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第二章 旅の始まり


――城門


あれから私は、剣と魔法をほんの少し鍛錬して木剣と初級魔法を扱えるようになった。


でもそれだけだ。こんな初期の初期装備で魔王を倒せるとは思っていない。


そのためにこれからの旅があるのだ。


冷たい石壁はこれまでのあまたの勇者たちが命を懸けた戦場へ王国に強制的に派遣された。


忌まわしき境界の門である。


そして私達の旅立ちの出発点。


「勇者様よろしくお願いします」


この短期間で集まってくれた仲間たちは、侯爵サマが気を利かせてくれたのか全員が女の子だ。


彼女らは私を勇者と呼んで慕ってくれているけれど初めて会った時から一度も私の名前を呼んでくれない。


私は彼女らにとっても勇者なのだと思った。


「だから僧侶!私の名前はアムレットです。


勇者じゃないですー。」


私は舌をべーっと出して、勇者という役割に全力で抵抗する。


私は勇者じゃない。勇ましくなんてないし強くもない。


私はアムレットという一人の人間なのだ。


「それいったら私だって僧侶じゃないですよ。


私にもシャーロットっていう大事な名前があるんですよ」


むーっと頬を膨らませる青髪の緑の目をした僧侶―シャーロットをなだめつつ。


彼女も「人間」なんだと少しうれしくなる。


昔は私の周りには私を人間と認めない人外がいたから。


余計に感慨は深くなる。それでも手は休めずに次の村へのルートを確認する。


「あのアムレット様。私まだ初歩の回復呪文しか使えないのですが旅について行っていいのですか?」


その言葉には不安と恐怖がにじんでいるような気がした。


「私もそんなもんだよ。いまだに剣が重すぎて振れないから、木刀で我慢してる」


冗談を交えて言う。(事実だけど)


「木剣?ふふ、勇者――いいえアムレットも意外とドジなんですね」


その笑いが私に完璧じゃなくてもいいと言ってくれている気がした。


私の勇者という使命に対する抵抗への第一歩だ。


「えっと、私もお金なくてその辺に落ちてたローブでどうにか魔法使いやってます」


「え、そのローブごみだったんですか?てっきりもっと高いものかと」


シャーロットが素っ頓狂な声を上げると、


「ゴミっていうな。こんななりしてても魔法使いってのは道具に愛着を持つ職業なんだよ」


「魔法使いさん落ち着いて」


「私は魔法使いじゃない。


カシスっていう名前があるからそれで呼んでよ」


金髪で何も映さない闇色の瞳の魔法使いの少し平坦な声はとても同年代とは思えないほど知的で大人びていた。


「まぁまぁ落ち着いてよ二人とも。


えっと…あたしはソフィア。


盗賊なんて言ってるけど、実際はその娘だからスキルとか全然ないから罠とか自分で回避してね」


紫色の髪をして、勝気に吊り上がった青い瞳。


そんな彼女のてへっという笑いに全く笑えなかった。


「罠なんてどうやって見抜けばいいんですか私は僧侶ですよ」


シャーロットがあわあわと女盗賊に聞くが、


「知らね」


まさかの即答。


「ソフィアさん‼」


もはや、盗賊の意味なし⁉


「ま、まぁ、それは後で何とかするとして、ちょっと前まで私は貴族の娘だったんだよねー」


「なにそれ自慢ですか?」


「自慢したいならよそでやれ」


「どうせ私は金欠」


いつにもまして辛辣&悲観的!


