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我が季節  作者: ゆきみね
6/12

我が季節5


「ゅゆゆゆ雪さんっ!?」


いつの間にかしっかりと開けられた襖の先に雪を見つけた枢が、畳に身体を倒しながら素っ頓狂な声で叫ぶ。その声に田神もハッとし、まずった、という顔をした。それに気付いたのか、枢にべったり抱きついていた女性も此方を見遣って叫ぶ。


「ちょ、今度は何なのよっ!!」


「ってだから!枢様の耳元で叫ぶなと言っているでしょうに!!」


明らかに自分に敵意を向けているその女性に、雪はすっかり竦んでしまった。


「ぇ、あ、あのっ……っ失礼しましたっ!!!」


「えっ、雪さんっ!?ちょっと待って下さっ…!」


枢が最後まで言い終わる前に、雪はバッと身を翻し、すぐさま来た廊下を走り戻っていった。







**






「…いいですか、貴女のせいで要らない誤解が生まれて、私の計画がぶち壊しですよ!!!」


暫くして大分落ち着いた屋敷の中では、それでもまだ田神の大声が響いていた。さっきの焦りの叫びとは違い、今度は怒り声である。内容が枢に聞かれれば怪しまれるものであるのに、彼はそこまで気にしている余裕が無いようだ。


「だぁかぁらぁっ!!!悪かったって言っているでしょう!!ちょっと興奮状態だっただけじゃない!!いきなり血塗れの妖が目の前に現れたら誰だって吃驚するでしょう!」


それに返す女性の声も盛大なものだったが、枢の耳には雑音としてしか入っていない。それどころかすっかり落ち込んでいた。雪に誤解されてしまった。確認せずとも分かる。その証拠に雪はその後すぐ、挨拶もせずに帰ってしまっていた。


「吃驚という可愛い度合いじゃなかったでしょう!半ば錯乱までして!ほら、枢様を見なさい!この可哀想な背中!!」


「放っておきなさい!誰のせいですか!!!!」


枢が聞いていないのを良い事に叫ぶ田神に、さっきまで右から左に話を流していた枢が、バッと振り返り抗議する。これも全部田神と黒髪をきっちりと纏めたその女性、遠い親戚の朱音〈あかね〉のせいである。







仕事を終えて帰る直前、久しぶりに嫁ぎ先から遊びに来ていた朱音が、ばったりとまだ人型をとっていなかった田神と会ってしまったのである。

田神の妖としての姿を初めて見た朱音の視界に枢の姿は入っておらず、血に塗れた田神を巷で騒がれていた(さっき片付けてきたばかりの)妖と勘違いし興奮状態に陥ってしまった、というわけである。元々宵家の裏の仕事にあまり関わらない、分家の人間であった朱音に妖に対する免疫は無く、そうなってしまったのも仕方ない。だがなんともタイミング悪く来てくれたものだ。


「うちの旦那が最近良いお茶が入ったから当主様に持っていくといいよ、と言ったものだから。本当に申し訳ありませんでした…。

ほら、田神も謝りなさいよ!!!!!」


「私のせいにしますか!!大体宵家に関わる身でありながら、妖見たくらいで一々暴れないで下さいますか!」


「私の家は表面の仕事に関わる家だって言ってるでしょう!免疫無いんだから仕方ないじゃない!」


「貴女の旦那は妖の方の仕事をしているでしょう!」


「公私はきちんと分ける人なのよ、残念ながらね!!!」


途中から、いや最初から謝る気はさらさら無いらしい。人型の田神には何の抵抗も無いらしい朱音は、勢いよく田神に食いかかっていって、いつまで経ってもこの口論は終わる気がしない。


(本当もう、明日から気まずい…)


きちんと朱音の事を説明すればいいのだが、その為には田神の事から説明しなくてはいけないだろうか。田神どころか、他の妖も雪の前では人型を貫いていて、雪は誰が妖かは把握していない。いくら(朱音と違い)妖に関する知識を要している雪といえど、混乱しかねないのでは。だけれどこのまま雪に誤解されたままであることだけは避けたい。

と、そこまで考えて、枢はハッとした。


(私は何でこんなに…)


まだ出会ってから二週間しか経ってない。だけどその二週間、彼女はいつも枢の側に居た。そして彼女は枢に依頼される手伝いをそつなくこなし、いつでも可愛らしい笑顔だった。そして枢は、如何に雪が自分自身と向き合ってくれるかばかりを考えていたのだ。

しかし枢が気付いたその想いがもし本物だとしても、それが叶う事は無い。何故なら彼女は枢の目すら見てくれない。彼女の視界には、枢という男は写っていないから。


「…またお手伝いさんを探すのは、面倒だから…」


ぼそっと呟いて自分自身に言い聞かせる。自分は、彼女に恐れられている。この想いは、邪魔なだけ。

その言葉を聞き取った田神は、朱音の弾丸トークに言い返しながらも、視界の端にしっかりと枢を捉えていた。





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