第一章 勇者候補
連載開始!
一応二作目だけど
前のより前に書いたやつなので文はつたないです。
気が向いたら細々投稿します。
「私が…勇者?」
城のばかみたいに広い大広間に私の声は響いた。
「そうです。あなたこそが神から啓示を受けてこの神聖侯国連合を率いることが運命づけられる第七十七代勇者レオーネ男爵息女アムレットよ。」
うやうやしく頭を下げる大臣に私の声は震え続けた。
「そんな…そんなはずがあるわけがない」
私の前に立ったお父様が声を張り上げる。
「勇者というのは七百年に一度黒ローブに身を包んだ預言者なる存在が聖都の教会で告げるものじゃないんですか?前の勇者が旅立って魔王を封印してから七年しかたっていないのに娘が選ばれるのは不自然じゃないですか?」
そう悲痛に告げるお父様の顔には私のことを微塵も思っていないことがはっきりと読み取れた。
その落胆や恐怖は、私自身の命を心配しているということより、私が討伐に失敗して自分の家の評判を下げることや後継者がいなくなってしまうことに対する感情のような気がした。
この国では勇者は最も優先される称号、立場で、勇者となったら最後神の子と自称する侯爵家に嫁がなければいけないのだ。
だから、私が勇者に選ばれた時点でレリオーネ男爵家の跡継ぎはいないことになる。
王様は少し困ったようにして、
「しかし男爵よ。勇者は何よりも大切にされるべき称号。それに神の御意思とあれば、われら侯爵の家であっても覆すことは出来ないのじゃ」
「しかし」
お父様はなおも醜く引き下がろうとした。
「娘はこの美貌と引き換えに剣を持つ力強さも、野宿をしても健康でいられる体も、何日も歩き続ける足も、旅に必要なものは何もかも持っていないのですよ。」
「じゃがなぁ男爵よ。」
そう、侯爵様が続けようとするのも遮って私は大きな声をあげてしまった。
「なんでそんなに私を貶すの?
私は何もできない無能娘だっていうの?
そんなこと言うあんたみたいな父親、こっちから願い下げだわ。
深窓の令嬢なんて言ってろくに外遊びも剣の勉強もさせなかったのはあなたじゃない。
勉強、勉強うるさいのよ!」
あぁ今までこんな風に思っていたんだ。
言い切った自分に違和感を覚える。
今までは何も違和感を感じていなかった。
自分の待遇も扱いも、私には才能がないから、当然の扱いだって。
ただ無味乾燥に、もう慣れたはずだった。
しかし、あふれ出た思いは、あまりにも正しくて純粋で私にはどう扱えばいいのかわからなかった。
この時ばかりは大臣もこの国の最高権力者である侯爵様もだまっていた。
広間に偽りの静寂が流れる。
黙っていたけど目が、
『うわー。なんでこんなとこまで来て親子げんかしてんだよ』
と物語っていた。
その目に耐えられなくて、私は、ただ自分の言葉を、思いを紡ぐことに集中した。
「どうして、どうしてあなたは私のことを理解しようともしないの?
私には跡継ぎ以上の価値がないとでもいうの――?」
それから私は王様とお父様に背を向けて、謁見室の扉に走った。
まぁ、あっけなく捕まったけど…。
だって当然じゃない。
ろくに運動もしていない小娘の体力と、衛兵の鍛えられた体力じゃあ、天と地ほどの差があるもの。
――牢獄――
目が覚めると冷たくて暗い所にいた。
人々のうめき声や、ジャラジャラという耳障りな鎖の音も、そのすべてを示しているようだった。
カツカツ
石の回廊を歩く音が聞こえた。
それはただの木靴ではなくおそらく革靴だろうと思うような良質な音がした。
近づくにつれて、暖かなランプの光が、無機質な鉄格子を照らした。
「……大臣」
私はうめいた。
それは先ほどまで王の隣で嘆いていたこの国最高峰の役人の一人、大臣(本名は知らない)その人だった。
――十分後――
「つまり、勇者アムレット。そなたはお父様と離れたいと?」
私はまだ勇者じゃないといいたくなるのを抑え無言でこくりとうなずく。
話し続けたおかげでのどはカラカラになり、まともに返事をすることすら煩わしく思えた。
すると大臣はさらに続けた。
「それでもって外の世界を見てみたいと?」
やはり私は無言でうなずく。
「ならそれこそ魔王討伐の旅に出るべきではないでしょうか。」
予想外の大臣の言葉に私は目を丸くした。
「そんなの…許されるはずがないわ。
勇者が魔王討伐以外の目的を持つなんて…。」
がらがらの声は大臣に届いたのかも怪しいほどにかすれていった。
しかし、大臣はにこりと笑って、
「あなたがどう思うかは自由なのです。
私たちは誰かの考えを縛るような拘束魔法を知りません」
大臣の言葉には今まで感じたことのない種類の温かさが詰まっていた。
「けれど、けれど私は、旅どころか聖都の屋敷から今日まで一歩も出たことのない深窓の令嬢なのよ。
