第6話『3つの海道と出会いと別れ』
トウカイの宿でダンジョン討伐の疲れを癒した後。
旅へ出発するため、トウカイの門を出るところだ。後ろを振り向くと、ロウダン殿とミユリ殿、タカヤ殿までもが、見送りに来てくれたのだ。
「グレイリィさん、行ってしまうの、寂しいわ。」
「またトウカイに寄ったら、ウチに遊びに来てくださいね!」
この夫婦は、桜のように柔らかく優しく笑うな。
「ありがとう。是非、トウカイに立ち寄ったら。サクラダに寄らせてもらうよ。」
『桜餅、ありがとう!』
ルゥは、余程気に入ったみたいで、ミユリさんから桜餅の手土産を受け取った時、大喜びだった。
「申し訳ない。まさかこんな手土産を頂いてしまって。」
「いいえ。ほんの気持ちですから。」
ミユリさんの優美さや、純潔さは、まさに桜のようだな。
「グレイリィ、元気でな。」
「あぁ、ロウダン殿も!」
『バイバイ、ロウダン!ミユリ!タカヤ!』
3人に手を振り、新たな旅路に足を踏み入れた。
『どこに向かうの?』
「"シィラン"という、大きな湾岸都市がこの先にあるんだ。」
小型電子機器で、ルゥに見せる。この小型電子機器はお姉様から頂いた。
『グレイリィが無事に楽しく、ダンジョンの散策ができるように!』と渡してくれたんだ。
『大きな船がたくさんだ〜!』
「そうだよ。狩りや目的地の間にある、街で休みながらゆっくり行くとしよう。」
ムーン=ベアーに遭遇した。こいつは少しランクが高く、素材の値も高めだ。
大きな身体、鋭い爪の攻撃を交わしながら、鼻と額の間を目掛けて、拳に少し水魔法を加えて仕留めた。倒したムーン=ベアーは、肉や素材を手早く採取した。
旅の途中で助けた、すれ違った人から、エッグ=バードの卵を頂いたり。
星空をみながら、ノ=ラビットの高タンパクシチューを食したり、気分が良くなって歌うと、宿目的で来た街の人集りが出来たりと、ゆったりとした時間が流れていた。
綺麗な顔を見つけて、ベニ=フイッシュとスイート=フィッシュを採取して。半分は塩焼きにして食べた。
『あれ、この味…桜の味がする!』
「桜の塩漬けを少し入れてみたんだ。美味いか?」
『うん!美味しいよ!』
ルゥがいるから、この旅も寂しさが薄れるんだろうな。
「それはよかった。」
少しは売る用に、もう残りは干し魚にした。
そして、最も大きい湾岸都市"シィラン"。
ここは景気の要と呼ばれていて、いかにも大都市と言うくらい、大きな建物が多く並んでいる。
人も種族問わずいる。
中心には、人を歓迎するかのように、数多くの屋台があり、賑わっている。
『わぁ、賑やかだね!』
「リズはどちらかと田舎だからな。ここまでは圧倒されてしまうな。」
『見てみて、グレイリィ!あそこに大きな船がいっぱーい!』
「あの船たちは、漁船や観光船があるらしいよ。」
『観光船!?何それ、乗ってみたい!』
「あそこでチケット買うみたいだね、行ってみる?ルゥ」
『うん!行きたい!』
私も初めて見る大きな船、一体どんな景色が見れるんだろうか。
市場で狩った肉を少し売ったお金で、観光船に乗る為にチケットを買い。ゆったりと海を眺めながら、落ち着くに香りを満喫していた。
『わぁ!うーみは、ひろいーな、おおきいーなー♪』
ルゥも楽しそうで何よりだ。リズとは違う海だが、私もそれなりに海の旅を楽しんでいた。
『何飲んでるの?』
「シィフードだったかな。」
『もしかして、お酒?グレイリィって意外とお酒好きだよねー』
「美味いからな。たまにはいいだろ?」
『ボクのは?』
「ルゥには、まだ早い。」
『むー!ボクこれでも3万年は、生きてるんだよ!!』
わーわー言う、ルゥの起こり文句を聞き流しながら、爽やかな風、青い空の下で飲む酒は絶品なのだ。
海鳥が眩しも、悠然と飛んでいる姿を見つめていた。
ーーー
しばらく青一色の景色を楽しんでいると、パッと音がして、私とルゥも気になって見る
