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我が季節  作者: ゆきみね
5/12

我が季節4


当主なれど、その身は人間。胴を絶つか、首を落とすか、心の臓を突くか。どうすれば死ぬのかは誰にも分からない。

ただその身体が衰え朽ち果てる事は無く。




**




どうすれば目を合わせてくれるのか。最近は仕事の内容よりもそんな事が気になる。一般人が自分を恐れていることは理解しているが、それでも宵家の本家の中で、雪のように自分と距離を置いている人間が居るのは珍しい事で、どうにも気になって仕方ないのだ。せっかくそれなりに会話が出来るようになったのに。


「はいはいはいはい。何ボケーッとしているんですか」


ぐるぐると考えている思考を、田神がブチッと遮断した。いつもいつも思うのだが、田神はいささか無遠慮過ぎる。暗くて広い森の中をガサガサと歩きながら、枢は肩を竦めた。だが今は仕事の最中で、悪いのはボーッとしていた自分である。


「ごめん田神。ちょっと考え事を、ね。さっさと終わらせて帰ろうか」


「まったく本当ですよ…。あぁ、そういえば近くの下街に美味しいかすてら屋さんが出来たそうです、帰りに買って帰りましょう。雪さんは甘いものお好きですかねぇ。私は大好きですから、五箱位買って帰りましょうか」


真面目にやれ、というのかと思えば、当の本人ものほほんとこの調子である。それもそのはず。今日の仕事はわざわざ当主が赴いてまでやるような事ではない。ただ単に「最近運動不足だ」という田神の要求に応えただけだ。


「好きにするといいよ。雪さんが来るのはあと一時間後だから、あと一刻ほどで終わらせてくれるかい」


「そんなにかかりませんよ」、そう言って田神はにっこり笑う。するとその目がスッと細められ、鈍い紅色に変化した。そういえば元々こういう目付きだったか。赤茶の長髪も真っ黒に染まる。

スンッと辺りの匂いを嗅いで、田神は嫌そうに眉間に皺を寄せ、苦々しく口を開く。


「あぁ、匂いますね。微量ですけど、人の、血の匂いだ」


その言葉に枢も眉間に皺を寄せる。


「そう。…いいよ、田神。こんな本家の近くで堂々とやるなんて、どうせ小物だもの。片付けてしまって」


田神は苦々しい表情のままコクリと頷き、瞬時に姿を消した。当主の仕事としては小さな仕事だけれど、本家に近い場所で迅速さを求める仕事だから、身体をほぐすことを兼ねて田神がやるのは最適だろう。


(本当はこんな事無く、平和に暮らせれば一番なのに…)







無意味に人に害をなす妖、妖に害をなす人間。どちらも手をとって生きていく事は、どうしてそう簡単ではないんだろうか。




**









「あぁあっ雪さん今日はっ!すいません、ちょっとこのかすてら食べて待っててくれませんか!さっき味見したんですが、すっごく美味しいので!お茶はもう客間に用意してありますから!ではまた後でっ!」


約束の時間になって宵家の玄関をくぐると、そこは外の暖かな日差しと可愛らしい鳥の鳴き声とは一転、ざわざわと屋敷中がざわめいて修羅場と化していた。入るなりかすてらの箱を押し付けられ放置された雪はぽかん、としたまま固まってしまった。

屋敷の奥からは「味見なんてしてたんですか!」という使用人の叱責と、「すいませんね美味しかったですよ!」という悪びれない謝罪が聞こえてくる。


(今のは…、田神さま…?髪が物凄く乱れていらっしゃったけれど…)


バタバタと走ってきてバタバタと去っていった田神は、着ている着物も然る事ながら、いつもはしっかり結い上げられた髪も垂らしたままで、ぐしゃぐしゃに乱れていた。何か大変な事が起こっているようだ。

邪魔になってはいけないと、雪はそろりと屋敷に上がり、好きに使えと言われていた客間に足を運んだ。騒ぎは屋敷の奥で起きているようなので、奥にある御当主さまのお部屋には行かないほうが良い、との判断の上である。


(でもこれでは今日のお手伝いは出来ないのではないでしょうか…)


こんな屋敷中大騒ぎしていてるのだから、自分の手伝える事なんて無いんじゃないか。今日は帰ったほうが田神にも気を使わせなくて良いのではないか。色々考えてしまうが、屋敷の者が総出で奥に行ってしまっていて、相談する事も叶わない。

とりあえず宛がわれた客間に入り、先程頂いたかすてらを食べる準備を始める。食べながら考えて、それからゆっくり結論を出そう。客間にはもう茶器や皿が用意されていて、後はかすてらを箱から出すだけの状態だった。と、思ったのだけれど。


「…かすてらを食べる為のものが、ありませんね…」


楊枝か何か無いかと辺りを見渡すが、それらしい物は見当たらない。田神達も急いでいたから仕方の無い事だ。しかしだからといって手で食べる訳にには行かない。無作法過ぎる。


(…お台所は、確か奥の方でしたよね…)


屋敷の奥は未だにてんてこ舞いなようだ。だけれどソッと行って自分で準備し、ソッと帰ってくる分には邪魔にはならないのではないか。食べないのは逆に田神に失礼に当たるだろう。決めたからには雪の行動は早かった。







「え、と…この辺を右に…」


初めて行く台所を、最初に聞かされた道順を口で唱えながら辿る。周りを使用人が走り回っているので、ぶつからないよう壁をつたいながら歩く。そろそろ着くかな、と思ったその時。


「離れなさいってば!!!こらぁーーーっ!!!」


「うっさい黙れ近寄るなこの化け物ーーーっ!!!」


「二人とも叫ばないで下さいーーーーっ!!!!」


もう少し奥にある大広間から、田神の大声と、聞いた事の無い若い女性の声、そして何やら焦っている枢の声が響いてきた。


 (どうしたんでしょう、化け物って…)


あまりに騒がしいその様子に、雪にちょっとした好奇心が湧いて、広間の襖に近づく。ちょっと覗く位いいだろうか、怒られるだろうか。でもいつも冷静な御当主さまが叫んでいるなんて、滅多に無い事だ。少し位見てみたい。雪はそっと襖を開けた。


「…え」


そこには、若い女性を引き離そうと躍起になる田神、そしてそれに反して何が何でもしがみ付いている女性、最後にその若い女性にしっかりと抱きつかれていた、枢が居た。



活動報告でもあげましたが、短編を予定しているので展開が早いです。

何卒ご了承下さいませ…;

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