第四章 魔法水
――ハジマリの村
「えっと、アムレット。
皆さん、とりあえず宿取りましょうよ。
アムレットも疲れてるみたいだし」
長い、長すぎる道のり。
荒れた道、馬車酔い、謎の影とのエンカウント…etc.
流石に私も休みたかった。
シャーロットの発言は酔いすぎてしゃべれない私の気持ちを代弁しているかのようだった。
「いーや、食事のほうが先だ!勇者だってなんか食べたいだろ」
思わぬ反撃に私は戸惑わざるを得なかった。
乗り物酔いの時は食欲なんてもちろん一ミリもわかない。
そんな時に何か食べても気持ち悪くなるだけだ。
「……み、水」
このままではソフィアに押されて私は酒場に連れていかれること確定だ。
かすれた声で何とか私の要望を伝える。
カシスは私の顔をじっと見つめた後、
「なら魔法で作ればいい。」
皆が一様にうなずくのを確認した後、詠唱を唱え始めた。
「大いなる水の加護を秘めし女神よ我が眼前に水球を顕現させよ。ウォーターカプセル」
そうカシスが唱えると、こぶしサイズの水の球体が現れる。
それは透き通った水滴のようだったが、一滴も水をこぼすことなくしっかりと形を保っている。
「おぉ、魔法で水を作ったんですね~」
シャーロットが、目を丸くして、興味深そうに触る。
冷たくて気持ちがいいのか目を輝かせながら。
「すごい、すごい」
としきりにつぶやいている。
それ後で私が飲むんだけど…。
ひとしきり堪能したのか、私に譲ってくれた。
正直飲みたくないけれど、今は是が非でも水が飲みたい。
「み…ず。ゴクゴク―ブッフォー」
まっず、何あの水。
見た目は普通の水なのにまるで泥水でも飲んでいるみたいに苦かった。
「汚ね」
ソフィアは顔をしかめ一歩後退る。
そんなに言わなくてもいいじゃんと思うが、噴き出した方向が彼女のほうだったから文句を言うことはできない。
「うぅ、…お祈りをささげるべきでしょうか。
―遠いお空に行ってしまった勇者様に」
―落ち着けシャーロット私はまだ死んでない。
そういいたくなったが、声なんて出してしまうとあの苦みがぶり返してしまいそうだったのでやめた。
「うぅ、勇者サマが吐いた件といい、一週間はクリーニングだな
すぐにでも馬車を出したいのですけれど、いいでしょうか?」
御者さんが、そう丁寧に言っていたが、その言葉の節々にはいら立ちがにじんでいた。
「何がいけないんだ。
だって植物には効きくし、アムレットが、反射的に吐き出すことないはずだ。」
御者の発言をフル無視してカシスが魔法研究を始めようとする。
「うーん祈りが足りなかったとかですかね」
シャーロットが僧侶として意見を言う。
「でも、魔法に祈りとか神のなんちゃらとかいらなくて、全部魔力で構成しているんだよ」
すると、カシスが少し顔をしかめ、神の慈悲なんていらないとでも言いたげにいった。
「うーん…勇者の胃がまだ魔法の水なんて飲める状態じゃなかったてことじゃな―」
「ペロッ…うわ、これめっちゃ苦いですよ」
ソフィアが言い切るより先にシャーロットが進んで生物実験の対象になる。
私も同感だ。あれはとてつもなく苦い。
現にシャーロットの顔も、元の面影のないぐらいに歪んでいた。
「んー…。あ!あたし聞いたことあるよ。
魔法で作られた水って信じられないぐらい苦いらしいって。
それこそ泥水みたいな。
なんでも魔力が介在すると、味がねじ曲がって無から創造された水はなんちゃらかんちゃら」
すると僧侶が驚いたかのような顔をして、
「え…!魔法って万能じゃないんですか⁈」
と、目を丸くする。
「なっ?魔法も万能じゃないだろ?やっぱ物理に限るよなぁ僧侶?」
ソフィアは腕を組みながらにやりと笑いかける。
「えっ…。わ、私は神聖魔法とか回復魔法とか使うんで武器はちょっと…」
「な…。由緒ある二刀流を愚弄するか」
腰のベルトにさしてある両手剣のつかに手をかけた。
とっさに止めようと口を開くも、
「それいったら、神聖魔法だって歴史ありますよ。創設から六百年以上たってるんですから。」
シャーロットが熱くなってしまった。
「なっなにを」
「ソフィアこそ何言ってるんですか」
「「むー」」
二人ともひとしきり議論した後にほほを膨らませてそっぽを向いてしまった。
これは由々しき事態だ。
なんせ、魔法使い一人では私の体を支えてはくれないだろう。
つまりここで二人の仲を取り持っておかないと私はあの頭がおかしくなりそうなくらいに苦い魔法水を飲
まなければいけなくなるだろう。
「取り敢えず…その辺の井戸水を…」
私がかすれた声で要請すると、何かを察してくれたシャーロットは、
「そ、そうですね。もう魔法水はやめましょう」
しかし――
「え?これから実験するんじゃないの?アムレットっていう実験体もいるし」
カシスが驚きの一言を投げた。
さすがにそうなっては冒険は終わり、世界は魔王の闇に飲まれるだろう。(って王様が言ってた)
「おいおい、アムレットの体力を考えてやれよ。」
すかさずソフィアが援護射撃をしてくれる。
しかし彼女には食欲のない私を酒場に強制連行しようとした前科がある。
このままでは、苦い水を研究するための実験対象になるか酒場に行って吐くか、それしか選択肢がない。
「わ、私は実験されません」
乾いたのどから何とか一言を絞り出す。
どうせなら酒場よりも井戸か宿屋に言って休みたいとも伝えたかった。
「……」
シャーロットが口を開きかけて閉じた。
「ん?どうしたシャーロット」
ソフィアがすかさず対応する。
こういうとこはほんとにコミュ力高いと思う。
「いえ、なんか嫌な予感が…」
またかよ。
私は心の中で突っ込む。
前回まだ謎の影とエンカウントしてから三十分ぐらいしかたってないのに発生率高すぎだろ。
「僧侶の予感はよく当たるから」
カシスが神妙な面持ちで言う。
それだけが事実なのが憎たらしい。
「あのすみませんそろそろいいでしょうか?」
「「うわっ」」
さっきまで静かに立っていた御者が突然こちらに馬車を出していいかの許可を仰いできた。
「あーえっと。いいですよ」
どぎまぎしながらもソフィアが返す。
「では失礼します」
よほど帰りたかったのか早足に来た道を引き返していった。
「えーと、何の話してたんだっけ?」
肝心の本人が忘れてる、だと。
「お前が、いやな予感するっていうからどうしようかなって話してたんだよ。
でも、具体的に何が来るのかわからないから準備のしようがないなー。
とりあえず消耗品の買い出しと宿屋をとってこようか」
珍しくソフィアがまともなことを言った。
「あ、アムレットさんに水を飲ませることを忘れてますよ」
「お、そうだな」
シャーロットの提案に皆一様にうなずく。




