんと伝えておけば良かったかもしれない。もういっそのこと堂々と雪さんとの恋愛を勧めた方がどうにかなるんじゃなかろうか。


(そっか、その手もあるのですね…)


ポンッと手を打ち、嬉々として踵を返した田神は、また一人暗躍するのであった。









**





「雨、ひどいですねぇ…」


ちらりと窓の外に目をやると、まるで盆を返したように雨が降りしきっている。せっかく綺麗に咲いた庭の桜も随分散ってしまいそうだ。

枢は小さくため息を吐き、スッと身を翻した。その時だった。


「…え?」


五月蝿い雨の音に混じり、遠くで微かに女性の悲鳴があがったのは。





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