『わぁ、なんか始まるみたいだよ♪♪』
「そうみたいだな、せっかくだから行ってみるか。」
観光船の真ん中に、ステージなんてあるんて気付かなかったな。
「らーらーらー♪」
蘭のような純白に、貝殻の装飾されたドレスを着こなした、綺麗な女性が歌っている。
いいな、場所は違うがリズを思い出すなと女性が歌に耳をすましていた。
『綺麗な歌。』
まるで、旅をしている様な情景が浮かぶ歌だな。
「この曲には、ハープの音色が映えそうだ。ちょっと混ざってこようかな。」
『あ、いいね!ボクも、グレイリィのハープききたい!』
ハープの弦を軽くなぞる。
「あら、素敵なハープね!」
「指図かえなければ、混ざってもいいだろうか?」
「えぇ。是非、お願いするわ!」
舞台に混じるとやはり見立て通り、ハープの音色と美しい歌声が混じりあって、この旅の歌にぴったりだ。
「ありがとう!貴方のハープとて素敵だったわ!」
「それは嬉しいね。」
「自己紹介かまだだったわ。私はレイラよ。」
「私はグレイリィ。こっちはルミナと言って、ルゥと呼んでいる」
「よろしくね、グレイリィさん、ルゥくん!」
『よろしく、レイラ!』
小さい手で握手している、ルゥ。人懐っこさが有難い。
「良かったら、あなたも歌ってみる?ここはフリーステージだから、誰でも歌えるのよ!」
そうなのか。こういうところも、大きい都市の特徴かもしれないな。
『ボク、グレイリィの歌聞きたい!グレイリィの歌はとても綺麗なんだよ!』
「まあ、それは楽しみだわ!」
歌っていたレイラ殿に手を引かれて、ステージに立ち、もう後に引けないなとハープを引き"水の記憶"を歌った。
「素敵ね、波の音のように、心が落ち着くわ」
『グレイリィとボクの故郷の歌なんだ…』
「そうなのね。とても心が洗われるわ。」
リズの歌がまたここに広まることが、とても嬉しいな。
「とても素敵な歌だったわ」
「レイラ殿のも、素晴らしかった。ね、ルゥ?」
『うん!2人ともよかった!』
レイラ殿ともっと話してみたいと思い、彼女のお勧めのお店に来た。
シィランの名前ををテーマにしているのか、貝殻や蘭が装飾されていて、綺麗なお店だ。
『白を基調としたお店で、すごく綺麗なお店だね!』
「そうだな。明るい雰囲気で落ち着くな。」
店員に案内された席に私も座る。ルゥもちゃんと座るんだよ、楽しい時はテンションが上がって飛び回っちゃうけど。
「綺麗な歌と素敵な出会いに、乾杯♪」
「乾杯!」
『カンパーイ!』
私はエールを、ルゥは6種類のフルーツを使ったノンアルコールドリンクだ。
「お、グレイリィさん。いい飲みっぷり!」
「レイラ殿がお美しいからな。」
「まあ、グレイリィさんったら〜」
このお店で、炙った魚や焼いた貝を堪能して、夜が薄明るくなり、日が見え始めるまで、飲み明かした。
レイラさんの故郷の話、私のリズの話、ルゥとの出会いの話。ルゥがレイラ殿と話す時嬉しそうに飛び回るんだ。
この先の旅路も、こんな素敵な出会いと美味しいお酒を交わしたいものだな。
「はー!楽しかった!」
「こちらこそ、いい出会いだった。ありがとう」
「私の方こそ、楽しかったわ!」
『ばいばい、レイラ!』
「ルゥくんもグレイリィさん、またどこかでね!」
レイラ殿も旅をしているようで、あちこちの国や街を回って居るらしい。
彼女は綺麗に笑って、手を振って、レイラ殿は歩き出した。その姿は、優雅で品があって、まさにあの衣装に遜色ない人だったな。
私もあんな風に笑える日が来るのか。
レイラさんの話からは、辛い過去が垣間見えた。人生は嬉しいことばかりではない。私もレイラさんを見習わなければな。
私も強い心を持ちたいものだ。
「さて、私たちも行こう!」
『うん!次はどんな旅なるかな〜?』
「次はレイラ殿が話してた。ローレライが暮らしているという、"スピリット"を目指すよ。」