「ち、違うよー。私はただそのせいで内部抗争とか覇権争いとか多くてこんな腹を割って話せる友達がいなかったんだって」


「「「…」」」


三人は一斉に顔を見合わせると、


「ボッチお疲れ」


「まぁ、あたしたちが話聞いてやるから」


「アムレットさん。おつかれさまです」


なんか馬鹿にされた。


「でも、私たち仲間なんですから友達じゃないんですから仲間って呼んでください。な・か・ま」


「でもさ僧侶」


「シャーロットです。」


「まだ旅にすら出てないから仲間って言えるのか怪しいんじゃない?」


「「「勇者様ひっどーい(です)」」」


三人の息を合わせたような抗議に吹き出しそうになるのを抑えて、


「そんな言わなくてもいいじゃん…。


でも、最初はまだ馬車に乗れるから楽だよ。もうちょっと治安悪くなると盗賊も出るし魔物もいるしで運営できないらしいから徒歩の移動になるよ」


三人は、『徒歩?』と顔を見合わせてから少し顔を青くしていた。


「ちょっと、徒歩ってどれぐらいかかるんですか!」


シャーロットが語気を荒げる。


「うーんと…。単純計算で一日歩き続けて魔王城まで二千五百万時間ぐらいかな」


魔道具の電卓で計算しつつそう答える。


「それで、どんな計算したらそうなるんだ?」


えーと彼女は確か…


「えっと名前なんでしたっけ」


「おいおい忘れるなよって、あたしはソフィア。


んで、このちっこいのが、カシス


カシスともどもよろしく勇者様」


「ソフィア、私そんな背は低くない。名前も忘れられてない」


正直カシスの名前は忘れかけていたので、ソフィアに教えてもらって良かったと思う。


「いや私アムレットだって」


「いや、勇者様は勇者だろ」


私は少し複雑な心情になりながら、力なく答えることしかできない。


「でもさ、もし私が魔王を倒してこの国に帰ってきたとしたら、そこはもう魔王のいない平和な世界なわけでしょ」


「そうですけど、それでも勇者は勇者じゃないんですか?」


僧侶が首をかしげる。


彼女は知らないようだ。


「私は使命を果たした瞬間にこの国の侯爵サマの第一王子の婚約者って肩書になるわけです」


「え、アムレットさん結婚するんですか?」


目をこぼさんばかりに開いて僧侶が聞いてきた。


そんなに意外か?まぁ不本意この上ない書類上の婚約だけどね。


「政略結婚だよ。この国は、聖なる勇者と侯爵が起こした国だから定期的に血を補強しないと、侯爵家は神の一族ではなくなっちゃうって信じられているから、私は、勇者じゃなくなることが運命づけられているんだ」


そう、私が魔王を倒しても倒さなかったとしても私が勇者でいられないことはもう割り切っている。


力なく笑っても、三人の表情は晴れない。


「そんなのおかしいですよ」


シャーロットは少し悲しそうに呟く。


「世界を救った勇者なのに、そうして権力にも抗えず勇者っていうだけでそんな…」


「私まだ世界も救ってないのに気が早いよ」


シャーロットの苦しそうな表情を上塗って軽口をたたく。


「ほらそれにこんな辛気臭い話は旅の始まりにふさわしくないよ」


私はできるだけ明るく笑って見せる。


それでこの場の空気が晴れるなら、


「…それもそう」


カシスは真顔でそうシャーロットに顔を向けると、


「それで、馬車はどこ?」


と私のほうを向いてきた。


「えっと、そろそろここに来るって聞いてたんだけど…あれぇ?」


――三十分後


「おえっぷ」


「わわ、アムレットさんこっち向かないでください」


国によって手配された馬車は予想の数倍は豪華で、三十分ほど走っているのに腰が少しも痛くならないうえに馬車を運転してくれる専門の御者までついてきた。


だから旅の滑り出しは好調といえただろう…私が場所間違えて途方に暮れていなかったら。


まぁ結果的に私たち四人は、広い座席でゆったりと旅の始まりを優雅に迎えられる…はずだった。


「…おえっぷ(そういえば私馬車駄目だったんだ)」


私は自分が馬車に弱いことを忘れていた。


もし覚えていたらずっと徒歩一択だったのに…。


豪華な馬車には襲撃を警戒してか、広い窓は一つもなく、換気用の小さな窓が一つあるだけだった。


「吐かないでください、ほらもう少しでハジマリの村ですよ」


シャーロットが、応援してくれるが私は知っていた。


「あぁ、えっとシャーロット落ち着いて聞いてくれ。


次の村まではどんなに急いでもあと2時間はかかるんだ」


次の村まで2時間ほどかかることを。


「そ、そんなぁ」


座席の横にはめ込まれた一点の曇りもない小さな窓ガラスの先に広がる、広大な小麦畑を眺めながらシャーロットはため息をついた。


王都の近くといえども、道はそれなりに荒くガタガタと馬車が何度も揺れた。


「うっぷ、おえっぷ」


何とか吐き気を我慢していると、


「申し訳ございません勇者様。この先は魔物の侵攻で道が悪くなっていますので少し揺れます。」


御者が後ろを振り向いて絶望しか含まない宣告を私にした。



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