旅なんてできるわけがないじゃない。」
「だからこそですよ。
あなたはいずれ広い世界を見なくてはいけない。
それは、あなたが貴族の跡継ぎだということに対する責任。
いえ、それだけの才能があるはずです」
才能?聞きなれない。耳が拒否し続けた言葉に首をかしげる。――だって私には才能なんてないと信じてきたから。
「あなたには魔術の才能があるはずなのです」
魔術――この世界に存在する神の軌跡に最も近い奇跡。
魔法には属性がある。
炎、氷、土、風、これが基本の全六属性らしい。
けれど私は見たことがない。ただ本で読んだだけだから。
あこがれたことも、それを使えるように願ったことも。
数えきれないぐらいある。
けどお父様が、
『アムレット。お前に魔術の才能なんてあるわけないだろ。
お前にできることはみんなできるんだ』(」)
と、言ったから、魔術師の道はあきらめた。
でも、憧れの炎はまだ消えていない。
「それを使うにはどうしたらいい?」
私は、私を信じることにした。
まだ半信半疑だけど。
「魔術都市カーレーニに行けばいいんです。そこは、魔王城に行く道のりの最後の街です。
そこにこそあなたの才能を開花させる魔導書や、貴方の好奇心を満たすに足りる師匠がいるはずです」
まくしたてる大臣の言葉にある侍女の言葉が脳裏をよぎる。
「でも、私の侍女は言っていたわ。この町でも、それどころかこの世界に存在するどの町でも四大魔法を習得することはできるって」
正直、魔法を習得するために一番魔物が強くなる魔王城までの道を攻略できる気はしない。
いくら優秀な魔法使いがいたところで、私が身を守れなければ意味がない。
だから、最後の町まで行って、魔法を習得する必要性も安全性も見えない。
「あなたには、――カーレーニでしか残っていない、魔法の才能があるはず」
知ったかぶりをされると、むかむかとした気持ちが湧き上がってきた。
それは自分が認められた喜びであり、それでいてそれが噓だと認める冷静さでもあった。
「どうして…どうしてあんたなんかにわかるの?きっと――きっと私を勇者として旅出たせるための虚構なんでしょ」
そう。これは噓だ。
耳障りのいいだけの、そんな言葉をつらつら並べるだけの虚構だ。
私は―無能だから。
もうとっくにあきらめはついている。
「あなたがそう思うならそれでもいいのです。けれど、もしここであなたが断ればあなたは――殺され
る。」
言葉の重さが、ナイフのように私の心を貫いた。
「ついに本性を見せたんですね。
あなたは詐欺師。それは初めからわかっていましたし。」
それを認めるのを拒む心が勝手にそんな言葉を紡ぎだそうとした。
自分じゃない誰かが、支離滅裂なことを騒ぎ立てているようだった。
しかし最後は一言に集約される。
「―…え?」
私が変なことをぼやいても、大臣は大まじめにそう説いてくる。
「断れば死ぬ」
と。
口から出た音は信じられないほど間抜けで、貴族とは自分でも思えなかった。
けれど、言葉が出るほどの余裕があるわけでもなかった。
「そう。これは事実だ。この侯国の残酷な策略は、たくさんの勇者候補に選択を迫り、依頼を受けたものだけを送り出し…それ以外は――」
「それ以外は?」
聞いてはいけない気がした。
聞いてしまえば正気ではいられない気がしたから。
けれど私は勇者候補として聞く必要があると判断した。
「……処分だよ。全員処分。
―よくて魔力を吸い取られるだけの奴隷。悪くて殺される。」
「勇者は何よりも大切にされるべき称号じゃないの?」
私はそう聞いた。
聞かずにはいられなかった。
口調が変わったのに構える暇もなく。
本当は守られているんじゃないか。
これは一種の御伽噺じゃないかと。
しかし、現実とは残酷なもので、
「あぁ、何よりも大切にされるべき『奴隷』だよ。」
「そんな…そんなはずがあるわけがない」
この国では、人身売買は禁止されている。
それを決めた侯爵家が、そんなことしていいはず…。
「君にわかるのかい?侯爵様の雑務という名目で、うめきながら魔力を生産し続ける自我を失った人間にえさを与える仕事のつらさが!」
大臣がそう矢継ぎ早に話せばそれが否応なく事実とわかる気がした。
「…私はどうすればいい?どちらにしたって私は死ぬ運命じゃない。旅の疲れか魔物の攻撃か、家畜として飼い殺しにされるのか?それだったら、まだ可能性のある道に託すしかないじゃない。
これがくだらない虚構でも、それが事実である可能性が一パーセントでもある限り、私が旅に出ないという選択肢はないじゃない」
策士なのか、噓つきなのか、そんなことはどうでもいい。
それから私の、旅が始まった。