スピリットは、ローレライだけではなく、複数の精霊が暮らしているらしい。
『ローレライ!?どんな素敵な街なんだろう、わくわくしちゃうなぁ!』
「その間にも、"トロイ"という街や"ユーハン"という小国にもよろうと思っているよ。」
『どの国や街なのか、楽しみだ。』
ルゥの故郷もいつか見てみたいな。きっとルゥと同じように美しいものだろうな。
『どうしたの、グレイリィ?』
「ううん、なんでもない。さっ、出発だ。」
『しゅっぱーつ!』
私とルゥは、次の街へ歩き出した。
先ず、立ち寄ったのは"ユーハン"だ。
ユーハンは自然豊かなところだ。街というより島みたいなイメージかもしれないな。
南の島の様な青々とした木々、ユーハンの敷地に入ると赤い大きめの花や黄色い小さい花で、色とりどりの花のネックレスで、歓迎してくれるのだ。
『わぁ!わぁ!ありがとう!』
「ふふ、どういたしまして!」
歓迎してくれた事に、ルゥはとても喜んでいた。
迎えてくれた人に、名物とかあるかと訪ねると、この店を教えてくれた。ここで食べる、みずみずしく甘い果物たちで、とても美味しかった。
『おいし〜い!!あま〜い!!ジュースみたいな果汁!!』
ルゥも絶賛で、花が頭に付けられていて、可愛かった。
「確かに、美味しいな。」
『だよね!』
ユーハンでは、珍しい漢方や乾燥させた干し果物が有名で、いくつか買った。これで、普段作れないポーションや効果アップのが作れるのだ。
「お祖母様と1回だけ来たことあるけど、ユーハンはあまり変化ないな。」
『へぇ!確かに、お祖母様が好きそうな場所だよね!』
立ち寄ったお店で、ユーハンではキャンプファイヤーをやる風習があると聞いて、見に来たのだ。
ユーハンの人々が楽しそうに歌っているのに、私とルゥが混ざったりして、楽しい1晩を過ごした。
「キミ、歌の旅人なんでしょ?」
そう言われた時、広まっていることに少し安心した。
ユーハンでお祭りのような楽しさを満喫して、ユーハンの国境を出た。
次に到着したのは"トロイ"という、トロイ族が暮らす民家だ。
ここは冒険者Bランク以上でないと行けない場所で、危険さはあるが、戦い好きの冒険者には持ってこいの場所なのだ。
大きくない街だが、トロイ族の高質の戦力が、このトロイの街の平和を維持している。
その中でもトロイ族の長である"ダライ"がこの国で5本指に入るほど強いと、言われているほどの強さだ。
風雷の大太刀使いと名が通っている。ダライ殿背中には名の通り、背の高さと同じ程の大太刀が背負われている。
ダライ殿と戦い、勝ったり、認められたりすると、特別な試練が受けられるのだ。
「俺は、ダライ。ここの長を納めている男だ。」
「私はグレイリィ。これでも腕はたつ方だ。」
「それでは、両者構え!」
審判が合図するのと同時に、私は剣、ダライ殿は大太刀を構えるのだが、軽く振るだけで、土埃が立った。
「両者、はじめ!!」
はじめの合図と同時に、ダライ殿は大太刀を持っているとは思えないほどの速さで、大太刀を振りかざす。
「やるな、お嬢ちゃん。この俺とやり合えるなんて、久しぶりに全力が出せそう、だ!」
なんとか受け止めるが…なんて、力だ。重い。
「それはダライ殿、光栄でありますな。私もここからですぞ!!」
水飛沫が閃光と弾けて、風の激しい閃光が激しさをものがたる。
『頑張って、グレイリィの実力は、こんなんじゃないんだぞ!』
何度も交わしては、剣と大太刀が受け止め合う。長いようで短い戦いは、すぐに終わってしまう。
「これで、最後だ!お嬢ちゃん!!」
「光栄だ、来い!!」
「風雷大刃」
この技は、冒険者の間では、強力だと有名だ。私も少し魔力を強めに、剣へと流す。
「なら、私も。冰龍斬!!」
静けさの後…ドサッと音がしたのは。
「しょ、勝者…グレイリィ・ヴィラン!!」
「はぁ。危なかった。」
ーーーおぉーーっ!!
