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返還不能

異世界コント6話目です。今回はちょっとシリアス。

 異世界召喚された千佳と魔道士のエリシナは共同研究を進め、異世界召喚に種類があることを掴んだ。


 頻繁に、使用されていたプレートは2つ。聖女と勇者。

 他にもプレートはあった。しかし、医師や鍛冶師などは、使える材料や環境が異なるので腕を振るえなかったようだ。


 召喚記録とプレートを照らし合わせ、召還後の観察記録を読んで分類する地道な作業。

 五百五十年分の資料と、ここ数十年の記録を読むだけでも膨大な量だ。


 数年かけて、二人は新たな仮説を立てた。


 どうやら地球にいくつか目印があり、その周辺から呼び寄せているようなのだ。

 例えば、日本の富士山を目印に聖女を、イギリスのストーンサークルから勇者を。他にもパワースポットと呼ばれる目印があった。


「多分、この二カ国は、別世界に呼ばれることに対して、抵抗が少ないんだと思うわ。神隠しとか妖精のチェンジリングとか、おとぎ話で子どもの頃に聞いて育つから」



『異世界に対して理解と諦めがあり、魔法を受け入れる土壌がある』とエリシナが手帳に書き込んだ。



 ちなみに、他の目印が使われなくなったのは、こちらの生活に馴染めない人が多かったからだ。


 敬虔な一神教の信者はこちらの女神教を受け入れない。逆に、自分の信じる神を布教しようとする。

 呪術で全てを解決しようとする人も、厄介だった。

 論理的な思考、議論が大好きな地域の人は、魔法を受け入れようとせず、理解できるまで納得しない。

 陽気で前向きな国民は、無責任な大口を叩き、こちらを引っかき回す。


 ――などなど。


「言いたいことはわかるけど、一方的に召喚しておいてなんて言い草だと腹が立つわぁ」

 千佳は思わず文句を言った。


「きっと同じ『人』だと思っていないのね。実験動物みたい……」

 エリシナのせいではないが、申し訳なさそうにつぶやいた。


 大昔の、力が強い魔道士たちのなんと傲慢なことか。




 だが、エリシナの父親も兄弟たちも傲慢で自分勝手だった。


 兄弟の中で一番魔力が大きい三男が問題を起こして、後継の座から降ろされた。

 長男と妾腹の次男が争い、そこに魔力量が普通のエリシナが加わるのは難しい。


 当主と後継者だけが閲覧できる資料があれば研究が進むと思われたが、研究成果を出さないと後継者争いに加われない。

 時間だけが過ぎていく中、王太子と千佳に相談した。



「目的は後継者になることではなく、異世界召喚を阻止するために後継者の資料を見ることだ。

 長男か次男と組んで、後継者に指名される協力をする代わりに後継者用の資料室に入ることを交渉するのはどうだ?」


「王太子殿下、頭いいね!」


 そんな話し合いを経て、次男と組むことにした。



 後継者争いからは降りたが無事に資料を読めるようになり、千佳と研究に励んだ。


 研究発表は、後継者である次男を研究リーダーと偽装し、エリシナは補助員として発表を行った。



「最終目的は異世界召喚をやめさせることなのに……。

 そのために異世界召喚の有用性の研究発表をするなんて、矛盾しているわね」

 研究発表のあとに、エリシナが落ち込んでいるので、飴を口に放り込んでやる。


「目的のために手段を選ばず、ですよ」

 千佳はエリシナを励ました。

 新たな被害者を出さないために必要な欺瞞だと、自分に言い聞かせながら。




 比較文化が好きな千佳は、召喚された人の言動から出身地域を推察するのを楽しんだ。


 気になったのが、時代が前後しているのではないかということ。


 七百年前。バンカラな学ランの男性(聖人と呼ばれた)が、しばらく外国のどこかだと思い込んでいた。

 六百年前。結髪の江戸時代の女性が召喚されてビンヅメ油がなくて髪の乱れを整えられないから人前に出られないと引きこもった。

 五百年前。ルーズソックスに顔を茶色く染めた女子高生がガングロだしーヤマンバだしーチョーウケるーとはしゃいだ。

 四百年前。平安時代の人が源氏物語の続きが読めなくなったと嘆いた。


 ……日本の歴史の流れを無視している。


 どうやら地理的を指定するピンはあるが、年代を指定するピンがないらしい。


 であるならば、異世界返還できたとしても、日本のどの時代に飛ばされるか分らない。

 つまり、元の時代に戻れない……!



 薄々諦めていたけれど、改めて不可能だと突きつけられ、千佳は絶望に打ち震えた。


 その後の数日間、どう過ごしていたか記憶がない。

 うっすらと「もう終わりだ」と叫んだような、取り押えられて眠らされたような……そんな夢を見たような、気がした。



 ようやく、正気に返り、しずくにそれを伝える。

 しずくは子どもを眺めながら、静かに「そう」とだけ言った。


 彼女は異世界返還ができたとしても、しずくは帰ることを選ばなかったのかもしれない。


 笑い飛ばそうとしたが、何も思い浮かばなかった。



 ――神様、私は地球で積み重ねた人生を断ち切られて、島流しにされるような罪を犯していたのでしょうか。

 務めて明るく振る舞っていた千佳の、心が折れた。


今までと違うトーンになりましたが、大丈夫でしょうか? 

千佳が復帰できるよう、応援してください。

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