トロイ族のダライの教え子たちが観戦していて、勝利の雄叫びで盛り上げてくれた。
「いい戦いだった。これで負けたなら、俺は悔いがない。」
「ダライ殿こそ、素晴らしく力強い大太刀使いだった。」
『すごい!すごい!グレイリィもダライも!』
「ありがとう、ルゥ。」
ダライが振り翳す大太刀に何度吹き飛びそうになったことか。
「今宵はこの熱い戦いを祝して宴だ!グレイリィたちもどうだ?」
「是非!」
『ボクもダライのこと聞きたいなぁ!』
宴を開いてくれるというので、私はまず戦った汗や土を落とすべく、湯浴みをした。
「はぁ、生き返る。」
湯浴みというのは、疲れが吹き飛ぶな。
『すーい、すーい!』
ルゥは広い湯浴みで悠々と平泳ぎしている。
「ルゥ、他の人にぶつかるかよ」
『大丈夫だよ〜』
「グレイリィ様。」
突如声かけられたこの子は
「ダライ殿の長女だったかな?」
「はい。カナンと申します。父上にグレイリィ様のお世話をしろと命を大節かりました。」
「別に気を使わせるつもりなかったんだが、ダライ殿なりの気づかいなのだろう。わかった、お願いしよう。」
カナン殿に背中を洗って貰うことにした。カナン殿が使っている石鹸、花の香りがしてとてもいい香りだな。
「綺麗なお背中ですね。先程お父様と剣を交えてたとは思えないほど。」
「そうか、ありがとう。」
『カナン、カナン!ボクは、かっこいい?』
「ふふ。ルゥくんはかっこいい、ですよ?」
『わーい!グレイリィ、かっこいいだって!』
「良かったな、ルゥ。」
背中を流して貰ったあと、体と髪の水気を拭き取り。長い髪をカナイ殿とルゥに乾かすのを手伝って貰った。
「グレイリィ様の髪。艶々でお美しい、まるで天使の輪がかかっているようですね。」
『うん、ボクもグレイリィの髪好き!』
少し照れる様な話を私は聞き流して、カナン殿が用意してくれた、トロイ族の女服をお借りした。
「グレイリィ様のは、明日の朝お届けに参りますね。」
「ありがとう、カナン殿。」
「それでは、宴の会場へ参りましょう。」
カナン殿の後を追い、宴の会場に向かうとユーハンの時くらいの大きな焚き火。
その焚き火の前には、立派な牛の丸焼きだ。
「今年1番の巨牛ですぞ、是非、グレイリィ殿にはご満足頂きたい!」
「心遣い、感謝します。ダライ殿。」
「ルゥくんには、果物がいいかな?」
ユーハンに負けないくらい、美味しそうな立派な果物たちだ。
『わぁ!ありがとう、カナン!でもボクも牛さんが食べたいな〜!あんな大きいの初めてみたもん!!』
「ルゥ、頂くか。」
『いただきまーす!あむ!
すっごーい、こんな柔らかいお肉初めて!!』
ユーハンも、トロイも、みな栄えていて、独自の文化があって、少しリズのことを思い出してしまうな。
リズでは、大きな赤身の美味しい魚で、客人をもてなすのだ。その魚は捨てる部位がないていうほど凄い魚なのだ。
脂身のある部分でも、あっさりしているのだ。
「お気に召したかな、グレイリィとルゥよ」
「あぁ、ダライ殿、カナン殿。大変満足だ。」
宴の後、ダライ殿と浴びるようにお酒を飲んだ。
『グレイリィ、二日酔いにならないの?』
「私はそんなヤワじゃない」
『ダライは伸びてるよ?』
「そういう人もいるさ。」
ちびちびとカナンが尺してくれたのを口にする。
「ふふ。グレイリィ様、見かけによらずの豪酒なのですね!」
夜明け、ルゥは疲れて眠ってしまった。明日の昼から特別ミッションへダンジョンに行くのだ。
《波の子守唄》
「蒼い月、水面がゆらゆらと揺れている
その波は穏やかにささやき
女神様のヴェールに優しく抱かれて
疲れも痛みも、苦しみも、癒してくれるであろう。」
おやすみ、ルゥ。
……To be continued
こんにちわ。この作品を読んで頂きまして
ありがとうございます!!
今回のストーリーはいかがだったでしょうか?
3つの海街へ行き、出会いと別れを繰り返して
この先の旅路に、グレイリィとルゥはどう変化するのか、楽しみです!
次は茨の水没林へダンジョンに向かいます!
7話も引き続き楽しんで頂けたら、嬉しいです。
この作品を気に入って頂けましたら
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